ヴァシリウスは幼な妻を見せびらかしてマウントを取りたい――その二
発掘日初日は全体会議だ。今回の目的や発掘ポイントなどを話し合う。
特にすることのない奥様方はそれぞれ歓談したり、散策をしたり、ホテルの広場でパターゴルフやテニスをして過ごす。
午前の会議が終わったあと、俺はノアを捜した。
ぱっこーん!
「ヒューッ、もう少しだったね。ゴルフは得意なんだ、実家の近くにゴルフ場があったから」
「奥様、素晴らしいお手前でございます」
ホッ、いた。パターゴルフをしていた。
そもそも護衛が付いているので心配することはないのだが……なぜか不安がよぎる。
翌日から海岸付近のコテージに移り、調査団による発掘が本格的に始まった。
「ノア、くれぐれも俺たちから離れてはいけないよ」
「ガッテン!」
「何の合図だ?」
「了解! という意味です」
「あぁ、何となく分かった」
「今日はどんな発掘を?」
「この海岸沿い一帯では、今から一万年前くらい前の陶器が発見されている。なぜか現在の科学では解明できない材料でできている」
「まあっ! 一万年前の!?」
考古学に興味があるのだな。俺の知識をひけらかすチャンスだな。
「侯爵様、まずは前回の発見現場を中心に発掘いたします」
「うむ」
「わたしも発掘したい」
「ノアは見学だ。われわれが手を汚す必要はない。そんなことは作業員がやることだ。あそこに奥様用見学席があるから、座っているといい」
「ええ~っ、見てるだけなんですか?」
貴族夫人は地面など掘らない。養女とはいえ、ノアは男爵家の令嬢だったのだ。
しかも寺院本部から認められた聖女なのだ。
「侯爵様、あっちの現場にいるのは……まさか……」
「うむ?」
「「「チームセオドリック!!!」」」
『あっちの現場』にいたのは……まさかの『セオドリック』だった!
イケメンモテ男ド平民の『セオドリック』!
ヤツのチームもここで発掘していたのか!
ド平民のくせにセオドリックとかいう大層な名前を名乗るとは。
マズイ、ヤツよりも早く何かを掘り当てなければ!
平民とはいえヤツは裕福な貿易商の息子なのだ。扱っているのは武器と薬という怪しげなシロモノだが、その商社は最近政治や軍事に口を出してきているという。
発掘資金なら黒い金がたんまりあるに違いない。作業員は恐らく商社の連中だ。
目的は何だ?
「チームセオドリックに出し抜かれるな、心して掘れ!」
「かしこまりました、侯爵様!」
「「「「ほいっ、ほいっ、ほんにゃー!」」」」
※
なぜかノアが園芸用シャベルを持って土を掘っていた。
「わたしも掘るんだ~、楽しい」
「パトロンの奥様はそんなことはしない」
「わたしは聖女だから掘ってもいいんです」
「どういう理屈だ、掘らなくていい」
「どこに化石があるのか分かればいいのよね? それなら、地中レーダー探査器召喚!」
ドドドン!
ノアが呪文を唱えたとたん、芝刈り機のようなものが出現した。
「おおっ、侯爵様の奥様は魔法使いでございますか?」
「聖女だ」
「ええと、聖……女……様??」
だがその日の作業時間は終了、芝刈り機の出番はなかった。
その夜ノアは俺の人間椅子に座りながら芝刈り機の説明書を読んでいた。不思議なことに、それは超古代文字のようだった。
……聖女だから?
そういえば、娯楽部屋(旧奥様部屋)の薄い板に流れる絵も不思議な言葉を話していた。
いずれ解明しなければならない。
翌日。
「地中解析開始!」
ノアが芝刈り機で地面を走る。本当に、別の意味で目が離せない。
ブイーン……。ブッッ!
「ここ! ここに何かある! ここ掘れワンワンッ!!」
そこに何かあるんだな?
「ファーガソン、ここを掘れ」
俺は作業員のリーダーに命令した。
「しかし侯爵様、奥様のような素人の方にそんな事が分かるのでしょうか?」
「ファーガソン、俺の妻は聖女だ。奥様が何かあるというのなら、あるんだ。ここを掘れ、慎重にな」
「聖……女……様? かしこまりました、侯爵様」
※
その結果、ノアは超古代の文字が刻印されているガラス瓶を探し当てた。
「何か知っているのか、ノア。これは超古代文字だろう?」
「ええ〜っと……ですねぇ……『ミリンダ』と書いてあるような?」
「読めるのか!?」
「ま、まぁ……」
しかもそこに書いてある文字をノアは読めたのだ!
「すごいぞ、ノア!」
「超古代文字って、どういうことです?」
「それは……いいだろう、コテージに戻ったら説明しよう」
午後の調査を終えた俺は、ノアを捜しに行った。
どこにも見当たらない?
ゴルフ場にもコテージにも散策路にも、海岸のすべてのホテルを捜しても、どこにもいなかった。
(消えた!?)
そんなときノア付きの護衛が息を切らしながら走って来た。
「大変です、ご主人様! 奥様が……!」
「は? ノアがまた馬鹿をやらかしたのか?」
「いいえ、消えました!」
「どこで?」
「海岸の崖で……」
「崖だと!? お前はノアを見ていなかったのか!?」
「も、申し訳ございません……突然のことで……」
あせった俺は、地元警察をけしかけて大規模捜索を開始した。
「こ、侯爵様、承知いたしました。必ずや奥様を無事お連れいたします!」
「うむ、頼んだぞ!」
警察と護衛と発掘仲間で夜通し捜索したにもかかわらず、ノアは見つからなかった。
「あぁ、絶望的だ、ノア、どこへ行ったんだ! せめて、せめて生きていてくれ!」
俺は一睡もせず捜索隊に加わった。
ところが翌日の夕方、テリア家から早馬がやって来た。
「アルバス侯爵様に伝言でございます、奥様はただ今実家におります!」
「な、何ぃっ!?」
何という事だ、いつの間にノアは実家に帰っていたんだ、俺に何も告げずに!
特にいさかいがあった訳ではない。
特に俺が何をした訳でもない。
今回はパーティーを最小限に抑えた。
訳が分からない。
この時刻にテリア家からの伝令が到着したということは、行方不明になったとき実家へ戻ったということか? あれから一日しかたっていないのに?
あり得ない。
ここはテリア男爵家も所属しているアルバス領から、馬車で片道ニ日以上は離れている。往復するなら四、五日。
早馬なら片道で一日、往復で二日弱……。
俺は頭を抱えた。
「侯爵様、奥様はわれわれに何も言わず、ご実家に帰られたのでしょうか?」
発掘仲間から問い詰められた。
いや、ツッコミどころはそこじゃないだろう!
「そ、それは……」
「侯爵様、奥様は……ふッ、夫婦喧嘩でございましょうか? 以前も途中でいなくなられたことがありましたが」
「ち、違っ……」
「ふッ、……」
「ノ、ノアが俺から離れるなどということは、断じてない!」
「「「……(メロメロか!)」」」
☞セオドリックは、ヴァシリウスがライバルだと思っている考古学者(ep7参照 パトロンは実家の商社)です。ヴァシリウスは学者ではなくパトロン(出資者)です。
☞次回から、ノア逃亡(?)の真実がノア視点で明かされます。




