専属侍女ルエナ
色々と話を詰めた後、
レオ率いるアストレア帝国の使節団は王城を後にした。
見送りを終えたアリアもまた、自室へ戻る。
そして——
部屋の扉が閉まった瞬間。
「……」
じとり、と。
専属侍女ルエナの視線が突き刺さった。
その顔には、“言いたいことがあります”と大きく書いてある。
いや、むしろ少し怒っているのではないだろうか。
アリアは恐る恐る口を開いた。
「……なにかしら、ルエナ」
「アリア様!!!!」
びしっ、と勢いよく指を差される。
「先程の態度はなんですか!!いくらお相手がイケメンだからって!!」
「うっ……」
図星だった。アリアは思わず視線を逸らす。
「……ごめんなさい。それは反省しているわ」
「本当ですか!?」
「ほ、本当よ……!」
だが、そこでアリアは小さく眉を下げた。
「でも……」
「でも、なんですか」すかさず遮るルエナ。
アリアは困ったように肩を落とす。
「……ルエナも知っているでしょう?わたくし、男性と話すのが苦手なの」
その言葉に、ルエナはぴたりと口を閉ざした。
アリアは、これまで一度も恋をしたことがない。
異性とまともに接する機会も、ほとんどなかった。
国王である父が、余計な噂や情に流されることを嫌ったからだ。
幼い頃から、必要以上に男性と関わらないよう育てられてきた。
異性に関することもすべて本で学び、実際にこんなに会話したのは今日が初めてだった。
「しかも、、とても似ているの!わたくしが今愛読している”運命の糸”の皇子に…」
とボソボソと話すアリア。
「ですから!それは男性経験がないアリア様のために少しでも慣れるようにと思い
ご準備したのに逆効果だったとは。。。」
まさか自分が渡していた小説のせいで、こんなことを招くと思っていなかった。
がくりと肩を落とルエナ。
そんな彼女を見て、アリアは少しだけ申し訳なくなった。
だがその後。
「いいですか?アリア様」
始まってしまった。るえなのお説教タイム。
「小さい頃からお仕えしている身としては、非常に心配なんですからね!?」
「はい……」
「顔を見ただけで固まるなんて論外です!しかも耳まで赤くして!」
「うぅ……」
「氷の王女様はどこへ行ったんですか!」
それから小一時間。
アリアは大人しく説教を受け続けた。
ルエナは、幼い頃からずっと自分の傍にいてくれた人だ。
父に“感情を見せるな”と言われ、泣くことも笑うことも我慢していた頃。
誰にも弱音を吐けなかった自分に、そっと寄り添ってくれた。
『アリア様。国王様の言いつけは絶対です。
ですが、こんなにつらそうなアリア様を見るのは苦しいです』
『ですから、せめて私の前だけでも。昔のように笑ってくださいませ』
あの日。
幼いアリアは、ルエナの胸の中で声を上げて泣いた。
どれほど救われたかわからない。
それ以来、ルエナの前でだけは、素直な自分でいられるようになった。
笑って、泣いて、甘えることもできた。
だからこそ、アリアは今も彼女を信頼している。
「……今日のことは反省しているわ」小さく呟く。
「次は、あんなふうにならないよう気をつける」
するとルエナは、ふう、と小さくため息を吐いた。
「まったく!お願いしますよ。
婚約者とはいえ、まだ信用していいお方かも分からないのですから」
その言葉に、アリアはふと今日のレオを思い出す。
優しい微笑み、穏やかな声。
まっすぐ見つめてくる、金色の瞳。
胸がまた、どくん、と鳴った。
「……アリア様?」
「な、なんでもないわ」
その夜、アリアはなぜかいつものように眠ることができなかった。




