嫉妬
歓迎舞踏会は続いていた。
レオが反対派貴族の質問を見事に切り返したことで、会場の空気は少し変わっていた。
先ほどまで様子を窺っていた者たちも、今では興味深そうにレオへ視線を向けている。
そして——
当然ながら。若い令嬢たちも。
「レオ皇子殿下」
「先ほどのお話、とても感銘を受けましたわ」
「ぜひレオ皇子の帝国のお話も聞かせていただきたいです」
気付けば数人の令嬢たちがレオを囲んでいた。
皆、美しく着飾っている。
レオはいつも通り穏やかに応じていた。
「ありがとうございます」
「アストレアにも美しい場所は多くありますよ」
優しい笑顔。
柔らかな声。
誰に対しても丁寧な態度。
令嬢たちはうっとりしている。
そして少し離れた場所では。
「……」
アリアが無言になっていた。
「アリア様?」ルエナが呼ぶ。
返事がない。
「アリア様?」
「聞こえているわ」
聞こえてはいたらしい。
だが視線はずっと同じ方向だった。
もちろん、レオの方。
「楽しそうね」
ぽつり。
「はい?」
ルエナは聞き返した。
「だから」
アリアはワイングラスへ視線を落とす。
「楽しそうだと思っただけよ」
「誰がですか?」
「レオ皇子が」
ルエナはすぐ理解した。
一方その頃。
「皇子殿下は婚約者である王女殿下をどう思われているのですか?」
令嬢の一人が大胆な質問をした。
周囲も興味津々だ。
レオは少しだけ考える。
「尊敬しており、とても聡明な方です」
そう答えた。
令嬢たちは少し残念そうな顔をした。
もっと嫌な話を期待していたのだろうか。
その会話の一部は。
しっかりアリアにも聞こえていた。
尊敬
その言葉が引っ掛かる。
婚約者なのだから当然なのかもしれない。
それなのに、なぜだろうか。
胸の奥が少しだけもやもやした。
「……」
アリアは視線を逸らした。
何もおかしくない。
婚約は国同士のためのものだ。
レオが誰と話そうと自由だし、令嬢たちに囲まれようと関係ない。
関係ないはずなのに。
面白くなかった。
「アリア様」
隣でルエナがにこにこしている。
「なにかしら」
「嫉妬ですか?」
「違うわ」
「ではなぜレオ皇子を何度も見ているんですか?」
「見ていないわ」
「見ていました」
「見ていない」
「見ていました」
「……」
黙るアリア。
これは完全に嫉妬であるとルエナは確信した。
アリア本人だけが気付いていない。
その時だった。
「アリア王女」
聞き慣れた声で呼ばれた。
振り返ると、そこにはレオが立っていた。
いつの間に令嬢たちの輪を抜けてきたのだろう。
「少しお時間をいただいても?」
アリアは瞬きをする。
「わたくしに?」
「婚約者ですから」
さらりと言われた。
どくん、また心臓が跳ねる。
少し前まで胸の中にあった、あのもやもやが、嘘みたいに消えている。




