契約妻ノア、札束でビンタ婚
【第一章】はショートショート『契約妻になったら外界が阿鼻叫喚になりました――皆様、何やってんですか?』のエピソード1〜4に当たります。不明だった点やあやふやな設定を補完しました。エピソード5以降の発掘現場編は第二章になります。
いきなり契約結婚を迫られました。
札束ビンタ婚です。
契約内容は――
・書類上の形式的な夫婦
・子供は不要
・社交は不要
・契約期間は二年間
以上です。
どのような経緯でわたしがこんな訳の分からない契約に巻き込まれることになったのでしょうか。
現在わが男爵家は今年の税金が払えないという絶体絶命状態、もうすぐ領地没収状態、名ばかりド貧困貴族へ転落寸前。
なぜなら、祖父の病の治療に膨大な薬代(という詐欺)を馬鹿みたいにつぎ込んでしまったから。にも関わらず祖父は死亡、資産は借金返済のため一部売り払ったので目減り。
そんなとき、わが男爵家を含む広大なアルバス領地を所有する、本家に当たるホワイト伯爵家から札束ビンタ婚を強いられたというわけ。
悪魔か!
白黒写真で見た契約相手は、最近アルバス領主を継いだというアラサーオジサン。天パ丸眼鏡。コレが悪魔だとしたら、目からビームが出るんだろう。
しかし……痛い、痛すぎる……イケメンではなく中の上くらいのアラサー二十七歳。
イケメンなら少しは許せたかも。いや、それでも札束ビンタ婚はないわ。
アラサーオジサンに身売りだよ! 二年経ったらバツイチだよ!
わが男爵家はアルバス領内でも最弱分家にあたるから、本家に対する発言権がないらしいのだ。
チッ。
そういう訳で、わたしは優しい義両親に泣く泣く売られ、涙を呑んで(嘘)伯爵家へ契約妻として嫁ぐことになったのでした。
「ごめんなさい、ノア。あなたを売る形になってしまったわ。どうか伯爵様がノアを大切にしてくれますように」
義母からアメジストのペンダントを頂いた。これは亡くなった義母の娘さんが大切にしていたペンダントだ。
「大丈夫です、お義母様。ときどき帰って来るようにしますね。そのときはお土産を持って来ます」
「ノア……アルバス領内のワインは男爵家のワイナリーで作っているから、違うのにして。海岸リゾートのラム&レーズンファッジがいいわ。わたくし大好きなの。ここ一年間、全然口にしていなくて……ううっ……」
「ええと、善処しますね(どこの海岸リゾート?)」
こうなったら腹をくくろう、男爵家の借金を返せるから。わたしは趣味を続けられればどうでもいいや。結婚に憧れていたわけでもないから、二年間という期限がある契約は返って有難い。
でも、オジサンは痛い。痛いなぁ……。
旦那様になる人?
二年間契約だから興味ありませんけど。
※
一回も会うことなくアルバス領の寺院で挙げた、二人だけのつまらない結婚式。パーティーはなし。
ウエディングドレスは義母のものをお借りした。
『オイ、娘、テリア男爵家ノア。二年間だけ夫になるヴァシリウス・ホワイトだ。あくまでも契約結婚だから、そのつもりでいるように。だから勘違いするな』と、ヴェール越しに命令された。
は? 何で命令口調? 上司かよ!?
「もちろんです、わきまえていますとも(フンッ、アンタになんか興味ないもん)!」
これはアレですかね、『オマエを愛することはない』系。
うわ〜、最低じゃん。
契約が終わったら大量のスタングレネード投げつけてブッコロ……いや、わたしの秘密を残しちゃいけないから、奥様部屋破壊くらいはしよう、徹底的に。
宣戦布告のために旦那様の顔を間近で見てやるぞと思い、口づけの際ヴェールをめくってガン見した。茶髪巻き毛ブルーアイ丸眼鏡だった。写真とだいたい同じ。
眼力すごい、青色LED。
そっぽを向かれてしまったけれど。
その後馬車に揺られて伯爵家の敷地に入り、ウェディングドレス姿のまま旦那様にお姫様抱っこされた。契約結婚なのにこんなことをするんだ。旦那様は細身だけれど長身だから、力はあるんだね。
ウン、これは悪くないぞ。疲れたから早く奥様部屋へ連れて行け。
広くて寒そうで洒落っ気のない、大理石エントランスに入る……だけど……何か、変。壺とか石器とか古代の像に地図? ここ、博物館?
