51.イワナガヒメとコノハナサクヤヒメ~白トカゲの正体
混乱しつつもオオヤマツミからの提案をとりあえずありがたく受けた。というか受けるしかなく、ニニギは4人を連れて葦国中原に戻ることにした。ただし、突然の訪問はさすがのスサノオも驚くからと、ナツヒコを先に戻らせ、了承の返事が来てから出発することを申しで、快諾された。これで少なくとも、自分たちがたどり着く前に因幡やオオクニヌシが葦国中原に戻るまでの時間は稼げるはず。何かあったとしても、自分とスサノオの二人きりよりは心強い。
◇
ナツヒコを送り出した夜、ニニギは眠れなかった。とんとん拍子に話が運んだことに不安を感じる。因幡が高天原から落ちた時も、おのれの血から神の呪いが発生した時も、何とか良い方向に行きそうだった時に横槍が入った。しかもどちらも自分がらみでだ。自分が甘いからか、隙があるからなのかと自信を喪失しそうになる。今回も自分が彼らを葦原中国に連れ帰るのだ。オオヤマツミを頼ることを提案したのはオモイカネだ。その道筋から行けば今の状態は最良とは言えるのだが・・・。
堂々巡りの思考からぬけだしたくて部屋に面した夜の庭に出た。空には三日月が浮かんでいる。
もうすぐ冬を迎える山の夜は、風がなくても結構寒い。手をこすり合わせながら月に照らされるススキをぼんやりと見ていたその時、目の端に何か動くものを捕えた。遠くの木々に間を人影が移動している。神力をもつニニギだからこそ見える距離だ。周りを気にしながら移動する人影を怪しみ、距離を取りつつこっそりと後をつけてみることとした。
少々距離を縮めるとそれがコノハナサクヤであることが分かった。肩に白トカゲをのせている。しばらく歩き林の中でひときわ高い木の根元まで行くと、トカゲを地面に下した。トカゲは草むらに入ったらしく、何やらガサガサ音がする。サクヤはサクヤで地面をきょろきょろし、何やら拾っているのが見えた。
「ねぇ、それっぽいものをいくつか集めたからちょっと見てくれる?」
「ああ、わかった。」
サクヤの声に低い男の声が返事をする。
ぎょっとしたニニギが目を凝らすとサクヤのもとに現れたのは例の白トカゲだった。
「これらの中には無いな。」
サクヤがトカゲの前に置いたいくつかの石を見てトカゲが首を振る。
「もう少し捜索範囲を広げたほうがいいかもね。」
「ああ、すまないがよろしくお願いする。」
男の声と同じようにトカゲの口がパクパクと動く。トカゲがしゃべっているので間違いないようだった。妖なのか?とニニギは警戒しつつ耳を澄ませた。
「あと数日で葦国中原にむかうことになっちゃうから、時間がもうないよね。もしそれまでに見つからなかったらどうするの?」
「その場合は、俺はこちらに残って捜索を続けたい。地上の天津神にあれをどうしても渡さなければならないのだ。」
「でも、なんだかわからないんでしょう?ひょっとしたら悪い物かもしれないよ。」
「それについては何度も説明したではないか。はっきりお顔は見えなかったが、俺が思うお方であれば葦国中原の味方だ。その核心を得るためにも渡された物を確認したいのだ。」
「落としちゃったけどね・・・。だいたい誰がくれたかって見てわかるものなの?」
「わからないかもしれないけど、わかるかもしれない。少しでも葦国中原にとっての危険は除外したいのだ。俺の償いのためにも。」
「あー償いね。話してくれないけど。」
「おれが恥ずかしすぎて話せない罪だ。お前と二度と会わないことが分かった暁には話してやる。」
漏れ聞こえる話から、白いトカゲは何者か分からないが高天原に縁がある者らしいとニニギは理解した。罪を犯して地上にいるのか?いつからいるのだろう?僕の知っている者なのか?
「ねぇニニギには会ったことあるの?」
サクヤが知りたかったことを聞いてくれた。
「俺は遠目から一度お見掛けしたことがあるが、あちらは俺のことをご存じないはずだ。」
そっか、僕の知らない者か。
ニニギは一人と一匹の観察をつづけたが、探し物は見つからなかったらしく、そろそろ帰ろうと言って帰っていくのを見送った。誰も居なくなったのを見計らって林に入ると、懐に潜んでいたゴーマが顔をのぞかせた。
「どうされるのですか?」
「どうとは?」
「あの白トカゲ、最初から怪しいとは思っていましたが、まさかしゃべるとは。何を言っていたかは良く聞こえませんでしたが。」
「ああ、どうやら高天原の関係者らしい。」
「なんと!!こっそり捕まえて聞き出しますか?」
「いや、サクヤ殿が信用されているようだし、何かしたことがバレたら問題になりそうだ。」
「では静観されるのですか?」
「できれば葦国中原に連れて行って動きを見たい。ただ探し物が見つからないとついてこないと言っていた。」
「何を探しているのですか?」
「どうやら小さな石ころみたいなものらしい。」
サクヤと白トカゲがいた場所を見ると同じような大きさの石が積まれていた。
「なるほど。あの白トカゲはこの辺りでその様な物を落としたのですね。見つかるかどうかはわかりませんが、周辺の鳥たちに聞き取りと調査をさせましょうか?」
「お、それはいいね!でもゴーマもこの辺りは初めてだろう?知り合いはいないだろう?」
「ふふん、我らは鳥人ですよ!会ったことがなくとも我らのことは鳥から伝って国中に広まり、善良な野山の生き物の尊敬を集めております!お願いすれば協力を得られるはずです。」
「いつの間にそんなことに・・・。」
胸を張るゴーマにニニギは苦笑いをした。
「ではナツヒコが戻るまでの間でいいから頼むよ。もし見つかったらまずは僕に見せてくれ。白トカゲに渡すかどうかはその時に考えよう。」
「承知しました。では明日の朝いちばんでそのように手配をいたします。」
一人と一羽は頷き合い、では寒いからもう帰ろうと林を後にした。
ナツヒコが葦国中原に行って戻ってくるまで最短で6日間。
きっとスサノオは彼らを連れて戻って来いと言うだろう。少しでも安心できる状態で帰れたらいいなとニニギはため息をついた。




