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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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46.地上の混乱〜知られざる地上の天津神

 鏡通信のために異空間貝の中に入ったスサノオとニニギは、ハクロのことを報告するのを楽しみにしていた。昨日の時点で3歳ほどの大きさになったと思ったが、今朝は5歳ほどに成長していた。更に筆も持てるようになったので、ハクロだけに見えているゴーマの人としての顔を書いてもらった。ハクロは絵のセンスがあるらしく、はじめてとは思えないほどのしっかりとした筆使いで丸い大きな目と小さな口、きりっとした細い眉を持った男の子を描いた。あまりにも上手いので、スサノオとニニギの似顔絵もお願いしたところ、ほのぼのとした雰囲気で微笑む二人を描き上げた。これらも見せなければと、しっかりと懐にしまった。


 鏡が光り通信が始まった。ワクワクする二人の前に困惑顔のオモイカネ、ツクヨミ、アマテラスが姿を現した。

「なにかありましたか?」

 スサノオとニニギもさすがにその表情に気が付いた。

「いや、我らからの話はあとにしよう。悪い話ではないのだ。心配はしなくて大丈夫だ。そちらからの話をまずは聞かせてもらおう。」

 オモイカネの返答に気を取り直してハクロの話を始めた。

「なんと!妖たちにもそのような者がいるのか。ハクロは力が強いとか、我らの支援となるような特技はないのか?」

「まだ5歳ほどの子供ですのでその辺はこれからおいおいと・・・。今、因幡とオオクニヌシが父親の白蛇を探しに、ハクロの村に再び向かっております。白蛇に話が聞ければもっといろいろ分かるかと思います。」

「ですが、ハクロにはすごい特技がございます!これを見てください!!」

 ジャーンとばかりにハクロが書いたスサノオとニニギの似顔絵を見せた。

「あら素敵!!これハクロ君が書いたの?」

「ほのぼのとした雰囲気の可愛らしい絵ですね!スサノオとニニギによく似ている。これは良い!」

 アマテラスとツクヨミが鏡越しにのぞき込んだ。

「本当だ。これは心が和む。」

 オモイカネも感心している。

「そしてこれからがすごいところです。なんと!ハクロにはゴーマくんの顔が鳥ではなく人に見えるそうで、これがその似顔絵です!」

「まぁこれがニニギの可愛がっているゴーマくんなの?なんて可愛らしい。」

「本当だ!」

「ゴーマは鳥の顔でも可愛らしいのですが、こんな人の顔も持っていると思うと更に可愛良く思えて。」

 アマテラス、ツクヨミの感嘆の声にニニギが頬を赤くし、目をキラキラさせて自慢した。

「しかし、ハクロとやらは本当に絵が上手いな。因幡やスサノオの絵を白鰐の姫やツクヨミに届けられたらさぞ喜ぶだろう。」

「確かに!この絵を鏡越しに写し取ることは出来ませんか?」

「じゃ、私が通信をしている間に出来るだけなぞって書いてみよう。」

 ツクヨミが手を挙げた。

 鏡の端にスサノオの絵を張り付け、ツクヨミがあちら側で紙を当ててなぞり始めた。それを見ながらニコニコ笑っていたオモイカネが、当初の困惑顔になり重々しく口を開いた。

「では、こちら側からの話だ。

 実は、地上に君たち二人以外に天津神がもう一人いることに気が付いた。」

 今更な言葉にスサノオとニニギは驚いてオモイカネを見つめた。

「驚くのも無理はない。私もなぜ今まで忘れていたのか不思議でしょうがない。その天津神はイザナギとイザナミの間に生まれた。つまり、スサノオたちの兄にあたる。」

「スサノオ、びっくりしたでしょ?私もツクヨミもよ。オモイカネ様はつい先日不意に思い出されたそうよ。」

「そうなんだ。記憶の蓋が不意に外されたような感覚で気味が悪い。」

「・・・それって大丈夫な情報なのですか?誰かに操られているとか無いんですか?」

 スサノオが心配げに言った。

「ああ、私も疑ったよ。少々シャクだがスサオミに相談した。そうしたら”星の巡りが変わったからでしょうね。ご安心を”と言われた。」

 苦虫を嚙み潰したよう顔でオモイカネが言った。

「星の巡り?」

「スサオミはここしばらく星読みに凝っていてね。そもそも私の特技だったのだが、珍しく教えを請われたから伝授してやったのだ。そうしたら色々な占いと組み合わせてさらに複雑な星読みの体系をいつの間にか組み上げたらしい。すべてのことが読み取れるわけではないが、読み取れるものに関してはかなり詳細にわかると説明された。悔しいことに素晴らしい理論だった。」

