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時空の三連星 第2章 第4話

                 《時空の三連星》


第2章


第4話:釈迦に説法、あるいは愛の波動



無敵の陣形――《時空の三連星》として、

三つの魂が現世のシズの肉体へと結集した。

しかし、現世におけるハルの器は、まだ十五歳の華奢きゃしゃな中学生。


長姉である正妃シズは、ここ最近、

ハルの心身のケアや、いずれ再び王へ仕えるための「作法としつけ」、

そして高貴なる所作の教育に、深く頭を悩ませていた。

次姉であるアオイもまた、自らのメイド業務の合間を縫って、

ハルに武闘や気の置き方を叩き込もうと、心身の鍛錬を必死に手伝っている。


それは、二人の姉から妹への、厳しくも真剣な教育論であった。


そんな、ある日のこと。

シズの私室で繰り広げられる、厳しい指導の最中さなかのことだった。


「よろしいですか、ハル。王の前に立つということは……」


滔々(とうとう)と説くシズの言葉を、ハルは静かに聞いていた。

やがて、そのすべてを見透かしたような澄んだ瞳で、

ハルはただ、愛らしく、おっとりと微笑んだ。


「そうですね。心得ました、御姉様おねえさま方」


――その瞬間だった。

シズとアオイの背筋に、冷たい電流のようなものが走った。


今、ハルが口にした「そうですね」と言った「そうですか」ではないという声音。

それは、単に教えを請うだけの未熟な「」でも、

庇護ひごされるべき「彼女」でもない、絶対的な強者の響きだった。


二人は、迂闊うかつにも忘れていたのだ。

その可愛らしくも愛くるしい、華奢な少女の姿を見慣れてしまったせいで。

彼女の本質が、他人の精神の表裏を冷徹に解剖し尽くす

最高位の異能者――【人間精神洞察解析研究者】であるという事実を。


自分たちの底の浅い教育論や思惑など、ハルには最初からすべて見えていた。

二人は己の不遜ふそんを恥じた。

これではまさに、神仏に向かって教えを説くがごとき――

釈迦しゃかに説法》《仏陀に教えを説く》ではないか、と。



だが、ハルがその恐るべき頭脳で握っていた「ログ(記録)」は、

それだけではなかった。


ハルは、自室の「察知結界」と「洞察結界」越しに、

シズの私室のさらに奥――あの『精神思念領域』で行われていた、

シズとアオイの密やかな行為すらも、完全に観測し、解析していたのだ。


姉たちが自分を子供扱いして、必死に教育しようとしている裏で。

その姉たち自身が、あるじたる駿しゅんの情事の余韻よいんに当てられ、 狂おしい衝動に悶えながら、互いの熱を慰め合い、

「調律」し合っているという最高機密のすべてを。


十五歳の天才解析者は、姉たちの絶対的なヒエラルキーの裏側を、

無機質なデータとして、すべて淡々と脳内にストックしていたのである。



けれど。

すべてを見透かしているハルの心には、冷徹さなど微塵みじんもなかった。


幼くして実父母を亡くし、他人の家で育ち、

一人っ子として一瞬も気が休まることのなかった、孤独な現世の少女。

そんな彼女は今、シズから身体のケアや所作を学び、

アオイから過酷なまでの心身の鍛錬を課される日々に、

狂おしいほどの「歓喜」を覚えていた。


(――ああ、こんなに愛されて、嬉しい)


向けられる厳しさは、すべて自分を想う姉たちの、

濃密で純粋なエネルギー(愛)の波動そのものだったから。


すべての秘密を握り、姉たちを凌駕りょうがする怪物の顔を持ちながらも。

ハルはようやく得られた「心から頼れる、気のおける本物の姉妹」の温もりに、

ただただ深く、幸福に満たされていくのだった。


 (第2章) 【完結】         (第3章へ続く)



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