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氷の王女様の正体は皇太子様への恋に限界化した乙女でした  作者: みかん
第二章

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距離の取り方


レオ・アストレアがルヴェリア王国へ正式滞在してから、数日が経った。


敵国の第一皇子。

未来の王配候補。

そして、半年後には婚約そのものが白紙になる可能性もある存在。


誰もがレオを観察していた。


——もちろん。

アリアも。


「アリア王女」

低く落ち着いた声。

中庭での視察中、隣を歩いていたレオが静かに声を掛けてくる。


「この後の予定ですが——」


「後ほど書類にまとめてお渡しいたします」

即答するアリア。


レオが僅かに瞬きをする。

「……そうですか」


「はい」

会話終了。


沈黙が落ちる。

後方を歩いていたルエナが、そっと遠い目をした。


数日前。

“半年も一緒なんて無理”と頭を抱えていた人物とは思えないほど、今のアリアは完璧だった。


完璧すぎるほどに、冷たい。

必要最低限しか話さない。

視線も合わせない。

表情も崩さない。


まさに、社交界で噂される“氷の王女様”そのもの。


だが——


(なんて素敵なお顔なの…眩しい)


内心では全くそんなことはなかった。


近い。

距離が近い。

隣を歩かれるだけで心臓がうるさい。


しかも時折、自然に微笑むのが本当に良くない。


だからアリアは決めたのだ。


——徹底的に距離を置こうと。

これ以上動揺しないために。


結果。

アリアは必要以上に冷たい態度になっていた。


「……アリア王女」


「なんでしょう」


「私、何かしましたか?」


「…………え?」


思考が止まる。

レオは困ったように苦笑した。


「いえ。ここ数日、あまり目を合わせていただけないので」



それは。

レオが眩しすぎてて見られないだけで。

決して嫌っているわけではなくて。

むしろ逆というか。


だが、そんな本音を言えるはずもない。

アリアは必死に表情を保った。


「気のせいでは」


「そうでしょうか」


「ええ」


「……なら良かった」

レオは静かに笑う。


その笑顔を見た瞬間、アリアは危うく呼吸を止めかけた。

だが、必死に耐える。


王女として。

感情を見せてはいけない。


そんな二人のやり取りを見ていた周囲の貴族たちは、小さく囁き合っていた。


「やはり王女殿下も、敵国の皇子を警戒しておられるのだろう」

「当然だ。婚約とはいえ、まだ信用できる相手ではない」

「氷の王女様らしい対応だ」


アリアの“距離”は、周囲には別の意味で伝わっていた。


そしてそれは、婚約反対派の貴族たちにとって都合のいい状況でもあった。


「やはり、ルヴェリアの王にはルヴェリアの血が必要だ」

そんな声が、少しずつ王城内で広がり始めていた。


だが、その日の夕方。

アリアは偶然、王城の裏門近くで思いがけない光景を目にする。


吹雪の中。

倒れた荷車を、レオがたった一人で持ち上げようとしていた。


「押してください!」

彼に声を掛けられた騎士たちが、慌てて荷車を支える。

近くには、雪で立ち往生していた平民の親子。


レオは軍服が汚れることも気にせず、雪まみれになりながら彼らを助けていた。


「怪我はありませんか」


穏やかな声。

怯える子供へ、自然に視線を合わせる姿。


その光景に、アリアは思わず立ち止まる。


(……え)


敵国の皇子。

冷酷と噂される“漆黒の皇子”。


そう聞いていた。


けれど。

今目の前にいる彼は、噂とはまるで違っていた。


「ルエナいいかしら、

レオ皇子たちが戻られたら、タオルと温かいお茶を準備して渡してちょうだい」

「かしこまりました。アリア様」


そう言い残し、アリアは戻って行った。


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