契約妻、スキルで今日もハイテンション
ホワイト家でのノアの立てこもり生活がはじまりました。物理的に閉ざされた奥様部屋に手を出せるツワモノはいません。部屋の外では様々な事が起きていますが、ノアは一切知りませんし、関知しませんし、興味もありません。
わたしの『スキル』とは――ズバリ『オール電化』。
男爵家時代、夜中にトイレへ行きたくなったとき暗くて怖かったので――なにしろこの世界はようやく産業革命期、電気は実用化されていない。明かりはキャンドルとオイルランプだけだから――電気があったらいいな~と思っていた。
いっそのことオール電化屋敷にしたいな~と。
そんなある日、自室で『オール電化』とつぶやいた。
すると――。
《ドガドガドガガガ~ンン!!!》
まばゆい光と轟音。
そして電化製品キタコレ!
ワオッ!
LEDシャンデリア。
IHクッキングヒーター。
エアコン。
電気給湯器。
自動洗浄トイレ。
やったぁ、ネット小説に出てくる『スキル』ゲット!!
あっけにとられた養父母と義弟がわたしの部屋に飛び込んで来た。
「ノア、あなたのお部屋が眩しいわ。天井のシャンデリアはどうしたの? とても豪華で素敵だけど、いつの間に変えたの? キャンドルではなさそうね?」
「ゲゲッ、ナニコレ、ノア姉様!」
「豪華でいいねぇ、ずいぶん明るい気がするけれど。寺院のシスターが言ってたよ、ノアは光の子だと」
あのシスター、そんな余計なことを言ってたのか。
「こっちの方が明るいから、いいでしょ。他のお部屋も変えるね。このボタンを押すと光るの。もう一回押すと消えるの」
「そ、そう? ありがとう」
「ノア姉様、女神様!?」
「お湯が出る水道も屋敷中に引くね。コッチの蛇口をひねるとお湯が出るから」
「ふ~ん、便利なものがあるんだなぁ……」
(疑問に思わないの?)
養父母もテレンスちゃんも優しいだけのポンコツだから、何の疑問も持たずにオール電化を受け入れた。光らなくなったりお湯が出なくなったら連絡してと忠告してある。
これなら燃料代がかからないし、ワイナリーくらいしか産業のない弱小領地の男爵家を立て直すことができるかも。
まさか、電力会社(どこの?)から請求書なんて来ないよね。
しかも、電気関連製品も呼び出せることが分かった。
不思議だけど超便利。
どれもコードレスなんだよ。
わたしにはもう一つスキルがあって、『オール電化最大』と唱えると、身体中が光ってポンッと別の場所へ移転――瞬間移動できることが判明したのだ。この世界へ転移して来たときのように。
「な、なるほど?」
何がどうなっているかまったく分からないけれど、能力はさらに進化して、移転先を指定できるようになった。
「テレポーテーションじゃん、これ!」
※
契約妻としてアルバス領の領主屋敷に来たのは、ノアとしてのわたしが十七歳になったとき。乃彩としては二十二歳。
(はぁ~、大学卒業できなかった……行方不明のまま中退か?)
二年間だけの旦那様、アルバス領の領主様はヴァシリウス・ホワイト伯爵、二十七歳。名前だけはカッコいい。顔は――茶髪巻き毛ブルーアイ丸眼鏡、アラサーのオジサン。ひょろ長くて眼光がやけに鋭い青色LEDだけれど、イケメンというわけではありません。中の上。
伯爵家ではわたしのスキルを暴露することはできない。産業革命中にいきなりオール電化を披露したら、社会を混乱させるだけだもの。マッドサイエンティスト・ホイホイになっちゃう。
それは嫌。
このスキルを使うのは、お世話になったテリア男爵家と『ワイルドなウィッチショップ』だけでいい。
※
『ワイルドなウィッチショップ』とは。
男爵家時代、何もすることがなかったので、ショップ経営を始めたのです。
扱っているのは香水やコロンにアロマグッズ、ハーブティー、ベリーティーなど。
男爵家でごく潰ししているわけにもいかないから稼ごうと思って。兼業農家の娘だったしね。
原材料は男爵領内の農家さんに頼んで栽培してもらっている。おもに草花。
ブドウ畑が広がる男爵領は、農業中心ののどかな場所なのだ。実家を思い出す。
店舗は男爵領から離れた首都で捜した。場所をとらない小さくて可愛らしいお店。従業員さんも三人いるよ。商品はみんなでおしゃべりしながら手作りしている。
ただ、オール電化とお店の売上だけでは男爵家は救えなかった。おじいちゃんが亡くなった年の税金が払えなかった。そのくらい酷い薬代詐欺にかかってしまったわけ。
もう、没落寸前。
だけどみんな、心配しないで。わたし何とかするから。
わたしが契約妻にさえなれば、男爵家は伯爵家の経済力で税金を払える。契約期間は二年だから、その間はちゃんと契約を守るし。
「ノア姉様、これ、なんという音楽なの? 聞いたことがないよ、激しいね!」
「ハードロックだよ」
「ハード?」
「ACDCサンダ◯ストラ◯ク。一緒にヘドバンする?」
「する、する! こうすればいいの? 楽しいね、ノア姉様!」
【雷! 雷!】
【雷! 雷!】
わたしと一緒に激しく頭を上下に振るテレンスちゃん。
もう~、最高だよ!
「領主屋敷に行っても、一週間に一回は帰って来てね!」
「いつだって帰るわよ(移転で。ついでに夕食にありつこう)」
※
結婚式の翌々日くらいかな、扉の外から異臭がした。お掃除しているんだろうか、この屋敷。
奥様部屋は自動掃除機でキレイにしているよ。お洗濯も全自動。石鹸は『ワイルドなウィッチショップ』の品。従業員のみんなとお店の倉庫でワイワイ作っていて、自慢じゃないけどわりと高品質。
仕方ない、空気清浄機を設置しよう。
《ドカン! ジージー……》
そういえば、わたしの食事はどうなっているんだろう。必要ないけれど気になる。『食事不要』という札を扉に張ったほうがいいのかな。
それに、扉の外から騒々しい声が聞こえてくるんだよ。
『ちょっとヴァシー、わたくしたちに挨拶もしない嫁なんて聞いてません、どうなっているんです!?』
『奥様部屋から嫌な音がするの、頭がどうにかなりそうでリリィ怖い、ヴァシ~』
男爵家はみんな笑いあって微笑ましかったけれど、ここはいつもいがみ合っているみたい。
マジうるさい。
感じ悪い屋敷に嫁いできちゃったよ。
騒々しいから有線で配信音楽を流して聞こえないようにしよう。
音量アップ!
ACDC!
【雷! 雷!】
【雷! 雷!】
朝八時ころ起きて着替え、首都へ移転してモーニング、そしてお店へ出勤。
通勤時間ゼロ分。
四時に仕事を終えると料理屋かテリア家へ移転して夕食、再び移転で奥様部屋へ。
あとはゆっくりお風呂に入って音楽を聴きながら就寝。
こうやって、伯爵家でもなるべく快適な暮らしを心がけたのです。
セキュリティーもバッチリ、快適生活の邪魔をする者はいない。
しかしわたしは『窓』にセキュリティーは効果がないことに気付かなかったのだった。
☞しっかり籠城したつもりのノアでしたが……まさかのあの人が!?




