第二回目契約更新 ヴァシリウスの逆襲
とうとうノアは奥様部屋から引きずり出されるようです。
「王室調査団です。聖女様の件で……」
契約妻ノアとの奇妙な同居三年目、忘れた頃にまた王室調査団がやって来た。
「まだ調査していたのか?」
「全国を回って調べましたが、謎の発光現象はこの屋敷からとしか考えられないのです。テリア家も若干当てはまりましたが、ホワイト家の方がより強いのです」
(コイツら暇人かよ。そんな無駄な予算があるのなら、国立大学考古学研究室に回せばいいのに)
『聖女』というのは、角部屋を占拠して立てこもっているノアのことだろう。なにしろ奴は光をまとっているからな。
だが扉は開かないし、夫の俺でさえ妻と会えるわけではない。会えたのは契約更新日くらい。
その日だけは扉が開いた。
扉の鍵は無効化され、ノアによってコントロールされているのだ。
理屈は分からない。
それなのに、何の接点もないお前らが会えるわけないだろうが!
フフフ、ハハハハッ、ハーッハーッハッ、お呼びじゃないね!
「……今まで黙っていたが、実は聖女とは俺の妻のことなんだ」
「な、なんとっ!! やはりそうでしたか!! それならなぜ今になって!?」
「聖女である妻は、ホワイト屋敷から日々国の安寧を祈っている。そんな妻を世事で煩わせたくはない」
「伯爵様にお願いがございます。ぜひ首都の大寺院にお連れし、国民の前で大々的に祈っていただきたいのです。何世紀も忘れ去られていた新嘗祭を復活させましょう! あぁ、何と素晴らしいことでしょう!」
「……そんなことはできない」
「なぜ!?」
「妻の心の平和を乱すと、聖なる力が消えてしまうからだ」
「一度だけでもいいのです! 国の平和……なんなら世界平和のために!」
「(世界平和とかアホかコイツら。宿敵ドイッチ帝国と一触即発だっていうのに)申し訳ありません、無理です。じゃ!」
俺は調査団を拒否した。
あの危険な部屋に人間を近付ける訳にはいかない。あの扉と窓に触れたら死者が出るかもしれないのだ。この二年間でネズミや蛾やテントウムシがたくさん死んでいるんだ。それに、可愛い幼な妻をそんな大層な祭事に引っ張り回すなんて、とんでもない!
しかし寺院はあきらめなかった。
「せめて聖女様のための寺院を建立していただけませんか」
「……補助金出るの?」
仕方ないので、調査団を納得させるため、屋敷の隣に寺院を建てることにした。
名付けて『聖女寺院』。
そのための補助金も国からたんまりゲットした、ワッハッハッハ。
しかも驚いたことに、ホワイト家は伯爵から侯爵にアップグレードしたのだ!
笑いが止まらないぜ。
聖女(契約妻・幼な妻・俺の妻)パワー凄すぎ!
首都の寺院本部から『聖職者を派遣しますので、寺院で毎朝祈祷して下さい』という課題を課せられたが、それはそれで好都合だ。幼な妻を奥様部屋から引きずり出せるからな!
これで表向き聖女が寺院で祈っている風にはなるだろうし、これ以上王室調査団に悩まされることもない。
国から補助金ゲット+陞爵+幼な妻引きずり出し。
この世の春だ、素晴らしい!
※
コンコン……。
俺は正装用スーツに着替え、さわやかコロンを頭から足まで振りかけ、花束と契約書を持って奥様部屋の前に立った。
そして危険な扉をモップで叩いた。
これを素手で触ると全身に震えがくるのだ。
何という危険な聖女なのか!
今日は二回目の契約更新日。
ノアは夜しかここにいないことは調査済みだ。
結婚してからもう三年も過ぎている。しかし会えたのは数回だけ。寺院は間もなく開創されるから、今回は新しい項目を増やし、何としてもヤツをここから引きずり出す!
戦端の幕は切って落とされた!
新たな契約内容は――
・毎朝寺院で祈りを捧げる
・契約は年一回の更新、更新日は結婚記念日
余計な内容は入れないことにした。
(今度こそ籠城を解き、武装解除させなければ……そのあとは……フフフフフ……)
コンコン……コンコン……。
何度も叩いたのに、扉が開かない。今は夜なのに。幼な妻に何かあったんだろうか。
「どなたですか?」
少女のような妻の声がした。バンザイ、まだ生きていた。
扉越しに妻と会話をする。
妻の声は超可愛いのだ。結婚して三年経ったといっても、妻はまだ二十歳だからな……俺は三十になってしまったが。
「ノア、俺だ、頼みがある。ちょっといいかな」
「そういうあなたは旦那様?」
(なぜそこで疑問形?)
「いきなり何ですか?」
「……俺にはヴァシリウスという名前がある」
「相変わらずカッコいい名前。ゲームのモンスターみたい、ヘビだけど」
「……これから毎朝、寺院で祈祷をしてくれ」
「はぁっ? どういうことですか? 意味不明」
「新たな契約内容に『毎朝寺院で祈りを捧げる』という項目を入れた」
「今日は契約更新日なんですか?
寺院なんて、いったい何のお話ですか、何教なんですか、多神教ですか一神教ですか土着宗教ですか天国と地獄はありますか、ウチは曹洞宗ですけど、摩訶般若波羅蜜多心経」
「(超古代語?)寺院本部からの頼みなんだよ」
「断固拒否! 断固拒否! 断固拒否!」
…………。
「……その代わり、ノアの好きなものをプレゼントしよう。何がいい?
可愛いリボンのドレス? アクセサリー? お人形? シル◯◯アファミリー?
そうだ、奥様の漆黒の髪にジャストフィットするダイヤモンドのティアラを用意しよう。
お姫様のように着飾って王宮舞踏会へ行こう。
何でもいいから言ってごらん」
「えっ、何でもいいんですか!?
じゃ、じゃぁ、高級チョコレートを毎日と、寺院で週一の豪華アフタヌーンティー!」
「(寺院で豪華アフタヌーンティー……それも週一……バチアタリかよ)分かった。新たな契約に盛り込もう。それに、祈祷に対する謝礼も出るらしいよ」
「お小遣いだ、ヤッター!!」
(菓子と金で釣れるのか……単純だった)
「……さて、契約内容は次の通りでいいかな。
・毎朝寺院で祈りを捧げる
・高級チョコレートを毎日
・寺院で週一の豪華アフタヌーンティー
・契約は年一回の更新、更新日は結婚記念日
では、新しい契約書に署名をお願いします、聖女様」
「は?」
疑問形の返事とともに、スーッと扉が開いた。
一年ぶりに見る、光の中から現れた俺の妻が神々しい。しかも、依然として初々しい幼な妻だった!
「お手をどうぞ、奥様」
「えっ?」
俺は有無を言わせずノアを担ぎ上げて直行した――夫婦の寝室へ。
☞ヴァシリウスのお屋敷改革編でした。
☞次回ノアが最後にやらかして【第一章】はおしまいです。夫婦の寝室で何があったのか?




