奥様聖女ノア、世紀の発見
今回の発掘現場は南西部の海岸近くなんだそうだ。
前回はパーティーに連れ回されただけだった。今度こそ発掘調査をするのよ!
念のためスタンガンとライトセーバーを持って行こう。呼べば出せるけど、あまり出すとゴミになるだけだから。なるべく使い回しする。なぜならわたしはエコ人間だから。
『ボッシュート!』
クッ、隠れイケメン悪人ヅラに没収された。
いつでも出せるから構わないけど。
発掘日前日はまたパーティー。うんざり。
それよりも、新たな事実が発覚した。
ヴァシリウス・ホワイトは変態でロリコン!
※
発掘日初日は全体会議だから、わたしはお呼びじゃない。
仕方ないので侍女と護衛とでパターゴルフ。
でも、こんな外出用ドレスでは身動きできないわ。この世界の女性は不便だね。
ぱっこーん!
「ゴルフは得意なんだ、実家の近くにゴルフ場があったから」
「奥様、素晴らしいお手前でございます。ところで、テリア家にゴルフ場がありましたっけ?」
「ええと、テリア家の前のことね」
「「?」」
翌日やっと発掘調査がはじまった、待ってました!
「侯爵様、前回陶器が発見された場所を中心に発掘いたします」
そう言ったのは、髭面の考古学博士だった。
「うむ」
「わたしも発掘したい」
「ノアは見学だ。あそこに奥様用見学席があるから座っているといい」
「ええ~っ……」
せっかく発掘に来たのに、ぼーっとしているだけなんて。調査したい。化石を発見したい。
コッソリ持って来たガーデニング用の小型シャベルで地面をつついてみよう。
「わたしも掘るんだ~、楽しい」
「パトロンの奥様はそんなことはしない」
「どこに化石があるのか分かればいいのよね? それなら、地中レーダー探査器召喚!」
わたしは地下を探る地中レーダーを呼んだ。
モニター付きの芝刈り機のようなものが現れた。海外製品だと使い方が分からないかも。
「おおっ、侯爵様の奥様は魔法使いでございますか?」
「聖女だ」
「ええと、聖……女……様??」
作業員たちが何か噂してるけれど、まぁいいわ。
「地中解析開始!」
わたしは地中レーダー探査器を動か……せなかった。その前にマニュアルを読まなくてはならなかった(注:マニュアル付でした)。
※
わたしは宿泊先のコテージでマニュアルを読みまくった。
(日本製だったわ、助かった)
「もう寝るぞ、ノア」
「先に寝てれば」
「な、何だその言い方は!」
「わたしは忙しいの、明日、地中レーダー探査器を動かさなくちゃならないの」
「あの芝刈り機か」
「お休み〜」
「ハァ〜、俺が椅子になってやるよ」
「ついでに肩叩いてくれると嬉しいな〜」
「ハイハイ、奥様聖女様。ところでその解説書は……超古代語?」
「わたしが元いた国の言語で~す」
「まさか、ノアは寺院が召喚した超古代人だったのか?」
「そんなわけないでしょ。たまたま首都の寺院に転がっていただけだからね」
「……あとでその解説書を見せるように」
旦那様がうしろからわたしを羽交い絞めにした。
「何だかあったか~い」
「だろ?」
「ヴァシリウスあったか~い」
いつの間にか旦那様に包まれてウトウトしていた。
※
ブイーン……!
「ここ! ここに何かある!」
わたしはレーダーが指す場所を旦那様に告げた。
「ファーガソン、ここを掘れ」
「しかし侯爵様、奥様のような素人の方にそんな事が分かるのでしょうか?」
「ファーガソン、俺の妻は聖女だ。奥様が何かあるというのなら、あるんだ」
「聖女……様? かしこまりました、侯爵様」
(やった、化石発見のチャンス! わたしは発掘王になる!)
わたしは小型シャベルを持ち出して地面をつついた。
「わ~い、発掘、発掘!」
「待て、ノア。貴族の奥様がそのように土を掘るものではない。ましてや君は聖女なんだ。可愛らしい手が汚れたらどうするんだ」
「あ、そうなんですか?」
「せっかくのワンピースドレスが汚れるじゃないか。それに日傘をささないと日焼けするよ。奥方たちとコテージでティータイムでもしていなさい。護衛、奥様をコテージへお連れしろ」
「はいっ!」
――あの人たち、話が合わないから面倒なのよね。
「侯爵様、何か光る物がありました!」
「どれどれ?」
それは細長いクリスタルの瓶だった。
「文字がある? 超古代文字?」
「とりあえず、コテージへ持って行きましょう」
作業員が掘り当てた瓶はどことなく見覚えがあった。
「見せて下さい」
ナナメに縞模様が入った、緑色の細長い瓶。書いてある文字は……『ミリンダ』?
こ、これは! 昭和レトロ、幻のミリンダの瓶? どうしてこんな物が?
「何か知っているのか、ノア。これは超古代文字だろう?」
「ええ〜っとですねぇ……『ミリンダ』と書いてあるような?」
「読めるのか!?」
「ま、まぁね……」
「すごいぞ、ノア!」
「超古代文字ってどういうことです?」
「それは……いいだろう、コテージに戻ったら説明しよう」
まさか、ここにいた人類は、乃彩が生きていたころの人類――日本人?
オーパーツ?
パラレルワールド?
――そういえば、わたしが転移させられたレイクカフェには、昭和レトロ雑貨が飾られていた。
「大昔にはすでに精巧なガラス瓶があったということだ。世紀の大発見だ、さっそく雑誌『ヌー』で特集を組むぞ!」
(……ミリンダも転移してきたのかな? 特異点を探さなくちゃ。そしたら元いた世界に帰れるかも、大学を卒業できるかも!)
わたしの心は揺れ動く。
※
そんなこともあって、発掘調査は結構楽しかったんだけど……そのうち飽きてきました。一か所でちまちま作業するのは性に合わないのよね。
せっかく海岸へ来たんだから散歩しようかな。アンゲル国の海岸の地形でも観察しよう。海なし県に住んでいたから、海は久しぶりだしね。
「護衛さん、わたし海岸を散歩したい」
「かしこまりました、奥様」
わたしは現場から離れ、散歩道を歩き出した。
久しぶりの海。
何年ぶりかな?
海を見ると興奮するのよね〜。
走り出したくなっちゃうの。
波が岩に打ち付ける音がする。
そこは崖の上だった。
す、すごい断崖絶壁! 東尋坊よりも険しい!
足がすくむ〜。
「その先へ行ってはいけません、奥様!」
「えっ? 崖はもっと先だけど?」
「この先は危険地帯なのです、白い岩は足場が悪いので!」
そこは石ころだらけで不安定だったのである。
あっ、すべる、履いている靴はヒール!
ズルルルルッ……!
「奥様!!」
しまったぁ、落ちる落ちる落ちるぅぅぅ〜、
――落ちた――
「オール電化最大!」(※ノアはこう叫ぶと移転=瞬間移動できるのである!)
行き先を決めずわたしは瞬間移動した。
☞ノアが移転した先は……。




