自覚??
その夜。
アリアは、自室でぼんやりと窓の外を見つめていた。
あいかわらず、雪が降っている。
静かな夜だった。
なのに、自分の胸の内だけが妙に騒がしい。
「……」
脳裏に浮かぶのは、今日の出来事ばかりだった。
吹雪の中、荷車を持ち上げていたレオ。
困っていた親子へ自然に手を差し伸べる姿。
雪まみれになりながらも、まるで当然のように人を助ける姿。
今まで耳にしていた“冷酷な皇子”という噂とは、まるで違っていた。
そして、、
ルエナから聞かされた、あの時の反応も忘れられない。
レオが少し驚いたような顔だったと。
どくん、と胸が鳴る。
「……っ」
アリアは慌てて胸元を押さえた。
おかしい。
最近ずっとこうだ。何かの病気にでもかかったのか。
レオのことを考えるだけで落ち着かない。
目が合うと心臓が跳ねる。
声を聞くと意識してしまう。
しかも、今日は彼が無事に戻ってきたことに安心している自分までいた。
(どうして……)
わからない。
わからないけれど、この感情には覚えがあった。
アリアははっとしたように顔を上げると、寝台脇に積まれていたいつもの本へ手を伸ばした。
『運命の糸』
最近ずっと読んでいる恋愛小説。
ぱらぱらとページを捲る。
そして、ある一文で指が止まった。
『気づけばその人のことばかり考えてしまう』
どくん。
『無事でいてほしいと願ってしまう』
どくん。
『目が合うだけで胸が高鳴る』
「…………」
アリアは静かに本を閉じた。
沈黙。
数秒。
そして。
「……ルエナ」
「はい」
すぐ近くから返事が返ってくる。
夜の支度をしていたルエナが、不思議そうにこちらを見た。
アリアは恐ろしく真面目な顔をしていた。
「……わたくし、多分」
「はい」
「レオ皇子のことを考えると、胸が苦しいの」
「はい」
「声を聞くと落ち着かないし、目が合うと駄目で、無事か気になってしまって……」
「はい」
「これ、本によると」
アリアはそこで一度言葉を止める。
そして、ものすごく深刻そうな顔で告げた。
「——恋らしいのだけれど」
「今さらですか!?」
ルエナの盛大なツッコミが部屋に響いた。
アリアがびくっと肩を揺らす。
「や、やっぱりそうなの……!?」
「むしろ今まで気づいてなかったんですか!?」
「だって経験がないもの!!」
アリアは半ば涙目だった。
「こんなに落ち着かなくなるなんて知らなかったのよ……!」
ルエナは思わず額を押さえる。
ここまで恋愛耐性がないとは。
だが、アリアは本気で混乱しているらしい。
「本には、“好きな相手には優しくしたくなる”って書いてあったわ……」
「はい」
「なのにわたくし、レオ皇子に冷たくしてしまっているのだけれど……」
「国王様のお教えもございますし……、
それに、あまりにも意識しすぎておられるゆえでしょう」
「……なるほど」
アリアは真剣に頷いた。
ルエナの見解に納得してしまった。
「どうしましょう……」
ぽつり、と。
珍しく弱々しい声が零れる。
「半年後には、婚約自体なくなるかもしれないのに」
その言葉に、ルエナは少しだけ目を細めた。
先程までの慌てぶりとは違う。
今のアリアの声は、どこか不安そうだった。
アリアはぎゅっと『運命の糸』を抱きしめる。
今日知ったばかりだった。
自分がレオ・アストレアに恋をしていることを。
そして同時に知ってしまった。
恋とは、幸せなだけの感情ではないのだと。
胸が温かくなるほど嬉しいのに。
同じくらい、不安で苦しい。
——半年後。
もしこの婚約がなくなってしまったら。
その時、自分はどうなるのだろう。




