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氷の王女様の正体は皇太子様への恋に限界化した乙女でした  作者: みかん
第三章

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誘い


応接室での顔合わせを終えた後。

アルヴィンは一人、王城の廊下を歩いていた。


今日初めて会ったレオ皇子。

そしてアリア王女。

どちらも噂とは違う人物だった。


特にアリア王女は——。


氷の王女様。

そんな呼び名から想像していた人物とはまるで違う感じがした。


凛としていて、聡明で。

どこか近寄り難い雰囲気はあるものの、不必要に他人を拒絶するような人ではなかった。


(さすがは王女殿下だな)


そう思った時だった。


「アルヴィン殿」

背後から声が掛かる。

振り返ると、そこにはヴァルディア侯爵が立っていた。


「ヴァルディア侯爵どうかなさいましたか」


「少々お時間をいただけますかな」

穏やかな笑みだった。


断る理由もなく、アルヴィンは頷いた。


---


案内されたのは王城の一室だった。

暖炉には火が灯され、室内は暖かい。

向かい合って腰を下ろす。


すると侯爵は早々に口を開いた。


「本日は引き受けていただき、感謝しております」


「レオ皇子の補佐の件ですか?」


「ええ」

侯爵は頷く。

そして何気ない調子で続けた。


「実は、陛下へアルヴィン殿を推薦したのは私なのです」

アルヴィンは少し驚いた。


「侯爵が?」


「はい」


侯爵は当然のように微笑む。


「若く優秀で、王国への忠誠も厚い、

レオ皇子の滞在を支えるには最適な人物だと思いましてな」


なるほどと、アルヴィンは納得した。

確かに王国側と帝国側の橋渡し役は必要だろう。

自分が選ばれた理由も理解できる。


「その期待に応えられるよう努めます」

そう答えると、侯爵は満足そうに頷いた。


「アルヴィン殿ならそう言ってくださると思いました」

そして紅茶を一口飲み、ふと視線を向ける。


「ところで」

その声音が少し変わった。


「アリア王女殿下をどう思われましたかな」


唐突な質問だった。


アルヴィンは少し考える。


「素晴らしい方だと思います。噂だけでは分からないこともありますから。

 実際にお会いして、よりそう感じました」


侯爵は静かに頷く。


「やはりそう思われますか」


「ええ」


「でしたら——」

そこで侯爵は意味深に微笑んだ。


「王配になるおつもりはございませんかな」

アルヴィンは意味がわからず固まった。


流れる沈黙。


「……何を仰っているのです?」

思わず聞き返していた。

侯爵は動じない。


「そのままの意味です」


「王女殿下には婚約者がおられます」


「敵国の皇子ですな」

アルヴィンの眉が僅かに寄る。

侯爵は続けた。


「私は王国の未来を案じているだけです。

 アストレア帝国を信用できますかな?」

「王配とは、いずれ王を支える重要な存在」

「その立場を他国の人間へ委ねることに、不安を覚える者も少なくありません」


つらつらと話すヴァルディア侯爵。


アルヴィンは静かに息を吐いた。

そして真っ直ぐ侯爵を見る。


「失礼ですが」

穏やかな声で伝える。

だがその言葉には、はっきりとした意思があった。


「王女殿下は物ではありません」

侯爵の目が細められる。


「誰と生涯を共にするかは、ご本人がお決めになることです。

 私が口を挟む話ではないでしょう」

さらに続ける。


「ましてや、婚約者がおられる今そのようなお話をするべきではありません」

部屋が静まり返った。


やがて、ヴァルディア侯爵は小さく笑った。


「まじめなお方だ。本日の話は忘れてください」


「最初からそのつもりです」

その返事に、侯爵は声を上げて笑う。


「これは失礼しましたな」


アルヴィンは立ち上がり、一礼する。


「では、失礼いたします」

そうして部屋を後にした。


---


扉が閉まり、室内にはヴァルディア侯爵だけが残った。

老侯爵は窓の外を見つめる。

静かに降る雪。


そして小さく呟いた。


「若いのぉ」


アルヴィン・クロフォード。

誠実で真面目な青年。

王国を愛し、王女を敬い、正しいことを貫こうとする男。


だからこそ選んだ。

レオ皇子の補佐役として。

そして——アリア王女の傍に置く者として。


侯爵は薄く笑う。

今はまだ、その気がなくとも構わない。

人の心は変わる。


特に若者の心など、ほんの些細なきっかけで。


「さてと」

老侯爵は紅茶を手に取る。


「いつまでその正論を貫けますかな」


その呟きは誰にも届かなかった。


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