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氷の王女様の正体は皇太子様への恋に限界化した乙女でした  作者: みかん
第三章

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17/22

歓迎舞踏会


レオのルヴェリア滞在が始まってから初めて公に行うお披露目会。

今夜、アストレア帝国の皇子を歓迎する舞踏会が開かれる。

王国中の有力貴族が集まる大規模な宴。


表向きは歓迎。


だが実際には——。


「品定め、でしょうね」

鏡の前で髪を整えながら、アリアはぽつりと呟いた。

ルエナは苦笑する。


「否定はできませんね」


レオ・アストレア。

未来の王配候補。

この国の貴族たちは、今夜その人物を自分の目で確かめるつもりなのだろう。


「大変そうだわ」

アリアは少しだけ同情した。


するとルエナがじっと見てくる。

「アリア様なんですか、その顔は」


「いえ別に」


絶対に何か思っている顔と思うルエナだった。


---


夜。


王城の大広間。


無数のシャンデリアが煌めき、華やかな音楽が流れる。


着飾った貴族たち。

色鮮やかなドレス。

磨き上げられた大理石。

まさに王国最大級の社交の場だった。


アリアは王族席の近くに立ちながら周囲を見渡す。


ざわり、と空気が揺れた。


視線の先。

大広間へ一人の青年が入ってくる。


黒髪。

金色の瞳。

漆黒の礼装。


レオだった。


その姿を見た瞬間。

会場中の視線が集まり、ひそひそ話す人々。


『敵国とはいえ、本当に素敵よね』

『あの腕に抱かれてみたいわ』

『一緒に踊りたいわ』


令嬢たちがうっとりしている。

遠巻きに聞こえた会話に密かに混ざりたいと思うアリア。


本当に今日もとても素敵だと。

だが、慌てて思考を打ち消す。

こんな場所で何を考えているのだろう。


しかし。


「今日の正装姿も素敵ですねぇ」

いつの間にか隣へ来ていたルエナが囁く。


「…」


この王女は大丈夫なのかと思うエルナ。


---


舞踏会は穏やかに進んでいた。

最初のうちは。


「皇子殿下」


一人の伯爵がレオへ声を掛ける。

「ルヴェリアはいかがですかな」


「美しい国だと思います」


「ほう」伯爵は笑う。

だがその目は笑っていない。


「敵国だったとは思えぬほどに?」

周囲が静かになった。

アリアの眉が僅かに動く。


遠回しな挑発だった。

だがレオは表情を変えない。


「敵国だったからこそ、そう思うのかもしれません」

軽やかな返答。

伯爵も一瞬言葉に詰まる。


しかし、別の貴族が続く。


「和平とは素晴らしいものですな」


「ええ」


「ですが我々としては、少々不安もありまして」

レオは黙って聞いている。


「王配という立場は非常に重要です」


「その通りです」


「だからこそ、自国の者が務めるべきだと考える者もおります」


ざわり。会場の空気が変わった。

言ってしまった。

誰もがそう思った。


婚約反対派。


ついに表へ出てきたのだ。


---


アリアは静かに拳を握る。

本来なら口を挟まない。

王女として感情を見せるべきではない。


だが。

目の前でレオが責められている。


しかも。

何もしていないのに。


(……どうして)


胸の奥が少しだけ痛んだ。

その時だった。


「それは興味深いですね」

レオが微笑む。

怒っている様子はない。


「ではお聞きしても?」

貴族たちが顔を上げる。


レオは言葉を続ける。

「王配に必要な条件とは何でしょう」


誰もすぐには答えられなかった。


「生まれでしょうか」


「家柄でしょうか」


「それとも国籍でしょうか」


静かな声。

会場はレオの声を聞き入っていた。


「私自身は違うと思っています」

金色の瞳が真っ直ぐ前を向く。


「国を愛し」


「民を守り」


「王を支える」


「それができるなら、まず問われるべきはその人物自身ではないでしょうか」


誰も反論できない。

感情論ではなく。

理屈で返されたからだ。

しかも礼を失していない。


完璧だった。


---


その様子を見ていたアルヴィンは内心感心していた。


(見事だな)


敵意を向けられたのに怒らない。

言い返しもしない。

相手の面子まで潰していない。


満点に近い回答を大勢の前で堂々と話すレオ。

若くして帝国の次代を担う理由が分かる気がした。


---


そして。

アリアもまた。

レオから目が離せなかった。


(やっぱり……)


優しいだけではない。


賢くて。

強くて。

誇り高い。

胸がまた熱くなる。


すると、不意に。

レオがこちらを見た。


目が合う。


どくん。

心臓が跳ねる。


レオがほんの少しだけ微笑んだ。


まるで。


「大丈夫です」


そう伝えるように。


「――っ」


アリアは慌てて視線を逸らしてしまった。


その様子を見ていたルエナは、


(重症ですね)

と、心の中で呟いた。




一方。

少し離れた場所では。


ヴァルディア侯爵が静かにグラスを傾けていた。


歓迎舞踏会。


その本当の目的は終わった。


レオ・アストレア。


敵か味方か。

どれほど厄介な男なのか。


反対派の貴族たちは今夜、嫌というほど理解しただろう。


老侯爵は細く目を細める。

誰にも聞こえない声で呟く。


「次はどう動きますかな」


舞踏会の音楽は、まだ続いていた。


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