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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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48.イワナガヒメとコノハナサクヤヒメ~ニニギ、姉妹に出会う

 鷹のナツヒコに肩をつかまれて飛ぶこと2日。ニニギはオオヤマツミの住まう山まで徒歩で5日ほどかかる地点で降ろしてもらった。ここから歩けばいくつかの村を通ることになり、オオヤマツミの話も聞けると考えたのだ。しかし季節は間もなく冬。天津神であるニニギでも、できれば野営はご免こうむりたい。天空からナツヒコが見つけたという村で今日の宿を求めようと、暗くなりかけた山道をニニギは急いだ。

 村に着くとそこはなかなかの賑わいで、町とも言えるほどの規模であった。通りがかった人に聞くとオオヤマツミの住まう山への道に沿って三つの村があり、ここはその一番目とのことだった。この辺りではオオヤマツミへの信仰が厚く、多くの人が詣でるため、この一つ目の村には人が集まり賑わっているそうだ。宿屋も多いといくつか教えてもらった。そのうちで飯が上手いと評判の宿屋を今晩の宿にすることにした。幸い大きめの部屋が空いており、通された部屋で一息つくことが出来た。

 部屋でたっぷりと美味しい夕食をとり、お茶を飲み終わったニニギが窓を開けると、ふわりとアキヒコが部屋に入ってきた。ゴーマもニニギの懐から這い出て寝台でくつろいでいる。

「オオヤマツミ様は人間に随分慕われているようだな。」

「本当ですね。詣でる人がこんなにいるとは素晴らしいです。」

「しかし、葦国中原からずいぶん離れているとはいえ、このように慕われている存在に気が付かなかったとは不思議だな。」

「確かに奇妙ですね・・・。私とゴーマで探ってみましょうか?」

「そうだな。しかし慎重にな。我らはお願いをしに来たのだから。」

「まずはこの村でオオヤマツミ様の話や評判がどのように語られているか聞いてまいります。」

「ああ、頼むよ。2,3日この村に滞在するとしよう。その間、私は周辺の野山にオニムカデや妖がいないか見てくるよ。」


 ◇


 翌朝、ゴーマとアキヒコは村に、ニニギは村を出てオオヤマツミの山から離れる方向の野山を探索に行った。

 日中であることから、妖の姿は全く見られなかったが、妖に襲われたと思われる小動物の死骸がいくつか見受けられた。オニムカデに襲われた場合、絞められたり食いちぎられた跡が見受けられるが、妖に襲われると精機を吸い取られたように干からびるため、見分けるのは簡単だった。

「こんなに離れた場所にも妖は広がってきているのか・・・。」

 ニニギは死骸を埋めつつ呟いた。その時、背後でカサリと何かが動く気配がした。

 振り返ると遠くで何かが走り去ろうとしている。しかしニニギは天津神である。人間離れした跳躍をするやその何かの背後を取り昏倒させたが、その瞬間、冬なのに突如現れた桜吹雪に襲われた。その隙をついて逃れようとする何かをしっかり握りしめたまま、桜吹雪をやり過ごす。ニニギの視界が開けた時、そこには睨みつける同い年ぐらいの女性の国津神と、彼女の肩で威嚇している白いトカゲが現れた。

「無礼者!その手を放しなさい。私を誰だと思っているの?」

 その高圧的な言葉に、少々疲れていたニニギはカチンときた。

「そちらこそ無礼だな。私を誰と心得る。」

「不審者でしょ!知ってるんだから!」

「アマテラスの孫を不審者とはずいぶんだな!」

「孫が何よ!私のお父様はアマテラス様の兄上よ!」

 その言葉にニニギは我に返った。

「え?お父様ってオオヤマツミ様?」

 ニニギが呆けたすきに振り切って相手は駆けていった。

「げっまずいんじゃないの、僕・・・。」

 ニニギは頭を抱えた。

「でも、こっそり見ていたのはあっちだし。こんなところで変な気配したら捕まえるるよね。」

 自分を励ますように言ってみた。

「でも、これでオオヤマツミ様の心証が悪くなったらどうしよう・・・。」

 はぁとため息をつき、ひとまず宿に帰ることとした。


 一方、ゴーマとアキヒコは村の中で調査を始めた。アキヒコは目立つので村の中央に立つ大きな木に留まり、人が集まっている場所を探してはゴーマに知らせ、ゴーマはそこに行って人々の話を聞いた。

 大抵は家族の話や畑の話であったが、オニムカデや妖の話が出た。

「あそこの息子さん、山からの帰り道にオニムカデに会ったそうよ。」

「大丈夫だったの?」

「そのときもオオヤマツミ様の下のお姫様が助けてくださったそうよ。」

「まぁ、お奇麗で強いなんて憧れちゃうわ。」

「その上お優しい!最近はケガをしたトカゲを拾われて一生懸命治療されたそうだ。」

「上のお姫様も賢くて。この前作物に発生した病気を撲滅したんだよな。」

「本当にこの辺りは恵まれているわね。自慢したいわ。」

「でも不思議よね。ここを離れるとオオヤマツミ様のことをすっかり忘れちゃうのだから。」

「あの山を越えるとオオヤマツ様たちのことを忘れてしまう呪い(まじない)が掛かるんだもんな。」

「自分たちの話を広めたくないなんて、本当に奥ゆかしいお方たちだよ。」

 これか!と話を傍で聞いていたゴーマは頷き、アキヒコに話すべく飛び立った。


 ◇


 とっておきの情報を手に入れたアキヒコとゴーマは、ウキウキしながら窓から宿の部屋に入った。するとすでにニニギが帰ってきていた。ところがゴーマとアキヒコにも気が付かず、どうしよう、僕が悪いのか?いや、あっちだってかなりなもんだよね?でもどうしよう?と寝台に腰かけ呟いている。

