十二月、君が好き
蓮と話さなきゃと思ったはいいものの、なんだか蓮がずっと忙しそうで声をかけられない。どうやら、バスケ部に入ったらしい。
良かった、中学の時の思い出を乗り越えられたのかな。きっと蓮なら今から入っても活躍間違いなしだと思う。球技大会の時うちのクラスを優勝に導いたくらいだし。
もう、蓮は前に進んでるのかもしれない。もし過去に私のことを、いいなって思ったとしても、今はもう好きじゃないのかも。私の心は、天秤にかけられてるみたいにずっと揺れ続けてる。
***
私たちのクラスで、クリスマスにカラオケに集まってクリパ(直訳:二十五日に恋人がいない人たちは寂しくみんなで傷を舐め合おうぜの会)をすることになった。
当日カラオケに蓮の姿を見つけて、ほんとに彼女いないんだ、って嬉しくなって小躍りしたくなる。今の私ならマツ◯ンサンバ歌える。
みんなで好きな曲を思い思いに歌って、たくさん喋って、たくさん食べていた時。クラスの中心グループの男子が声をあげた。
「なーこれやらね?」
「なにそのアプリ」「あ、私知ってる」「携帯を回して好きな人がいる人はYESを押して、この中で何人恋してる人がいるか知れるやつでしょ」「おもろそう」「いいやん」
なにそのタイムリーなレク。誰か私の心読んだ?
携帯が回ってくる。私は…
YESを押した。
つまり投票結果が2人以上だったら蓮が押した可能性があるってことだ。うわすっごいドキドキする。なんか蓮の顔が見れない。
「みんな押したかー、いくぞ。結果は…」
なに、7人って。傷の舐め合い会じゃなかったのこの会。裏切り者多すぎるって。人のこと言えないけど。
結局蓮が押したのかも分からない。
もう踏み出すしかない!
***
そろそろ門限を気にし始める頃、会がお開きになった。
私は蓮のもとに足を運ぶ。落ち着け心臓。
「ねえ蓮、一緒に帰らない?」
「…いいよ、帰ろっか」
2人で電車に乗って、降りて、乗り換えて、夜の住宅街を歩く。そろそろ話を切り出せるかな。
「あの、さ…ごめん!気づいちゃってたと思うけど、私、蓮のことずっと避けてた。その、文化祭の時に蓮が女の子といるのを見かけちゃって…彼女だと思いこんで、ならあんまり蓮に近づきすぎないようにしようって思って…」
私がそこまで言い終わるやいなや、蓮はその場ではぁーと、ため息を吐いてしゃがみ込む。そのまま手で顔を覆って動かない。私も蓮の目の前にしゃがみ込む。
「だいたいのことは、夏沢から聞いた。もう聞いたと思うけど、それ俺の姉ちゃんです。ま、そりゃあんなとこ見たら誰でもそう思うよなーって。……俺に幻滅してた?」
「…うん。正直、『思わせぶりの人たらし!散々勘違いさせまくりやがって!30年後には頭皮の毛がごっそり禿げてしまえ!』って思った」
「想像以上にひどい」
「呪ってごめん…ちなみに禿げてもかっこいいと思うよ」
「うーん、あんま嬉しくないかも」
良かった。蓮が笑ってる。
やっぱりこの笑顔見ると、
「…すきだなぁ…」
「え、」
「私、蓮のことが好き。ほんとは、初めて会った時から一目惚れだったの。でもその後、蓮と知り合って話すようになって、外見だけじゃなくて中身もどんどん好きになっていって…だから、彼女がいるって思ってすごくショックだったし、なんでもっと早く告白しておかなかったんだろうってすごく後悔した。
正直、声が低くて私の名前を呼ぶ時ちょっと掠れるとことか、意外と手がゴツゴツしてて男らしいとこ、サラサラな黒髪とか、笑った時にちょっと歯が尖ってるのとか、人にお前って言わないとこ、姿勢がいいところ、食べ方が綺麗なとこ、ちゃんと相手の目を見て話すとこ、たくさん褒めてくれるとこ、努力家なとこ、さりげなく車道側歩いてくれるとこ、私の歩く速さに合わせてくれること、私が好きな飲み物の味覚えててくれたこと、その、クシャって笑う笑顔も大好きで…っ…
だから、言うね。好き!!大好き!!」
い、息吸うとこなかった……さっきとは違う意味で心臓がどくどくしてる。
一回出てきた本音は止まれなくて、全部吐き出してしまった。さりげなくすごいこと言った気がするけど、まいっか。
「れ、蓮?」
「ちょ、待って今顔やばい」
顔を手で隠してて見えない。
「…おりゃ!」
蓮の手を退けると、夜なのに、暗くても分かるぐらい、
「真っ赤…」
「あー!もう!!俺から告うつもりだったのに!」
「え…?」
「俺も、帆乃花のことが好き。帆乃花に避けられ始めてからは、バスケ部入って、もっと誇れる自分になってから告おうとしたんだけど…」
「うそ、」
「ほんと。
────俺が帆乃花のこと好きになったのは、入学した次の日だったか、学年集会があった日。俺、飲み物買おうと思って自販機行ったら、一生懸命桜の花びらを捕まえようと、ぴょんぴょん跳ねてる女の子がいてさ」
それ、私だ…。
「それでその子が花びらを掴んだ瞬間、風がワーって吹いて上から花びらが降って…その時、すっごい優しい顔で笑ったんだよ。今思えばこれが一目惚れだったんだと思う。思わず俺が笑っちゃったら、一目散に逃げてったけど。
でも、その時まだクラスメイトの顔を完全には把握してなくて。加瀬帆乃花かな、とは思ったけど、その笑った顔があまりにも普段の帆乃花と結びつかなくて、確信持てなくて。それが帆乃花だって分かったのは、五月に勉強教えてもらった時。俺に笑いかけた帆乃花の笑顔が、あの桜の時と全く同じ顔で…その時から俺はずっと好き」
こんなことって、ほんとにあるんだ…涙で視界がぼやけてよく見えない。
やだな、泣き顔なんて見られたくないよ。
「付き合お」
「……うんっ…」
***
どこか夢見心地でふわふわしてたけど、十二月の寒い季節だというのに、繋がれた右手の温かさが、夢じゃないことを教えてくれた。




