正式決定なのに
レオ・アストレアが正式にルヴェリア王国へ滞在することが決まったのは、
顔合わせから一ヶ月後のことだった。
婚約を正式に進めるため。
そして両国の友好をより深めるため。
名目としてはそう説明されたが、実際には“未来の王配”としての適性を見る意味合いも強いのだろう。
滞在期間は——半年。
「……半年?」
アリアは珍しく聞き返した。
王座の間。
国王の前だというのに、ほんの僅かに声が揺らぐ。
「そうだ」
国王は淡々と頷く。
「アストレア側も本気でこの婚約を進めるつもりらしい。レオ皇子には王城で生活してもらう」
「はい」
アリアは静かに返した。
完璧な声音。
完璧な表情。
誰が見ても、いつもの“氷の王女様”。
——だったのだが。
(半年……?)
内心では別の意味で混乱していた。
婚約者。
未来の伴侶。
そういう関係なら、普通は正式な婚約後、そのまま結婚へ向かうものではないのだろうか。
なのに、なぜ“半年”という期限付きなのか。
まるで——
“様子見”みたいではないか。
(もしかして……)
そこまで考えて、アリアははっとする。
レオ本人が望んだわけではなく、アストレア帝国側が、
“ルヴェリア王国の王女に本当に価値があるか”見極めようとしている可能性もある。
あるいは逆に、こちら側が未来の王配として相応しいか試しているのか。
どちらにせよ。
これは、まだ完全な婚約ではない。
いつでも白紙になり得る関係なのだ。
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
「アリア、滞在中、お前には皇子の案内役を務めてもらう」
「……わたくしが?」
「婚約者なのだから当然だ」
当然。
確かにその通りだ。
けれど。
(半年も……毎日……)
先程とは別の意味で、胸が苦しくなる。
あの優しい微笑みを。
金色の瞳を。
落ち着いた声を。
毎日のように向けられるのだと思うと、平静でいられる気がしなかった。
「承知いたしました」
王女として、完璧に。
そうして謁見を終え、自室へ戻った瞬間。
「ルエナ」
「はい」
「どうしましょう」
本日珍しく、アリアはルエナに対して真顔だった。
「何がです?」
「半年よ」
「はい?」
「半年も毎日顔を合わせるのよ」
「その話ですか。婚約者ですからね」
「でも半年なのよ!?」
思わず声が大きくなる。ルエナはぱちぱちと瞬きをした。
アリアは小さく眉を寄せる。
「婚約者なのに、どうして期限があるのかしら……」
「……ああ」
ルエナもそこで、ようやくアリアが気にしている点を理解した。
「様子見期間、という意味合いもあるのでしょうね」
「やはりそう思う?」
「普通に考えれば」
ルエナは慎重に言葉を選ぶ。
「敵国同士の婚約ですから。お互い、本当に信用できる相手なのか見極めたいのでしょう」
「……そう」
アリアは静かに目を伏せた。
頭では理解している。
けれど。なぜだろう。
“半年後には終わるかもしれない”
そう思った瞬間、妙に寂しい気持ちになった。
「アリア様?」
「……なんでもないわ」
慌てて首を振る。
だが、またもやルエナは少しだけ目を細めた。
勘がいい侍女ルエナ。
——これは想像以上に重症かもしれない。
そんなことを思いながら…




