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六月、君の心を知る

 六月は梅雨ということもあり、毎日雨続きだ。なんだか、ずっとだるいしここのところバイトを詰め込みすぎて寝不足だ。朝一生懸命髪の毛を巻いたとて、学校に着く頃には湿気で巻きが取れてることが多く、おしゃれにもやる気が出ない。今日も湿気に敗北した私の髪は、高い位置でお団子だ。


「頑張れー!」「ナイスパス!」「投げるよー」

 昼休みの体育館では至る所で掛け声が聞こえる。いよいよ来月に迫ってきた球技大会に向けて各クラス、練習に励んでいる。卓球、バスケ、バレーの中で私が選んだのは当然バレーボールだ。卓球はあの卓球台の上にピンポン球を打ち返せたことが一度もないし、バスケなんて自主的にボールを奪い返したり動けない人間がやるべき競技じゃない。怖すぎる。


「蓮すごーい!」「あいつやべえな」「蓮がち?」「井上すげえ」

 そんな声が聞こえてきて私もネットの向こう側を見る。その時蓮がちょうどバスケのシュートを決めたところだった。うっ、かっこいい。そんなよそ見をしてたのが仇になった。

「あ、危ない!」

「え?」

 前に向き直った瞬間、私のこめかみ部分にバレーボールが直撃したのだ。


 いっっったい。けど何よりも、それよりも、恥ずかしすぎる!

 瞬時に顔に手を当てて、周りからの視線を直視しないよう、ガードをする。結構な音がしたからか、体育館中のみんながこちらを見ているのをひしひしと感じる。早くこの場から退散したい。お願いだからみんな労わる目で私を見ないで。せっかくなら蓮のことでも見といて…私はこんな注目を集めるべき人間じゃないってば…


「ほのちゃん大丈夫?」

「うん。よそ見してた私が悪いし、大丈夫。」

「でも腫れちゃったら困るし、念のため保健室行ってきな」

「あ…そうしよっかな」

 よし、退散だ。男子に見惚れていて顔面ボール直撃なんて、言えない。


 保健室に行くと、養護の先生が保冷剤を貸してくれたので保健室のソファに座って、保冷剤をこめかみに当てる。保冷剤のひんやりとした冷気で余計に痛みがドクンドクンと頭に響く。


「どう?痛み治った?ってあなた顔色悪いじゃない。最近ちゃんと寝てる?」

「あー最近忙しくてあんま寝れてなかったかもです」

「5限だけでも、ちょっと休んでいったら?ちょうどベッドも空いてるし」

「じゃあ、そうします」


 いそいそとベッドの中に潜り込む。お団子もほどいて髪の毛を下ろす。そういえば蓮は私にボールが直撃したのを見てたのかな。見てないといいなぁ…


***


「うーん、よく寝た…」

 窓の外を見ると、ユニフォームを着たサッカー部が試合をしてる。え、うそ今何時?うわ、もう16時過ぎてる。5時間目だけ休むはずが6時間目も休んじゃったみたいだ。でもその甲斐あって体は熟睡感ばっちりで軽いし、ここ最近のだるさも消えてる。

 

 先生にお礼を言い、荷物を取りに教室に向かう。

 この時間に学校に残っている生徒は部活をしてる人が大半なので、いつもより人がいなくて通りやすい廊下を歩きながら、耳を澄ますと部活の掛け声や吹奏楽部の演奏の音が聞こえる。

 教室のドアを開けると蓮がいた。


「あれ、まだ帰ってなかったの?」

「うん、さっきまでバスケの練習してた」

 そのまま流れで蓮と一緒に帰る。ちょっと緊張。

「頭、ぶつけたとこ大丈夫?」

「うん。もう痛くない。ひょっとしてぶつけたとこ見てた?」

「いや見てない。5、6限いなかったから奈々に聞いたら保健室で寝てるって言われた」

 良かったほんとに見られてなくて。夜寝る前にベッドの上でのたうち回るとこだった。


「そういえば、お団子ほどいちゃったの?」

「え?あぁうん。横になる時に」

「へー、似合ってたのに」

 うぐっと思わず変な声が出そうになる。無自覚でこれなんだもんなぁ…


 それにしても放課後も自主練するなんてずいぶん練習熱心だ。あ、そういえば。

「なんで蓮ってそんなにバスケ上手いの?」

「中学の時バスケ部だったんだ。ま、途中で辞めちゃったんだけど」

 そこを突っ込んで聞いて良いのか分からなくて、曖昧な返事をしてしまう。少し変な空気になってしまった。

「はは、そんな気ぃ遣わなくて良いよ。ただ単にトラブルでちょっとね」

「む、無理に話そうとしなくていいよ」

「いや大丈夫。他の奴から変な風に伝わるなら俺の口から言いたい」

「…うん。分かった」


「俺、中2の時バスケ部ですっげえ仲良い男友達がいたんだけど、そいつ彼女がいてさ。しばらくしてそいつの彼女に告られたんだよね。『正直妥協して付き合ってたんだけど、やっぱ蓮の方が良い』って。さすがに俺もふざけんなって断ったんだよ。そしたらフラれた腹いせか分かんないけど有る事無い事噂されて。そいつも自分の彼女の言い分信じちゃって。んで、居づらくなって退部しちゃった」


「なにそれ…そんなん、蓮だけがずっと苦しいままじゃん…そんなのおかしいよ。私がもしその場にいたらそんなのはおかしい、って言った。っていうかそんなデマ流す人には絶対天罰がくだるから!」


 もしもし、神様。その人達が、タンスの角にこゆびをぶつけるとか、一回始まったしゃっくりがなかなか止まらなくなったりしますように。

「天罰って…ははっ」


「あれ…そういえば元カノいっぱいいるっていうのもデマ?」

「あーそれは最初はデマ、だったんだけど俺そのあとしばらく荒んでたから、告白されたら自分が好きな訳じゃないのに付き合う、はしてた。さすがに両手で数えるほどではないけど。どうせ噂が独り歩きしてるんだし、とか思っちゃって。最低だよな」

「そんなことない、とは言えないけど…でも今は後悔してるんでしょ?だからいつか、女の子達に直接謝れたら良いね」

「…うん。ありがとう帆乃花」


 その時の蓮は何かを吹っ切れたような晴れ晴れとした顔をしていて、今までで1番綺麗な顔だった。

 

 無自覚に人たらしで、チャラいって言われちゃう、ちょっと不憫な君。


 私は外見だけじゃなくて────

          もうとっくに君の中身も、好きなんだ。



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