47.地上の混乱〜ハクロと妖術
オオヤマツミの住まう山は葦国中原から遥か北にあり、鷹のナツヒコの全力飛行でも丸3日はかかる場所であった。因幡とオオクニヌシがハクロの父親を捜しに向かったのは葦国中原から西へ彼らの足で3日ほどの場所。転生した魂魄の住まう場所は葦国中原から南へ鷹のアキヒコの飛行で3時間ほどの場所。
スサノオは皆がすべてバラバラな場所に向かうのを危惧し、すぐにでもオオヤマツミに会いに行こうとするニニギを因幡とオオクニヌシが戻るまで待ってはどうかと引き留めていた。
「ですが、オオヤマツミ殿にすぐに会えるとは限りませんし、なるべく早く出立したほうがいいのではないでしょうか?表の仕事を担当しているとはいえ、葦国中原にはウマシマジもいますし。」
「でもなぁ・・・。ウマシマジを信用してはいるが妖の討伐には慣れていないだろ?何かあった時、俺がそこに出向くと葦国中原が手薄になる。ここは根の国の入口を守る役目もあるし。」
「確かに妖の種類は豊富で僕も因幡たちもまだすべてを把握しているとは思えませんからね・・・。」
二人で悩んでいるところにハクロがやってきた。ここ数日で更に大きくなり、いまや15,6歳の若者に見える。さらに大きくなるにつれ髪と目の色が濃くなり、日に透けると金色に見えるが暗い場所だと落ち着いた茶色になっていた。
「あの、スサノオ様、ニニギ様。聞くつもりはなかったのですが聞こえてしまって・・・。あの、妖のことなら僕に任せていただけないでしょうか?」
突然の申し出に二人はハクロを見つめた。
「妖はより強い妖の縄張りには手を出せないんです。僕の父はかなり強い妖だったので、大抵の妖は僕より格下で葦国中原で事を起こすことなどできません。それと僕たちには特有の術があるのです。何かあってもそれなりに対応できます!」
「最近、葦国中原をハクロが散策していたのって、縄張り作りだったのか!」
ニニギが得心が言ったというように手をたたいた。
「なんかいろんな場所に手をこすりつけているから痒いんじゃないかって、ハクロについている鳥人達が心配しているってゴーマが言ってたんだよ。」
「あ、見られていましたか。匂い付けで・・・。」
ハクロは恥ずかしそうにもじもじして答え、スサノオとニニギはありがとうなと頭をなでた。
「妖の術ってどんなのなの?ハクロはどうして知ってるの?」
「妖は神の呪いによって発生した霧が、生命のエネルギーと結びついて生まれます。負の感情が強い生命の場合、凶暴で醜悪な思考を持つ妖が生まれます。逆もまた然りです。妖は自身の生命エネルギーを操作することで自然や生命のエネルギーに働きかけることが可能となります。それが術です。ただし、働きかける側が、働きかけられる側より格上でなければなりません。」
「神の呪いのことを知っているのか?」
「僕たちは生まれるときに黒い霧から情報を与えられるので。僕の場合は父と母の思いが通じた時に、母の胎内に黒い霧が流し込まれ、それによって知り得ました。ただ、小さいうちは言葉にするのが難しくて皆さんにお伝えすることが出来なくて・・・。やっと伝えられました!」
「妖、奥が深いな・・・。」
「ところで術は俺達にも何かできるのか?」
「いえ、天津神様や国津神様は我々よりもずっと格が上なので、妖が術で何かできるような相手ではありません。せいぜい物理的に襲うか目くらまし程度の術が精一杯かと。人間や他の生き物ですと、妖のほうが格が上の場合があるので、何かしら術で害を及ぼすことが可能になります。」
「術ってやってみてもらえる?あ、怖くないやつで。」
「はい!ではあの岩を砕いてみます。」
そういうとハクロは両手を合わせて数個の言葉をつぶやき、その後手をたたいた。すると大人の頭ほどの岩が音もたてずに粉々になった。
「なるほど!岩の成分の結びつきに働きかけたのか!」
「あ、さすがニニギ様!わかりましたか?」
ハクロが嬉しそうに飛び上がった。スサノオはよくわからんかったと言いつつ拍手をした。
◇
次の日のまだ薄暗い早朝に、ニニギは鳥人のゴーマくん、鋼鳥の鷹のナツヒコと共にオオヤマツミに会いに旅立っていった。ハクロがいれば安心ですね!スサノオ様をよろしくお願いしますねと。
ハクロと共にニニギを見送ったスサノオは、ハクロの頭にポンと手を置いた。
「お前が来てくれて本当に良かったよ。人手も足りないのもあるけど何より寂しさが薄れる。」
「そう言って頂いて嬉しいです!僕も居場所があるのが嬉しいです。」
「そっか。
ところで妖の術、ポーズも呪文もかっこいいな。なんか名前つけようぜ!」
「妖の術だから妖術なんてどうでしょうか?」
「お、その名前もかっこいいな!」
二人はじゃれ合いながら朝食を取りに屋敷に戻っていった。
旅立つところまでになってしまいました・・・。
明日こそはご対面したいです。




