2.
私にはシャーリーという名の双子の妹がいる。
小柄で可憐、白雪姫も斯くやといった容姿で優しく思い遣りに溢れ、気配りもできて周囲を明るくする眩しい笑顔…瞳の色を除いた見た目以外私とは正反対の妹…。
シャーリーの瞳は日の光を浴びてキラキラ輝く海の色、私の瞳は日の光も届かない深海の色。
とはいっても全体的に私の色合いは暗い色…肌の色もシャーリーの方が白い。
私の髪の色はくすんだような色。
同じ顔だからいつも比べられ、誰もが彼女に惹かれ好きになる。
彼もそうだった。
彼…カーティスがシャーリーに告白して振られたなんて知らなかった。
だからあの時同じ顔をした私に声を掛けたの?
だから私を抱いたの?
だから私に愛を囁いたの?
だから…?
だから……?
あれもこれも思い出す彼の全てが嘘だったのだと思えてなかなか眠れずにいたら、部屋の中に日が射して徐々に明るくなっていく。
もうこんな時間…。
だけど今更眠れそうもない。
仕方なく顔を洗う為に洗面所へ行き鏡を見た。
そこに映っていたのは、泣きすぎて赤く腫れぼったくなった目をした私だった。
「…酷い顔。」
今日が仕事が休みの日で良かった。じゃなかったら、こんな酷い顔のまま出勤する事になっていただろう。
アイマスクの袋部分に冷却シートを入れ、ソファーに横になり目に宛がった。
眠れる訳も無く、色々な事を考えてしまう。
彼とこのまま何も無かったように交際を続けるか、それとも別れるか。
でも、いくら考えても結論は出なかった。
ピンポーン♪
ドアチャイムが鳴った。
誰だろう?
「…っ!?」
インターホンの操作パネルの所まで行きモニターを見ると彼だった。
「嘘っ!なんで!?」
部屋に入った事は無いけれど、何度か送って貰った事があったからこの部屋の事は知っていても不思議ではない。
止まっていた涙が溢れてきそうになり胸がズキッと痛む。
このまま居留守を使おうか?
そう思った。
このまま彼と顔を合わせたら、泣いて目が腫れているのを見られた上、きっとその理由を聞かれる。
それに彼を目の前にして、みっともなく泣いてしまうだろう。
もう一度チャイムが鳴った。
会いたくない!
咄嗟にそう思った私は、両耳を塞いでソファーまで走るとその上に横になり固く目をぎゅっと瞑った。
どのくらいそうしていただろうか。
今度はスマホの着信音が鳴る。
好きな曲で設定したその音で彼だとわかったが私がそれに出る事は無い。
もう…終わらせよう。
彼がユリアの名を言ったあの時、そうしていたらこんなにも苦しむ事は無かったのだ。
いや、それ以前に告白された時に身の程を弁えて断っていたら…。
今となっては後の祭でしかない。
それにシャーリーの変わりでもいいと思ったのは他の誰でもない私だ。
気付くと日が沈む時間になっていた。
泣きすぎた所為か喉が渇いた私は、重い体を引き摺るように台所へ行くとコップに水を入れて飲んだ。
心は深く暗い闇に捕らわれ絶望しかなかった。
私と妹のシャーリーは双子の姉妹(一卵性)として生を受けた。
何をするのも一緒で幼い頃は仲も良かった。
けれどいつの頃からか両親の私達姉妹への扱いが変わっていったように思う。
最初は気にも留めない小さな事だったのが年を追う毎に誕生日プレゼントに差が付いたり、両親の膝の上で甘える頻度だったり、私が話し掛けても相槌か頷だけだが、シャーリーが話し掛けると笑顔が飛び交い楽しそうに会話している事に気付いた。
そして思春期を迎える頃には、シャーリーが両親に話し掛けると柔やかに受け答えするのに私が話し掛けると嫌悪感を露わにしてくる上、あからさまにスルーされたりした。
更に、はじめは差が付いていた誕生日プレゼントも、シャーリーだけ貰って私の分は忘れられるようになったのだった。
そして今では存在しないかのような扱いに……。
それでも祖父母が健在な頃は、祖父母が気遣って私の分の誕生日プレゼントを用意してくれていた。が、その祖父母も二年前に他界してしまった。
「光も射さない深い海の底みたいな目を見るだけで暗い気分になるからこっちを見ないで。」
母が私に言った言葉。
隣にいた父も、そうだと言わんばかりにいつも頷いていた。
そして、シャーリーはその頃には両親の隣でニヤニヤ笑いながらそれを見てるようになっていた。
当然、周囲の私に対する態度も年を追う毎に同じように変化していったのだった。




