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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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52.イワナガヒメとコノハナサクヤヒメ~オオヤマツミからの牽制

 次の日の朝はやくゴーマは張り切って出かけて行った。早速善良な野山の生き物たちにお願いするらしい。朝食の席でニニギはサクヤの肩にいる白トカゲと目があったが、爬虫類特有の目からは感情が読めなない。ちろっと舌を出すとそっぽを向かれてしまった。

「サクヤ、その白トカゲには名前があるの?」

「ええ、ガロというの。」

「へーガロか。強そうな名前だね。」

 ガロか・・・どっかで聞いたような・・・、とニニギが小さく呟くと白トカゲはぎくっとしたように体をこわばらせた。

「サクヤはケガをしているガロを助けたとか?」

「ええ、館の近くの林でカラスが騒いでいて。何かと思って白雉と一緒に見に行ったら木に引っかかっていたの。」

「そんな簡単な話ではないのですよ。うちの館の林の中で一番高い木の上のほうだったのに、登っていくんですもの。高いし枝も細くなるしで下で皆で大騒ぎでしたわ。」

 イワナガが軽くサクヤを睨んだ。

「でも父上だって助けてやりなさいっておっしゃったじゃない。あそこにたどり着けるのは私ぐらいよ。」

「確かにそうだけど!・・・本当に父上もサクヤに甘いんだから。」

 イワナガは今度はオオヤマツミを睨み、得意げなサクヤにやれやれと肩をすくめた。

「姉上は心配しすぎなのよ。ニニギもそう思うでしょ?」

「いやいや、イワナガ殿は大切に思っているからこそ心配されているんだよ。こんな素敵な方に心配されたら嬉しくなってしまうよ。」

「あれ?ニニギは姉上みたいなのが好みなのかな?お似合いだし良いんじゃないの?」

 ニヤニヤしながらサクヤがからかう。

「一般的な話を言ってるんだよ。」

 ねぇといってニニギがイワナガのほうを見やると、目が合ったとたんイワナガが真っ赤になって顔を伏せた。それを見たニニギもつられて思わず顔が赤くなってしまった。

「いや、あのすみません・・・。」

 ワタワタするニニギを見てイワナガは頬を軽く手でたたき立ち上がった。

「こちらこそ変に動揺してしまって申し訳ありません。

 村の見回りに行く予定があるのでお先に失礼いたしますね。」

「はーい、行ってらっしゃいーい!」

 まだ赤い顔をつんと挙げて優雅にお辞儀をして出ていくイワナガをサクヤがニヤニヤしながら送り出した。

 姉妹の会話に不覚にもドキドキしてしまったニニギだったが、父親であるオオヤマツミの反応が気になり盗み見ると難しい顔をして下を向いていた。


 ◇


 その日の午後、ニニギはオオヤマツミから客間に呼び出された。

「すまないね。突然呼び出して。」

「いえ、こちらこそナツヒコが戻るまでの間色々な場所を拝見させていただきありがとうございます。」

「どうだい私の国は?」

「とても素晴らしいです。人も自然も穏やかで。さすがに冬の寒さは慣れない身には応えますが。」

「ははっ、気に入ってくれて嬉しいよ。

 ところでなのだが、率直に聞かせてもらうが、ニニギ殿はわが娘たちをどう思っていらっしゃるのかな?イワナガを娶りたいとか少しでも思っているのかな?」

「え!!」

 オオヤマツミが今朝の話からそのような考えに至ったのは分かったが、まさかそのように聞かれるとは思わず、驚きのあまり固まってしまった。黙ったニニギを見据えたままオオヤマツミは話をつづけた。

