わたしを発掘現場へ連れてけ〜
期待に胸膨らませてヴァシリウスの職場見学へ行ったのですが。
「さあ、旦那様、今度こそ発掘現場へ連れて行って下さい!」
「俺を名前で呼んでくれたら連れて行こう」
「ヴァシリウス! ヴァシリウス! ヴァシリウス!(わたしを発掘現場へ連れてけ〜!)」
わたしは目をキラキラさせ、両腕を波のように上下して旦那様を鼓舞した。
「し、仕方ない、次のフィールドワークが決まったら予定しよう」
「ヤッター!」
『メソポタミア殺人ナンチャラ』の奥様になったみたい!
スタンガンを持参するしテントには電気牧柵を張るから、わたしは殺されないけれどね。念のためテーザーガンも持っていこう。予備のカートリッジも呼べるのかな。
そうだ、測量道具も持っていかなければ。
「測量しま~す、図面書きま~す」
「専門の測量と地図作成チームがいるから必要ないよ」
「……」
※
「ここが、われわれチームヴァシリウスの発掘現場、中部山岳リゾート地だ」
そこはわたしが転移してきた異世界の国――アンゲル国の中部山岳地帯。馬車で四日もかかった。
何となく実家の田舎に似てるかも。
旦那様の『チームヴァシリウス』が発掘する場所は近場の洞窟らしいが、ここはリゾート地。ホテル、湖、散策コースなんかがある。
時間が空いたらカフェで一息つこう。
いいね!
旦那様の発掘調査の目的は、ズバリ【超古代文明】。
アレですかね、一夜にして沈んだ都市とか、深海に眠る文明とか、地中の超古代都市とか。
旦那様はムーの信者だったわけですね。『ハイハイ』と言ってスルーが正解ですかね。
「さっそく発掘ですね、頑張ります!」
「待った、われわれはパトロンだ、出資者。パトロンは土を掘ったりしない。調査を円滑に進めることが仕事だ」
「そんなぁ〜」
「まずはチームに挨拶だ」
連れて行かれたのは、洞窟近くの中途半端なリゾートホテル。
しかもスイートルーム。
は?
「夫婦なんだから当然だろ」
「契約結婚ですけど」
「まだ言うか。俺たちはれっきとした夫婦だ」
「そですか、わたしソファで寝ます」
「あり得ない」
「じゃ、テントで寝る」
「そんなことをしたら高級チョコレートとアフタヌーンティーを一ヶ月禁止する!」
「契約違反! 違約金を請求する!」
「「……」」
「今夜大ホールでチームメンバーとの交流パーティーがある。そこでノアを紹介するから」
「え? 発掘なのにパーティー?」
「当たり前だ、発掘するには正式な許可と相応の便宜が必要だし、チームとの交流も必須だ。そのためのパーティーだ」
「……」
※
そして夕暮れ。
パトロンの奥様としてパーティーに出席することになった。
ホワイト屋敷から一緒に来たわたし付きの侍女――エイミー・ブラウン三十五歳既婚――に着付けされた。骨が砕けそうになるまでコルセットを締められ、出来上がったのは……なんか、ロリータファッションのコスプレ。
「エイミー、これでは何も食べられないよ」
「奥様、パーティー会場では食い意地を張ってはいけません」
「……」
「可愛いよ、ノア。今宵はチームのみんなに紹介するから」
発掘調査に来たのに正装姿でパーティーに出席する旦那様。背が高くて細身だから、遠目では素敵イケメンに見える……というか、その丸眼鏡を外せばイケメンなのに、残念。
「おぉ、お待ちしておりました。伯爵様にこのようなご息女がいらしたとは、存じ上げませんでした」
「何を言っている、俺の妻だ。それに俺は伯爵ではなく侯爵だ」
「そ、そうでいらっしゃいました、大変失礼いたしました。はじめまして、奥様。私はこのチームの代表をしています考古学博士ヘンリー・ジョンソンと申します。超古代文明の研究をしております。お目にかかれて光栄です」
「はじめまして、ミスター・ジョンソン」
「ヘンリー、俺の妻は犯罪的に可愛いだろう」
「は、はい、その通りでございます……侯爵様の奥様が……このようにお若くて……可憐な少女とは……」
今、言い淀んだよね? ね?
偉そうな髭面考古学博士を従えているとは、旦那様すご〜、さっすが札束ビンタ男。
「ノアはいつまでたっても初々しいんだ」と悪人ヅラで微笑みながら、旦那様は次々とチームのみんなにわたしを紹介しまくる。
「は~、疲れた。明日から現場ですか?」
「明日は地主一家とパーティーだ」
「えっ、また?」
「そうだ、発掘前に現場の地主に挨拶しなければならない。ドレスは数着持ってきただろう、明日は大きなリボンのピンクドレス、あれがいいな」
ノアは二十歳かもしれないけれど、乃彩は二十五歳なんだよ、痛すぎる。
「あっ、アレ飲みたい」
「アレはシャンパンだ。そういえば、ノアにはお酒を飲ませたことがなかったな。少しだけだぞ」
実はわたし、お酒を飲んだことがない。二十歳で異世界に来たら、サバ読み十五歳にされたから。
ごっくん。
「えっ、キッツ、ぐわ〜ん……」
「お、おい!」
気が付いたらいつの間にか服を脱がされ、スイートルームで旦那様にうしろから羽交い締めにされながら眠っていた。
※
「は~、何だか妙にダル重い。明日こそ現場ですか?」
「(昨夜バレない程度にいたずらしたからな)いや、町の行政役人とパーティーだ」
「えっ、また?」
「レースフリルマシマシのアイボリードレスにしよう。髪飾りはバラとカスミソウのリボン付コサージュで」
「……」
酒を飲むのはよそう……。
※
「町長殿、妻のノアだ」
「大変お若い奥様ですな、うらやましい……」
「侯爵様の奥様は寄宿学校をご卒業されたばかりですの?」
「ええと……(大学時代は学生寮だったけれど、卒業してない)」
こんな感じでわたしは毎日違うロリータドレスをエイミーに着せられ、旦那様に散々引きずり回された。
(ハァハァ……疲れたわぁ……ご馳走食べられないし……は、発掘調査は!?)
「明日は発掘作業を請け負う業者とのパーティーだ」
「……」
「スムーズな作業には円滑な人間関係が大切なのだ」
「……」
すっかり疲れ果て、身も心もすり減らしたわたしは、スイートルームから瞬間移動でトンズラした。
(もう無理。耐えられない。フィールドワークしてた方がマシ)
移転先は街一番の高級リゾートホテル。宿泊カウンターに着いたときにはヘロヘロになっていた。
「アルバス侯爵様の奥様一名、承りました」
ショップ経営をして聖女手当もゲットしているわたしは、お金ならそこそこ持っているのよね。離婚しても平気。ここで思う存分羽を伸ばして贅沢してやるわ!
観光しまくり、お土産をしこたま買って侯爵家と男爵家と『ワイルドなウィッチショップ』にお届けするのだ。何がイイかな〜。
間もなくホテルから旦那様に連絡が行ったのを、わたしは知る由もなかった。
「ノア、俺に黙ってこんなところにいるとは!」
「ううっ……」
パーティーは続く……。
☞ノアの考える『発掘』は、なかなかはじまらないのでした。他所の土地を勝手に掘ってはいけないのでした。
☞次回からヴァシリウスSideになります。幼な妻を見せびらかしてマウントを取りたいヴァシリウスのせいで、ノアは連日引っ張り回されたのでした。
☞ヴァシリウスは一人っ子です。乃彩は末っ子です。




