はじまりの特異点
「乃彩、ちょっと牛乳買ってきて、超特急で」
「へ〜い」
(メンドクサ。夏休みのフィールドワークレポートまだ書き終わってないのに)
わたしは顔にベタベタ日焼け止めを塗り、白いワンピースにベージュの長袖カーディガン、白手袋、編み上げサンダル、麦わら帽子という、なんちゃってリゾートファッションで家を飛び出た。
観光客に擬態した兼業農家の娘、それがわたし――高山乃彩。
朝四時に起きて、近所の市場に出荷するクレソンの収穫を手伝ったので、今日の手伝いは終わり。
ふ〜っ、それにしても暑い。
(牛乳なんて、その辺で休んでから買えばいいや、コンビニでいいか)
ということで、わたしは湖畔のレイクカフェでひと休みとシャレこみ、いつものデッキチェアに腰かけた。
「パンケーキとアイスカフェラテのセットで」
「乃彩ちゃんまいどね〜チョコおまけ」
「ありがと」
アイスカフェラテ飲んでふ〜っとひと息。
労働後のアイスカフェラテ美味い。
高原でも夏は暑いのだ。
『そこ、右!』
合宿ランニング来たよ、体育会系すごい。何が右なんだろう。
しばらくグデろうっと。
ササーッ、シャァーッ。
いきなり湖の向こうからカフェに向かって濃い霧が流れてきた。この辺ではよくある現象だ。霧というか、もはや雲。
雲が襲って来る感じ。
こうなると、上着がないと夏でも肌寒い。耐えられなくなった観光客が服屋へ駆け込むことになる。
服屋ぼろ儲け。
カーディガン着てるわたし大勝利。
薄着の観光客ザマァ。
突然霧の中心に円形の渦が現れた。
グールグールグルグルグル……。
(おいで〜、コッチにおいで〜、アンタだよ~)
何アレ?
特異点?
いやいや、ブラックホールじゃないんだし。
何だかわたしを呼んでいるような……新手の気象現象だったりして……地理学科生としては確認をしなくては……。
わたしは好奇心に負けて歩き出し、渦の中を覗き込んだ――すると。
【アアアアァァァッッ……!!!!】
☞あくまでも架空のリゾート地です(あそことあそことあそこを混ぜた感じです)。




