五月、君に近づく
「ほのちゃん、この問題が分かりません…」
「んー?あ、ここはね…」
入学して一か月。出席番号が前後というありきたりな理由で友達になったけど、感情が表に出にくい私を「クール!笑った時のギャップ萌え!!」と言ってくれる奈々と、今は放課後の教室で中間テストの試験勉強をしている。すると唐突にガラガラっと教室のドアが開けられる。
「何してんのー、うわテスト勉強?真面目だね」
「え、でもあと2週間しかないよ」
「まじか、俺もやばいかも」
「ふっふっふー、あたしはほのちゃんという助っ人をゲットしたのでテストの心配はnothingなのさ」
「奈々抜け駆けかよ、俺にもほのちゃん貸して」
「残念、私はすでに奈々に買収された身でして」
「うわずっる」
「蓮もなんか賄賂あるならほのちゃん買収しなよーぅ」
あれ、私って共有される感じ?それってもはや買収とは呼ばないんじゃ…
「おっけ、確か飴持ってるわ」
「え、くれんの?別に良かったのに…ありがとう」
「どーいたしまして。俺にも勉強教えてね」
蓮からもらった塩レモン飴を開けて口に放り込む。ん、しょっぱい。
椅子に座り出した蓮をチラッと横目に見る。今何事もなかったかのように私たちと会話してる蓮、何を隠そうこの井上蓮が私の一目惚れ相手かつ、クラスメイトなのだ。ポーカーフェイスで蓮をあしらう私だけど今脳内は大騒ぎだ。
ちょっと待って私のこと、ほのちゃんって呼んだよね、ありがとう奈々私のことほのちゃんって呼んでくれて。まさかの蓮にそう呼んでもらえる日が来るって私もういつ死んでも悔いはない…
ほらちょっと気を抜くと、蓮はサラサラの黒髪をセンター分けにしていてそこから見えるおでこがキレイだなぁ私は地毛が明るめの茶色だから羨ましいなとか、ちょっと歯が尖ってるの可愛いな、とか意外とガタイ良くて骨格好きだなとか考え始めちゃうのだ。
こんなこと考えてることがバレないように、意識すればするほど蓮に対して態度が冷たくなってしまう気がする。嫌われたい訳じゃない、でも私は決して蓮と両思いになりたい訳じゃない。
蓮はいわゆる“チャラ男”らしい。イケメンゆえに中学の時の元カノの人数は両手で数えても足りないぐらいらしく、なのに交際期間は最長で2か月。そのくせ人たらしだからみんなが“私のこと好きなんじゃ”って勘違いさせまくるとか。
何でこんな相手に一目惚れしちゃったんだろう。こんなの傷付けてください、って言ってるようなものだよ…
だから私は絶対に蓮に思いを告げたりなんかしない。このまま“良きお友達”を続けて、このうるさいくらい高鳴る胸のドキドキがいつか消えて無くなるまで、私は仮面を被り続ける。
***
「あ!あたし先生に宿題提出しなきゃなんだ、職員室行ってくる」
「え、」
待って奈々、私と蓮を2人きりにしないで、今の私、蓮に何するか分からないよ、実は心の中で騒ぎまくってる女なの。要注意危険人物のリストNo.1に載るよ、さぁすぐさまUターンして、やっぱり明日でいっかぁとか言って戻ってきて…くれないかぁ。
「ねえ、帆乃花この問題分かんないんだけど」
なーんだ、もうほのちゃん呼びは終わりか。でも、なんだかんだ言ってちゃんと勉強するんだなぁ。
「そこは加法定理の応用で…」
「あこゆこと?」
「そ!よく出来ました」
なーんだ、ちょっと教えただけで出来ちゃうんじゃん。多分地頭が良いんだろうなあ。にっこりしてついつい、小さい子に言うみたいに言ってしまった。よく出来ました、なんて何様目線なの私…
蓮はびっくりした顔で、私の顔を見つめたまま固まってる。いやぁ流石に引くよねそこまで仲良くないのに距離の詰め方えぐすぎみたいな、あもう消えたいかも…砂みたいにサァーってなって消えたい。
「びっくりしたぁ、帆乃花って笑うとめっちゃ可愛いじゃん」
「へ?」
「もっかい笑ってよ」
「な、なに変なこと言ってんの。ほらこっちの問題は?」
「ちょっと待って、考える」
ほ、ほんとに心臓に悪すぎる。赤くなっちゃだめ、平常心平常心。今日ほど己の表情筋の乏しさに感謝した日はない。きっと傍目から見た私は通常通りだと思う。
────もう、
これだからチャラ男は!