「あの、ニニギ様?」

 おそるおそるゴーマが声をかけた。その途端、ハッとしたようにゴーマを見て、慌てて取り繕った笑顔を浮かべた。

「やあ、お帰り。どうだった?何かわかった?」

「は、はい。とっておきの情報を手に入れましたが、ニニギ様、何かあったんですか?大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっとね・・・。ひょっとしたら大失敗をしてしまったかもしれない・・・。

 まぁ、さきにゴーマたちの話を聞きたいな。」

 ゴーマとアキヒコは村で聞いた話をニニギに伝えた。

「というわけで、オオヤマツミ様はとても奥ゆかしい上に、素敵な姫様がお二人いらっしゃるそうです。」ぜひお会いしたいですね~とウキウキしているゴーマとアキヒコを前にニニギは落ち込んだ。

「すまん、僕はそのうちの一人ともめ事を起こしてしまったようだ・・・。」

 どうゆうことですか?と驚く二羽に今日の出来事を伝えた。

「それはまたじゃじゃ馬なお姫様ですね。」

「そうだな。じゃじゃ馬つながりで因幡殿の大切な白鰐の姫に似ているかも。」

「じゃ、因幡殿なら上手く手綱を握れたかもしれませんね!」

「いや、高天原に因幡殿がいたころは仲が悪かったらしいよ。」

「やっぱりじゃじゃ馬は難しいんですね。」

 ゴーマとニニギはワハハと笑った。

「あの、現実逃避はいけません。怒らしてどうするんですか。」

 アキヒコがあきれたようにため息をつき、現実に目覚めたニニギは肩を落とした。

「とりあえず、起きてしまったことは仕方ないです。明日、お目にかかったところに行かれてみてはいかがですか?ひょっとしたら会えるかもしれません。その時に心底丁寧に謝罪をしてみてはどうですか?」

「そうだな、まずは謝罪からだな。でも、会えなかったらどうしよう?」

「明日会えなかったら、オオヤマツミ様に直接会いに行って、姫様への謝罪を申し込んだらどうですか?もうこうなったら、オオヤマツミ様に会いに行く名目にでもしてしまいましょう!」

「・・・アキヒコ、頼りになるな~。」

 ニニギはアキヒコに抱き着き、そのフワフワの胸毛に顔をうずめた。


 ◇


 翌朝、ニニギはお詫びの花とお菓子を手に、昨日の場所に向かった。いつ来るか分からない、いや来ないかもしれないが、とにかく待ってみようと傍の倒木に腰かけた。ゴーマとアキヒコは少し離れた木の上で見守っていた。すると目の前に昨日の女の国津神が現れた。

「いや、早すぎないか?」

 ニニギは思わずつぶやいた。

「なによ!文句あるの?私だって別に来たくなかったんだけど、父上と姉上が行けっていうから仕方なく来たのよ。」

 可愛らしい顔だが、腕組みをし鋭い目つきでこちらを見ている。肩には昨日も見た白いトカゲがのっている。

「こらっコノハナサクヤ!ちゃんと謝りなさいって言ったでしょう?」

 声と共に、コノハナサクヤと呼ばれた国津神の後ろにもう一人の女の国津神が現れ、頭に手刀を落とした。こちらは涼やかな美女であった。

「いたっ!だって姉上、この男ったら失礼なのよ。」

「この男とは、何ですか!こちらはニニギノミコト様。アマテラス様のお孫様の天津神よ。とても尊いお方なのよ。ニニギ様、妹が申し訳ございません。私はオオヤマツミの長女、イワナガと申します。妹はコノハナサクヤと申します。昨日の妹の振る舞い、本当に申し訳ございませんでした。本日も謝罪するようにと申しつけたのですが、このようなことになり重ね重ねお詫び申し上げます。」

「いえいえ、こちらこそ申し訳ない。

 ニニギといいます。こちらこそ昨日は国津神とは思わず乱暴なことをしてしまい申し訳なかった。」

 イワナガの丁寧な謝罪にニニギは慌てた。

「ニニギ様がこちらにおいでになられたことは父も存じでおります。目的も大体のところ想像がつくと。コノハナサクヤと偶然会われたのもその縁でございましょう。ご不都合がなければ、このまま父の館にご案内するようにと言いつかっております。」

 あまりにも自分に好都合な流れにニニギは驚いてイワナガを見つめた。

「父は地上に長くいる天津神です。地上での様々な情報を得ることには長けておりますゆえ。」

 イワナガはにっこり笑い、さあ参りましょうとニニギに手を差し出した。

明日こそはご対面!

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