歓迎舞踏会
レオのルヴェリア滞在が始まってから初めて公に行うお披露目会。
今夜、アストレア帝国の皇子を歓迎する舞踏会が開かれる。
王国中の有力貴族が集まる大規模な宴。
表向きは歓迎。
だが実際には——。
「品定め、でしょうね」
鏡の前で髪を整えながら、アリアはぽつりと呟いた。
ルエナは苦笑する。
「否定はできませんね」
レオ・アストレア。
未来の王配候補。
この国の貴族たちは、今夜その人物を自分の目で確かめるつもりなのだろう。
「大変そうだわ」
アリアは少しだけ同情した。
するとルエナがじっと見てくる。
「アリア様なんですか、その顔は」
「いえ別に」
絶対に何か思っている顔と思うルエナだった。
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夜。
王城の大広間。
無数のシャンデリアが煌めき、華やかな音楽が流れる。
着飾った貴族たち。
色鮮やかなドレス。
磨き上げられた大理石。
まさに王国最大級の社交の場だった。
アリアは王族席の近くに立ちながら周囲を見渡す。
ざわり、と空気が揺れた。
視線の先。
大広間へ一人の青年が入ってくる。
黒髪。
金色の瞳。
漆黒の礼装。
レオだった。
その姿を見た瞬間。
会場中の視線が集まり、ひそひそ話す人々。
『敵国とはいえ、本当に素敵よね』
『あの腕に抱かれてみたいわ』
『一緒に踊りたいわ』
令嬢たちがうっとりしている。
遠巻きに聞こえた会話に密かに混ざりたいと思うアリア。
本当に今日もとても素敵だと。
だが、慌てて思考を打ち消す。
こんな場所で何を考えているのだろう。
しかし。
「今日の正装姿も素敵ですねぇ」
いつの間にか隣へ来ていたルエナが囁く。
「…」
この王女は大丈夫なのかと思うエルナ。
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舞踏会は穏やかに進んでいた。
最初のうちは。
「皇子殿下」
一人の伯爵がレオへ声を掛ける。
「ルヴェリアはいかがですかな」
「美しい国だと思います」
「ほう」伯爵は笑う。
だがその目は笑っていない。
「敵国だったとは思えぬほどに?」
周囲が静かになった。
アリアの眉が僅かに動く。
遠回しな挑発だった。
だがレオは表情を変えない。
「敵国だったからこそ、そう思うのかもしれません」
軽やかな返答。
伯爵も一瞬言葉に詰まる。
しかし、別の貴族が続く。
「和平とは素晴らしいものですな」
「ええ」
「ですが我々としては、少々不安もありまして」
レオは黙って聞いている。
「王配という立場は非常に重要です」
「その通りです」
「だからこそ、自国の者が務めるべきだと考える者もおります」
ざわり。会場の空気が変わった。
言ってしまった。
誰もがそう思った。
婚約反対派。
ついに表へ出てきたのだ。
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アリアは静かに拳を握る。
本来なら口を挟まない。
王女として感情を見せるべきではない。
だが。
目の前でレオが責められている。
しかも。
何もしていないのに。
(……どうして)
胸の奥が少しだけ痛んだ。
その時だった。
「それは興味深いですね」
レオが微笑む。
怒っている様子はない。
「ではお聞きしても?」
貴族たちが顔を上げる。
レオは言葉を続ける。
「王配に必要な条件とは何でしょう」
誰もすぐには答えられなかった。
「生まれでしょうか」
「家柄でしょうか」
「それとも国籍でしょうか」
静かな声。
会場はレオの声を聞き入っていた。
「私自身は違うと思っています」
金色の瞳が真っ直ぐ前を向く。
「国を愛し」
「民を守り」
「王を支える」
「それができるなら、まず問われるべきはその人物自身ではないでしょうか」
誰も反論できない。
感情論ではなく。
理屈で返されたからだ。
しかも礼を失していない。
完璧だった。
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その様子を見ていたアルヴィンは内心感心していた。
(見事だな)
敵意を向けられたのに怒らない。
言い返しもしない。
相手の面子まで潰していない。
満点に近い回答を大勢の前で堂々と話すレオ。
若くして帝国の次代を担う理由が分かる気がした。
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そして。
アリアもまた。
レオから目が離せなかった。
(やっぱり……)
優しいだけではない。
賢くて。
強くて。
誇り高い。
胸がまた熱くなる。
すると、不意に。
レオがこちらを見た。
目が合う。
どくん。
心臓が跳ねる。
レオがほんの少しだけ微笑んだ。
まるで。
「大丈夫です」
そう伝えるように。
「――っ」
アリアは慌てて視線を逸らしてしまった。
その様子を見ていたルエナは、
(重症ですね)
と、心の中で呟いた。
一方。
少し離れた場所では。
ヴァルディア侯爵が静かにグラスを傾けていた。
歓迎舞踏会。
その本当の目的は終わった。
レオ・アストレア。
敵か味方か。
どれほど厄介な男なのか。
反対派の貴族たちは今夜、嫌というほど理解しただろう。
老侯爵は細く目を細める。
誰にも聞こえない声で呟く。
「次はどう動きますかな」
舞踏会の音楽は、まだ続いていた。




