九月、君と遠くなる
新学期が始まった。うちの高校は行事が多く、今月は文化祭だ。話し合いの結果、私たちのクラスはお化け屋敷をすることに決まった。青春っぽくて楽しみ。
みんなでどんなコンセプトにするとか、誰がどんな係をするか話し合う。
「奈々は何立候補するの?」
「制作かなー、あたしお化けの生首とか指とか作りたい」
「グロテスクだね…」
「ほのちゃんは?」
「どうしよっかな。あんま表情筋動かないし、どうせなら振り切ってお化け役とかかな」
「良いじゃん!ほのちゃんがトイレの花子さんのコスプレとかしたら絶対可愛い」
「それは趣旨とズレてるかなぁ…」
黒板に書かれた井上蓮の文字を辿ると──看板係、と書いてある。
一緒じゃないかぁ。というか、蓮が集客係じゃないなんて、うちのクラスの、いや世界の損失。こんなとこ(看板係)で燻ってて良い人間じゃない。もっと世に出してあげるべきでは…?でも今より人気になったら蓮と気楽に会話できなくなっちゃうかも。もっともっと遠い存在になっちゃったりして。
…うん、蓮は看板係で!!
奈々と話した通り、私はお化け役になった。(しかもまさかのトイレの花子さん)
***
文化祭当日。一般公開ということもあり、たくさんのお客さんでごった返してる。
朝から入念に打ち合わせをして、どこか不具合はないかを確認する。
「どう?確認終わった?」
「蓮!うん。こっちはバッチリ。てか看板すごいね、凝ってる」
「でしょ、みんなで頑張った」
看板がリアルすぎて、看板見てるだけで鳥肌が立ちそう。
「なんか帆乃花の雰囲気違うと思ったら、黒髪でボブだからか」
「あ…うん。これウィッグ」
「あぁー。帆乃花って結構地毛明るめだよな?」
「うん」
「髪色キレイだなーって……。…あ呼ばれたから行くわ。花子さん、頑張って」
蓮がいなくなった後、赤くなったほっぺを両手で挟む。
…教室、暗くて良かった…
しばらくすると、お客さんが続々と入ってきて、無心で人を驚かす。結構楽しいかも。
そして事件は起こった。
ボード裏でスタンバイしてた時、お客さんの女の子の声が聞こえてきた。と、思ったら蓮の声もした。
不思議に思って隙間から覗くと、可愛らしい同い年ぐらいの女の子が蓮の腕に、腕を絡めてる。
「…っ!!!」
思わずその場にしゃがみ込んで、口を手で押さえる。
いつもの甘酸っぱい、甘くてふわふわとした胸の痛みじゃなくて、キリキリとした鋭い痛みが胸に刺して、トクトクトクと、ものすごい速さで心臓が脈打つ。
「ねーマジで怖いんだけど!」
「あーもうそんな騒ぐなら入らなきゃ良かったじゃん」
「ひっど!せっかく来たなら入りたいし!」
私と話す時とは違う、気安く話している蓮とその女の子の姿から遠慮がいらないほどの親しい仲なことを想像できてしまう。
こんな2人を見たら誰だって、特別な関係だと思うだろう。
その後も2人で話しながら、順路通りに進んでいって外に出ていった。
しゃがみ込んだまま、目を瞑る。じわりと涙が、目尻にたまるのを感じる。
もうこれ以上知りたくない。傷つきたくない。
お願いだから消えてよ、私の恋心。




