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あれよあれよと連れてこられた源はこうして九州の地に降り立ったのだ。顔には不満をありありと表して。
「ほら、仕事なんですから少しは表情を整えなさい。」
傘が開く音が聞こえると狸塚は優雅に日傘の下に佇んでいる。顔が溶けたままの狸塚だけには言われたくない。そして、一人だけ日傘はずるい。
「私の肌は弱いので。」
源が何を訴えてきているのかが分かったのか、狸塚は白く狐の面のようなつるりとした自分の肌を指でなぞる。わざとらしい。
重い足取りで二人に付いていくと、日除けの屋根が途切れ、直射日光が源の後頭部に降り注ぐ。遠く、山の合間がゆらゆらと揺れている。南国っぽい木が等間隔に植っているが、熱過ぎて南国っぽさが台無しだと源は思った。
「源、早く来い。バスが出る。」
少し先のバス停に大きなバスが停まっていた。慈鳥は源を待つように乗降口に立っている。クーラーがある、きっとクーラーがガンガン効いている。そう思った瞬間に足が軽くなった。
急いで慈鳥の元へ行くと、一歩バスの中に足を踏み入れる。生き返る。顔や首、腕に感じる冷気に息が漏れた。
「ほらほら、早く座ってください。」
既に着席し、一人涼んでいる狸塚はパタパタと扇子で扇いでいた。顔が元に戻っている。源を待ってくれず、さっさとバスに乗り込んだ狸塚を恨めしく思い、じっと見据えるが本人はどこ吹く風だった。
「早く座れ、後ろがつかえている。」
振り返り見ると、確かに乗りたくても乗れない他の乗客たちが迷惑そうな顔を源に向けている。
そそくさと狸塚の横に座ると、せめてもの嫌がらせに体を密着するようにくっつけた。
「ちょ、やめなさい。暑苦しい。」
源の体を肩で押し返してくる。負けじと源も体重をかける。
「止めろ、迷惑だ。」
源と狸塚の前に座った慈鳥の地を這うような低い声に顔を見ていなくても怒っているのが分かった。源は姿勢を正した。狸塚も心なしか姿勢が真っ直ぐな気がする。
まるで源と狸塚の諍いが終わるのを待っていたかのように、扉が閉まるとゆっくりとバスが動き出した。お尻からエンジンの振動を感じながら大きくゆっくりとバスが曲がり、体が通路側に傾く。空港だからか、窓の外の広い駐車場には車が多く止まっていてそういえば今は世間的には夏休みなんだなとぼんやりと思った。
空港を抜け、しばらくするとポツンポツンと民家が並ぶ道を走る。高速道路の入り口に差し掛かると緑が増えていった。そして高速道路を走り出すと山々の間を抜けるように辺りは緑一色となる。
変わり映えのしない、つまらない風景に源の瞼は重くなる一方だ。しかも、エンジンの振動は眠りを誘う。なんとか起きていようと頑張るが時間が経つごとに逆らえなくなる。隣に視線を移すと狸塚はタブレットと睨めっこしていた。ここで声をかけたら十中八九、怒られる。
だから源は静かにするため、というこじつけに近い理由で寝ることにした。別に寝たくて寝るのではない。眉間に皺を寄せ、タブレットを見つめている狸塚を集中させてあげるために。決して、眠気に負けたわけじゃない。




