奥様聖女ノア逃亡
ノア逃亡回です。
身体を丸くしたたまま目を上げると、そこはわたしのお気に入りがいっぱいつまった部屋だった。
テリア家でのわたしの部屋。
幼くして亡くなった、お義母様の娘さんがいた部屋。そこがわたしの部屋。
「わぁ~、わたしの大好きなお花やお菓子でいっぱい!!」
そのとき元気な足音がした。
「あっ、ノアお義姉様が引っかった!」
――その声は。
「テレンスちゃん!!」
「お帰りなさい。ノアがいつ帰ってきてもいいように、お部屋にはあなたの好きなものばかり集めたのよ」
「お義母様!」
「最近ノアと会えなくて寂しかったの。また一緒に首都でカフェ巡りしましょう」
(ここはノアホイホイ部屋か!)
「ノア姉様、もうどこへも行かないで!」
この世界に来たら、可愛い弟ができたんだ。
いつの間にか大人の男になっていたんだね。
テレンスちゃん……お義母様……何だかゴメンね。最近テリア家に帰ってなかった。
「僕は……借金のためにあんな奴に売られた姉様が……心配で心配で」
「テレンスちゃん、仕方ないよ。侯爵家のお陰でテリア家が助かったんだし」
「分かってる……」
「お嫁さんになる人を大切にしてね。テリア家をよろしくね。わたしもときどき帰って来るし」
「……あいつは姉様を大切にしているの?」
「一応? 発掘現場へ連れてい行ってくれるし、欲しいものは買ってくれるし、そ、それに、人間椅子になって……」
「人間椅子?」
「え、えと、その話はなかったことに」
「二年間だけという契約は切れたのよね? でも、テリア家に帰らなかったということは、ちゃんとした夫婦になったの? それなら、子供はまだなのかしら?」
「子、子供?」
「……やっぱり。あなたたち、本当の夫婦ではないのね?」
「ええと……」
それはわたしが拒んでいるからであって……だって、二十歳から十五歳にされたわたしは未だバージンだし、いきなり襲われたことは結構トラウマだったんだから!
ハァ……どうしようかなぁ。流されてこの五年間過ごしてきたけれど……何もかも中途半端だったから、いったん実家に帰りたい。このままズルズルとヴァシリウスの妻でいるのもどうかと思う。
特異点さえ見つかれば……。
※
寺院の祈祷もせず、ホワイト家へも帰らず、テリア家でダラダラ羽を伸ばして二日過ぎたころ、大型馬車が近付く音がした。テリア家のエントランスが蜂をつついたように騒がしくなった。
「伝令が来た、ノアはここにいるのか!?」
「はっ、侯爵様! はい、義娘は屋敷にいます……いきなり帰って来たので、出張先の侯爵様にお知らせしたのですが……義娘が何かしでかしてしまいましたか?」
「しでかしたなんてものではない、到底許せない!」
「ど、どうか、穏便にお願いします、侯爵様。ノアにはちゃんと言って聞かせますので……」
義父と……旦那様!?
えぇっ、もう来ちゃったの?
わたしの優雅でお気楽な里帰りはおしまい?
「ノア、テリア家にはいつでも帰っておいで。ただし、侯爵様にひと言断りを入れてからからにしなさい」
「分かりました、お義父様」
「それに、ノアは国を守る聖女になったのだから、日々のお勤めはかかせないだろう?」
「……」
聖女にさせられたんだけど。
「帰るぞ、ノア!」
「ヴァシリウス、もしかして攫いに来たの、拉致しに来たの、それとも?」
「俺を何だと思ってるんだ、迎えに来たに決まってるだろう。俺に断りなく帰省なんて許せるか!」
「あ〜、これは死にそうになったから不可抗力というか……」
「……心配したんだぞ……海岸でいなくなるから……あれからずっと捜索して……」
「そうだったの?」
「当たり前だろう!」
そういえば、旦那様の目の下にクマが。丸眼鏡でよく分からないけれど。
「えへへ……じゃ、お願いを聞いてくれたらホワイト屋敷に戻ろうかな〜、どうしようかな〜」
「何だ、言ってみなさい」
「眼鏡を取って」
そういえば、わたしが瞬間移動できることは、ホワイト屋敷にも寺院にも言ってなかった。
まぁ、いいか。
☞次回からの二回は第二章のクライマックスです。オール電化の秘密と第三回契約更新です。ホワイト屋敷周辺がえらいことになります。乙女小説にあるまじき内容です、たぶん(R18ではありません、R15です)。