し、しかも、正面には五芒星!? セーマンドーマン!?
これは……ヤバい所に来てしまったのか?
そのとき旦那様が声高らかに宣言した。
「みんなよく聞け、今日からノアが俺の妻だ! 新しい伯爵夫人だ! 古い伯爵夫人と居候は屋敷での権限を剥奪する! ハーッハーッハッ!!
だから今後一切俺に構うな!」
「「何ですって、ヴァシー!?」」
屋敷の住人が絶句している。電撃ショック状態。
(旦那様はクレイジー頭だった、残念!)と思っていたら、姑らしきオバサンと二十歳くらいのぽっちゃりさんがキーキー叫んでひと騒動起こった。
わたしに文句を言っているみたい。
フンッ、いくらでも文句を言えばいいさ、わめけばいいさ。わたしはこの屋敷の誰とも関わる気はないから。
例え旦那様であっても。
しかし有難いことに、旦那様がシッシッと追い払ったのだった。
(な、なるほど? 旦那様は独裁者なわけですか、そうですか。そりゃそうだ、当主様だもの)
文句ばかり言って騒ぐ屋敷の住人もイカレ頭だったわ、残念な屋敷だこと!
そんなとんでもない人たちに反し、伯爵家の使用人さんたちは穏やか……というか、騒動に慣れているみたい。
「ようこそホワイト屋敷へ、奥様。こちらが奥様のお部屋でございます。用事がありましたらこの呼び鈴でお呼び下さい」と、慇懃な黒服さんに言われた。
「はい、分かりました!」
『了解!』と言いそうになるのをグッとこらえる。
「旦那様はお仕事で忙しいため、屋敷を留守にすることがあります。何かありましたら執事の私、アンガスがお伺いします」
「了解です!!」
あっ、言っちゃった〜。黒服さんはアンガスさんって言うんだね。
そしてハネムーンもなく旦那様と離れ、奥様部屋に閉じ込められたというか、勝手に閉じこもったというか、正確に言えば『物理的に立てこもった』のです。
わたしに与えられたのは二階の角部屋。窓が広くて日当たり良好。
しかも!
男爵家時代よりも数倍広く、テーブル・椅子、ドレッサーなんかがある。クローゼットにはドレスや下着(サイズがゆるゆるな既製品、誰の?)も並んでいる。隣は奥様用寝室。水道・トイレ付バスルームもある。
豪華な1DKじゃなくて?
さすが伯爵家のお屋敷だわ。修繕が間に合わない男爵家とは大違い。
ここだけで完結しそうな、ザ・奥様の部屋。少なくとも冷遇ではなかった。
ルルルル~~ッ、ララララ~~ッ、歌って踊っちゃうよ。
オーケー、ここなら一日中誰とも会わなくても平気そう。だってわたし、形だけの妻だもの。
・書類上の形式的な夫婦
・子供は不要
・社交は不要
ということは、この屋敷のこの部屋にいるだけでいいんじゃない? 特に何を言われた訳でもないし。閉じこもるのはものすごく得意なんだ。
なぜならわたし、『オール電化』というスキル持ちなのです。
それは、わたしが転移者で、ゴニョゴニョ……。
「スキル・オール電化!」
☞最終的にサブタイトルを入れ、『奥様は聖女様――契約妻になったらどういう訳か聖女にされました』にしました。『奥様は聖女様』というタイトルは最後まで変わりません。




