Side story
寝台に入っても、何度寝返りを打っても、妙に目が冴えてしまう。
「……」
静かな部屋。
窓の外では、淡い月明かりが雪を照らしていた。
アリアは小さく息を吐き、寝台の傍に置かれていた一冊の本へ手を伸ばす。
”運命の糸”
眠れない夜には丁度いい。
そう思ってページを開いたのに——
「……だめだわ」
全然内容が頭に入ってこない。
本に書かれているのは、冷酷だと噂される皇子が、ヒロインにだけ優しくする有名な場面。
普段なら胸をときめかせながら読むはずなのに。
今日は違った。
皇子の台詞を読むたび、レオの声で脳内再生されるのだ。
『無理などしなくてよい』
『私がいつでもあなたのそばにいる』
『もう離したくない』
「〜〜っ……!」
アリアは勢いよく本を閉じ、そのまま顔を覆った。
今日のレオを思い出すだけで、さらに胸の奥が熱くなる。
「あんなの……反則でしょう……」
優しい声。穏やかな微笑み。
真っ直ぐこちらを見る金色の瞳。
しかも、距離が近かった。
思い返せば返すほど、顔が熱くなっていく。
「やはり、ルエナが言う通り絶対変だったわ……」
ルエナには言えなかったが、自覚していることもあった。
視線を逸らしてしまったことも、きっと気づかれていた。
そう思うと、急な羞恥で消えてしまいたくなる。
だがレオが最後に見せた、あの優しげな表情を思い出してしまう。
「……」
胸がまた、どくん、と鳴った。
その時。
こんこん、と控えめに扉が叩かれる。
「アリア様?まだ起きていらっしゃるのですか?」
ルエナだった。
アリアは慌てて本を隠す。
「ね、寝ているわ!」
「返事してますけど」
「……」
「まさかまたレオ皇子のこと考えてました?」
「考えていないわ!!」
即答だった。
だが、扉の向こうで、ルエナが深いため息を吐いた気配がした。
「アリア様、重症ですね〜…」
第一章完