「いや、自分でも性急すぎるのは分かっている。ただ、くぎを刺しておきたくてね。

 イワナガは君には嫁がせられない。もしコノハナサクヤを娶りたいのであれば許そう。」

「いや、僕はまだだれかと夫婦になることは考えていなくて・・・。イワナガ殿もサクヤ殿もお美しく素晴らしい方だとは思いますが。」

「うん、わかっている。ただ覚えていて欲しいだけだ。」

「あの・・・。単純に疑問としてなのですが、どうしてイワナガ殿は駄目なのですか?」

「イワナガは人間に嫁がせる。そしてコノハナサクヤは天津神か国津神に嫁がせるつもりだ。」

「その理由は?」

「それはニニギ殿に話すことではない。父親としての意向とでも言っておこう。」

「イワナガ殿のお相手はもう決められているのですか?」

「いやまだだが、遠くはない未来だと思っている。」

「・・・わかりました。」

「時間を取らせてしまって申し訳ない。親心だと思って許してほしい。」

「いえ、お話しいただきありがとうございました。」

 オオヤマツミに頭を下げニニギは客室を後にした。


 なんとなく疲れたニニギは部屋に戻り寝台にごろりと横になった。

 べつにイワナガとどうこうなりたいと思っていたわけではないが、イワナガには憧れる気持ちは多少あった。その気持ちが育たぬうちに芽を摘んでしまえということだろうな、とオオヤマツミの話を思い返す。まぁいい、憧れどまりだったし、しかもちょっとだし、と天上を見上げながら思っていたところに窓からゴーマが帰ってきた。

「ニニギ様、ただいま戻りました!

 あの辺りの生き物たちに聴き取りとお願いをしてきましたが、面白い話を聞けましたよ!

 って、あれ?ニニギ様??どうかされたんですか?」

 ニニギはだらっと起き上がり寝台に腰かけた。

「ああ、ゴーマお帰り。色々とありがとう。いや、大丈夫。ちょっと後で聞いてもらおうかな。

 とりあえずゴーマの話から教えて。」

「そうですか?

 心配ですが、そうおっしゃるのであれば・・・。

 まず白トカゲについて。あの辺の生き物によるとトカゲはだいたい3か月ほど前にあの木のかなり上のほうに突然現れたそうです。鳥たちによると枝に足を挟まれて降りれなくなっていたところをカラスに突っつかれていたそうです。その時に持っていた石みたい物を落とすのを見たと言っていました。コノハナサクヤ様はカラスが騒いでいるときにお供として連れていた白雉とたまたま通りがかり、木を登ってトカゲを助けたそうです。高い木に登っていくので下では大騒ぎだったそうで・・・。降りた後、姉上にこっぴどく叱られていたとか。

 それから1週間ほどして毎晩のように何かを探しに来ていると言っていました。」

「あの木のかなり上って、結構高いぞ?トカゲがふつう行くような高さとは思えないな。

 ・・・上から落ちてきたか?」

「高天原の関係の者だとしたら、そうかもしれませんね・・・。

 そして落し物の件ですが、どうやらカラスが持ち去ったようです。明日にでもカラスの長に話をしてカラスたちの巣を検めさせようと思います。」

「案外簡単に見つかりそうだな。ゴーマ、助かったよありがとう。」

「お力になれて嬉しいです!

 ではつぎに、ニニギ様、いったい何があったのですか?」

 ニニギはぼそぼそとゴーマにオオヤマツミから言われたことを話した。

「なるほど。オオヤマツミ様に牽制されたということですね。

 でもニニギ様がお二人に特に恋心を持たれていないのですし関係ないではないですか。お気になさる必要ないのではないですか?」

「確かにそうなんだけど・・・。」

「言われてしまってかえって気になっちゃったとかですか?」

「いや、そう言うわけではないと思うんだけど!」

「じゃなんですか?」

「なんでイワナガは人間に嫁がせるんだろうって思って。国津神と人間では生きる時間が違いすぎる。思い合っている相手がいるわけでもないのに。」

「それぐらいならニニギ様のほうがいいのにってですか?」

 からかうようにゴーマが言った。

「違うって言ってるだろう!ただ、イワナガ殿のような素晴らしい方が悲しむ未来は嫌だと思っただけだ!」

「はーいはい。とりあえず、イワナガ様にはあまり近づかないほうが良いですね。オオヤマツミ様の目が怖いですから。」

「わかったよ。」

 ニニギは不満げに横を向いた。

明日はたぶんお休みします・・・

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