「オモイカネ様にそこまで言わせるなんて、さすがスサオミ様ですね!」

 ニニギの称賛の声にオモイカネがふてくされた顔を見せた。

「とにかく!スサオミから安全な情報であることは保証されている。この天津神を我らの味方にできれば心強いと思っている。」

「それはそうだと思いますが、その天津神はどうして地上にいるんですか?俺たちが地上に降りてからずいぶん経ちますが、今まで俺たちに連絡をよこさないのも不思議です。」

 スサノオの言葉にニニギも大きく頷いた。

「そう思うのは当然だ。

 その天津神の名はオオヤマツミという。山々の神だ。地上の山にはそれぞれ国津神がいるが、それらの長のような役割をしている。オオヤマツミが生まれた直後に、火の天津神であるカグツチが生まれた。いわゆる双子だ。そして火の神を生んだことでイザナミが大やけどを負い亡くなってしまった。

 出産に立ち会っていたイザナギは火に包まれ苦しむイザナミを見て錯乱し、カグツチを切り殺そうとしたそうだ。オオヤマツミはそんなイザナギを昏倒させて逃げ出したんだ。

 我々が駆け付けた時にはオオヤマツミの姿はなく、死にかけているカグツチと、息絶えたイザナミを抱えて茫然としているイザナギしかいなかった。我々はカグツチの治療とイザナギの保護に精いっぱいで、オオヤマツの存在を失念してしまったのだ。双子の出産だったのを知っていたはずなのに。

 ところが先日、何とか一命をとりとめていたカグツチの容体が安定してきてね。オオヤマツミの名前を呟いた。それが私のところに報告され、イザナミの最後の出産が双子だったことを唐突に思い出したという次第だ。

 出産の手伝いをした者を慌てて探し出したところ、カグツチの屋敷に居てね。聞いたところオオヤマツミが地上に降りて行ったのを見たということだ。」

「なぜその者は今まで黙っていたのですか?」

「カグツチへのイザナギの怒りも目の当たりにしていたから、オオヤマツミにも怒りが向くのではないかと恐れて黙っていたそうだ。申し訳ないと平謝りされたが、今となっては我々に好都合なので不問とした。」

「そのお話を聞く限りですと、オオヤマツミ様が、地上にいる我々に連絡してこないのは、我らを恐れたり嫌っていたりするからではないでしょか?」

「その可能性もある。だが力を貸してもらえるかもしれない。それに地上に長らくいるということは、人の心の機微も我々よりもわかっていることも期待できる。

 前にスサノオが心の機微がわかる人材が欲しいと言っていただろう?高天原から送り込むのはなかなかに難しく、何時になるか分からない。だからオオヤマツミのところに行ってみてはくれないか?」

 心配げなニニギの言葉にオモイカネも難しい顔で答えた。

「・・・そうだな。それが良いかもしれない。もし助力を得られなかったとしても、それは今までと同じということだ。助力を得られたら儲けもんぐらいの気持ちで行ってみるか・・・。」

 それまで黙って聞いていたスサノオが呟いた。

「オモイカネ様。オオヤマツミ殿のところにはニニギに行ってもらおうかと思うのですがいかがでしょうか?」

「本当はスサノオが行ったほうが心証は良いと思うのだが、スサノオがこの地を離れるのは望ましくないからそれがいいだろうね。」

「ちょっといいことを思いついたんです!

 ニニギは若い天津神なので、妖やオニムカデを追ってたまたまオオヤマツミ殿のいるところに彷徨いこんだ風を装ったらいかがでしょうか?できれば、オオヤマツミ殿の家族や部下を助けるとかして顔をつないでっもらったらいい感じかなと。」

「え?スサノオが策略なんて考えちゃうの?」

「しかも結構いい案!なんて進歩なの・・・。お姉さま泣いちゃう。」

 スサノオの提案にツクヨミとアマテラスが大げさに驚いた。

「それは確かにいい案だな。ニニギできるか?」

 オモイカネも賛同した。

「はい!是非やらせてください。」

「「本当に地上に(嘘)追放されてよかったね!」」

 ニニギは快諾し、ツクヨミとアマテラスはスサノオの成長を喜んだ。


  ◇


「では、今日はこの辺で終わりにしよう。」

「あ、兄上。似顔絵の写し取りはできたのか?」

 オモイカネの〆の声に、アマテラスとツクヨミのせいで少々むくれていたスサノオが言った。

「これを見よ!」

 ツクヨミが得意げに紙を掲げた。

 そこには確かにハクロが書いた風の絵が描いてあったが、線が微妙に歪んでいて、ほのぼのとしていた絵に、おどろおどろしさがプラスされていた。

「・・・兄上はもう少し絵心があったほうが良いかもしれません。」

 スサノオの言葉に皆が大きく頷いた。


 次回は因幡の似顔絵をもってくることと、ツクヨミがもう少し絵を練習することを約束して通信は終わった。


 余談だが、ツクヨミがなぞったスサノオの似顔絵をもらったスサオミは、大笑いしたが、大切に額に入れて部屋に飾っているとのことだった。

次回はニニギがオオヤマツミに会いに行きます

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