襲撃
歓迎舞踏会から三日が過ぎた。
レオは王都郊外にある騎士団訓練場を訪れていた。
ルヴェリア王国の騎士たちがどのように鍛錬を行っているのか、自ら見学を希望したのだ。
一緒に同行しているのはアルヴィン。
訓練場を見渡しながらアルヴィンが言う。
「本当に熱心ですね。普通なら、こうした視察は形式的なものになりがちですが」
レオは小さく笑いながら言う。
「気になるのです」
「何がですか?」
「国を守る者たちを知ることは、その国を知ることでもありますから」
アルヴィンは少しだけ目を見開きなるほどと答えた。
訓練場では模擬戦が行われていた。
剣戟の音。
飛び交う掛け声。
雪を踏みしめる音。
騎士たちの動きを見つめるレオの表情は真剣そのものだった。
「どう思われますか?」
騎士団長が尋ねる。
レオは少し考えた後、答えた。
「非常に練度が高いですね」
騎士団長が嬉しそうに笑う。
だが次の言葉で表情が変わった。
「ただ」
「ただ?」
「第三隊と第五隊の連携に僅かな隙があります」
その場が静まり返った。
レオは淡々と続ける。
「先程の模擬戦でも、左側面が二度空いていました」
騎士団長が思わずアルヴィンを見る。
アルヴィンも驚いていた。
確かにその通りだった。
だが普通は一度見ただけで気付けない。
「さすがですな」
騎士団長が苦笑する。
レオは首を振った。
「職業病のようなものです」
その返答に周囲から小さな笑いが漏れた。
視察を終える頃には、日も傾き始めていた。
帰り道。
雪の残る森道を馬車が進んでいた。
馬車の中にはレオとアルヴィン。
護衛騎士たちが周囲を固めている。
「本日はありがとうございました」
アルヴィンが言う。
「こちらこそ。とても有意義な時間でした」
レオも微笑む。
穏やかな空気だった。
その時。
ふと、レオの視線が窓の外へ向いた。
「止まってください」
今までになく低い声だった。
アルヴィンが顔を上げる。
「どうかしましたか?」
返事はない。
レオは窓の外を見つめている。
金色の瞳が細められた。
次の瞬間。
ヒュン―――!!
鋭い風切り音。
ドガァン!!
馬車の扉へ一本の矢が突き刺さった。
木片が飛び散り、馬が嘶いた。
馬車が大きく揺れる。
「敵襲!!」
護衛騎士が叫ぶ。
一瞬で緊張が走った。
騎士たちが剣を抜く。
周囲を警戒する声が飛び交う。
アルヴィンも反射的に腰の剣へ手を掛けた。
その隣で、レオだけが異様なほど落ち着いていた。
「レオ皇子、馬車から出ないでください!」
護衛騎士が叫ぶ。
しかし、レオは既に馬車の扉へ手を掛けていた。
「レオ皇子!?」
アルヴィンが思わず声を上げる。
だがレオは振り返らず、静かに外へ出る。
冷たい風が吹き付けた。
雪の積もる森。
騎士たちが周囲を警戒している。
その中で、レオは真っ直ぐある方向を見ていた。
「右前方」と一言。
アルヴィンが目を凝らすが、何も見えない。
「二人」
その言葉に護衛騎士たちが息を呑んだ。
どこだ。
そう思った瞬間。
森の奥で枝が揺れる。
「っ!」
本当にいた。
黒い軍服を纏った人影が二つ。
レオは雪を蹴ってその影の方へ走り出す。
「レオ皇子!!」
制止の声を置き去りにして、黒髪の皇子は一直線に森へ駆け出す。
その速度にアルヴィンの目が見開かれた。
想像以上の速さだった。
「護衛は私が率いる、追うぞ!」
アルヴィンも剣を抜く。
騎士たちが一斉に駆け出した。
雪を巻き上げながら、逃げる刺客。
追う皇子、そして騎士たち。
静かな森は一瞬で戦場へ変わった。




