49.イワナガヒメとコノハナサクヤヒメ~オオヤマツミの館へ
イワナガに手を差し出されたニニギがその手を取って立ち上がると、離れて見守っていたアキヒコとゴーマが大急ぎで飛んできた。
「あらま、可愛らしい鳥とたくましい鳥だこと。ニニギ様の従者かしら?あなた達も一緒にいらっしゃい。」
イワナガの誘いに戸惑う2羽にニニギが頷き、ゴーマとアキヒコは黙って頭を下げるとニニギの両肩にそれぞれ止まった。
「さあサクヤ、いつまでも拗ねていないで。ニニギ様に謝罪なさい。ほら、可愛い鳥さんたちも一緒なのだから。あなた、生き物大好きでしょ?」
「・・・わかったわよ。
ニニギ様、大変失礼いたしました。コノハナサクヤと申します。わが父のもとまでお連れいたします。
・・・その鳥、触ってもいいですか?」
「うふふ、申し訳ありませんね。サクヤは本当に可愛い生き物が大好きで。その肩にいるトカゲちゃんもケガをして枝に引っかかっていたらしくて。」
イワナガの説明に皆の視線がトカゲに集まると、たじろいでサクヤの神の中に隠れた。
「随分賢い上に懐いていますね。」
「ええ、本当に。普通のトカゲとは思えないほどなんですよ。」
含みを持たせるようにイワナガが微笑んだ。
「白いトカゲなんて初めて見たもの。きっと天からの贈り物よ!良いことの前触れに違いないわ。」
サクヤはアキヒコとゴーマを撫でながらご機嫌に口をはさんだ。
「贈り物ね。」
ニニギが再度トカゲのほうを見ると、サクヤの髪の中から理知的な光を帯びた瞳がじっと見ていた。
「さあ、トカゲのことはまた改めて。父が待ちわびております。参りましょう。」
イワナガが話を切り上げ森の奥に手を振ると巨大な白い牡鹿が3頭現れた。
「山々の神である父の使いの鹿です。鹿に乗ったことはございますか?」
「いや、馬にはよく乗るが鹿は・・・。」
「ではサクヤと一緒にお乗りください。あの子は人と一緒に乗るのがとても上手なんです。」
「えー!私嫌だわ!」
間髪おかず、サクヤが不満の声を上げた。
「・・・なにかいいましたか?もう一度私に言わせるつもりかしら?」
「ニニギ様!どうぞこちらにお座りくださいませ!」
にっこり笑うイワナガにサクヤは背筋を伸ばしニニギを鹿の上に座らせた。
◇
鹿での移動は非常に快適だった。馬など比べ物にならないほど早く、岩山など飛び跳ねるように駆けあがっていくのに、振動がほとんどないのだ。
「まったく揺れを感じないとはなんとも不思議だ!」
「そうでしょう?この子たちは父上の使い、いわゆる神鹿なの。私がお世話しているのよ。全部で10頭いるんだけどそのうちででもとても足が速い子たちなの。」
「そなたが世話を?このように育て上げるとは、素晴らしい。」
「あなた見る目があるわね。私のことはサクヤと呼んでいいわよ。コノハナサクヤって長いでしょ。」
鹿と自分をほめられ、いい気分になったサクヤはニニギに愛称で呼ぶことを許した。
「サクヤ殿は他にも何か世話をしているのか?」
「サクヤで良いってば。あとは馬と兎と雉ね。みんな白いのよ。それとこの前仲間入りしたこの白いトカゲちゃん。」
「このトカゲは木に引っかかっていたとか?」
「ええ、雉が見つけたのよ。随分高いところに引っかかっていて。なんであんな高いところにいたのかわからないぐらい高いところよ。だから姉上とは天からの贈り物だったりしてって言ってるの。」
そんな話をしていると前を走っていたイワナガから声がかかった。
「もうすぐ到着いたします。」
前方を見ると大きな門が立っていた。
門の前で3頭の鹿が止まり、飛んで追いかけてきたゴーマとアキヒコも3頭目の鹿の角にとまった。
すると門が音もなく内側に開き、奥には広大な土地と多くの建物、そしてその奥には大きな館が見えた。
「ようこそ、われらの館へ。ここからも距離がありますので、鹿に乗ったままでいらしてください。案内がてら父の館までお連れします。」
鹿たちが門の内側へ歩みを進めると、音もなく門が閉まった。
◇
「これはまた大きな街のようだ。」
「奥の一番大きな建物が父の住まいとなっております。途中にあるそれなりの大きさの建物は父の管轄下にある山の神たちの仮初の住まいです。年に数回集まりがあるのですが、その際に使われたり、こちらに遊びに来た時の拠点にしたりと、まぁ別荘のように使われています。
それより少し小さい建物はここを維持管理するための人間たちの家になります。掃除や庭木の手入れ、生き物の世話、畑の世話などのための人員です。」
「なんとも機能的だな。よく考えて作られている。葦国中原でも取り入れたいものだ。」
「交流が始まりましたら色々とお力になれると思いますよ。」
イワナガヒメが説明しながら通るとあちこちから声がかかり、サクヤと共に笑顔で手を振る。
「あなた達はずいぶんと慕われているようだな。」
「我らもここに居を構えてから長いですから。人間とうまく共存しております。」
「その辺りもぜひともご教授いただきたい。」
ニニギが感嘆の声を上げながら通りを進み、ついに最奥の館に到着した。
鹿から降りると、鹿たちは自分でどこかに歩み去っていった。
「では父のもとにご案内いたします。」
イワナガとサクヤの先導でニニギは大きな扉の前にたった。
「父上、ニニギ様をお連れしました。」
「どうぞ、入ってくれ。」
なかから若々しい声が聞こえ、扉が開かれた。
そこには若かりし頃のツクヨミにそっくりな少年が立っていた。
「やあ、ニニギ殿。会えるのを楽しみにしていたよ。」
そう言ってその少年のような神は満面の笑みを浮かべた。




