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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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45.地上の混乱〜妖と人の子

 地上は平穏でなくなった。いや、以前からオニムカデが出たり、あちらこちらで主に人による小さな諍いからそれなりの戦まで起きてはいた。しかしそれらはすべて知っている生き物の形をしていた。

 ニニギの血から生まれた黒い稲妻によって焼かれた生き物から発生した黒い霧。それに憑りつかれた生き物は異形で、さらに様々な能力を持っていた。多くの目玉を持つ巨大な肉の塊であったり、いくつもの口を持つ女だったり、そして巨大な体と怪力を持つ恐ろしい顔をした男だったりした。

 さらに厄介なのは、日中はどこにもいないのに日が暮れ始めると何処からもなく現れるのだ。それらは人をはじめとする生き物を食らったり、呪ったり、病をばらまいたりする。人々は日が暮れ始めると急いで帰り、戸締りをしっかりした家の中で明かりを灯し、ぐっすり眠ることは出来ないまま夜をやり過ごすのだ。

 まさに”神の呪い”。人々はそれらを”(あやかし)”と呼ぶようになった。

 

 因幡とオオクニヌシは国中をめぐりながらオニムカデと共にその妖たちの調査と退治を行い、ニニギは転生した魂魄が住まう地域と葦原中国で活動を行っていた。定期的に葦国中原に戻り互いの状況や妖たちの情報を交換するのだが、妖たちは種類を増やし、出現場所も全国に拡大していっていた。

 そんなある日、葦国中原に戻ってきた因幡とオオクニヌシは赤子を胸に抱いていた。

 「え?誰の子?」

 スサノオとニニギが赤子の顔を覗き込むと白銀の髪に赤い目と、色合いが因幡に似ていた。

 「白鰐のお姫様との子供が生まれたのか?」

 「何を言ってるんですか。思いが通じあったとはいえ、対面すらできていないのに子供が出来るわけがないでしょう!」

 因幡は、オモイカネとスサノオを介してだが白鰐のお姫様と気持ちが通じ合い、最近とても溌溂としている。

 「この子は妖と人間の間に生まれた子のようなんです。母親は子を産んでしばらくして亡くなってしまったのですが、祖母にあたる人間が匿っていて。周囲に怪しまれ始めたとのことで我々のところに訪ねてきて託されました。」オオクニヌシが答えた。

 「妖は、人との間に子を作れるというのか・・・。

 その子は本当に人間の子供ではないのか?」

 「はい、祖母の話ですと自分たちの周りにこのような色味の子は生まれたことがないと。娘が山で迷って次の日まで帰ってこなかったことがあったそうです。娘は大きな白蛇に助けられたと言ってたようで。おそらくその蛇が父親かと。」

 「妖が人を助けることもあるんですね。それとも子供を作ることが目的だったのかな?

しかしこの子可愛い。」

 ニニギが赤子のほっぺをつついた。その時だった。

 「やめて!」

 小さな声が聞こえた。

 「え?」

 皆が周りをきょろきょろと見渡した。

 「ぼくです!」

 また聞こえた小さな声と共に、赤子が小さく手を挙げた。

 「えっ!?」

 全員の目が赤子に集中し、抱きかかえていた因幡は動揺のあまり取り落としそうになり慌てて抱えなおした。

 「びっくりした~。落とさないでくださいね。」

 「お前がしゃべったのか?」因幡は赤子が逃れないようにぎゅっと抱きしめ、厳しい口調で言った。オオクニヌシとニニギは太刀に手をかけつつスサノオの前に出て、いつでも攻撃できる態勢を作った。

 「そうですが、僕に敵意はありません。僕の父にもです。」

 「どういうことだ?」オオクニヌシが訊ねた。

 「先ほどおっしゃられていたように僕の父は白蛇の妖です。人に危害を加えるつもりは全くなく、むしろ母が住む村を守っていました。」

 「妖が人の村を守るなんて、本当なのか?」

 「本当です。僕の父は妖になる前は普通の白蛇だったのですが、目立つことから大きな鳥に襲われたそうです。その時にまだ子供だった母に助けてもらったとか。妖になってから母を陰ながら守っていたのですが、山で迷っていた母を助けてその時に思いが通じあったとか。」

 「えっ!?だって蛇の姿なんだよね?」

 「・・・蛇の姿だって素敵だとは思いますが、父は人間に似た形に変化できるそうで。」

話を進めていたオオクニヌシが驚くとむくれたように赤子が言った。

 「あ、ごめんね。そうだよね。蛇の姿だって素敵だと思う。因幡の耳もカッコ良くて可愛いしね。」

 因幡が照れてオオクニヌシを肘で小突いた。

 「とりあえず、母も父に心を寄せたそうで、夜な夜な会っていた結果、僕を授かりました。」

 「なんで君はそれを知っているの?」

 「生まれた僕に母が話してくれました。」

 「君がこんなに賢いことを母上やおばあ様は知っていのかな?」

 「母には知られましたが、母から普通の赤子はしゃべらないから祖母には内緒にするようにと言われました。きっと驚いて怖がられるからと。」

 「母上は賢い方だったんだね。」

 「・・・はい。だけど僕を生んだ時に出血が多かったらしく、結局ひと月ほどで亡くなってしまいました・・・。」

 「父親の妖はどうしているか知っているのかな?」

 「父は、母の葬儀で皆が出払っているときに僕に会いに来てくれました。僕はその、村の人に見られたら殺されるかもと祖母が。ごめんねって泣いてました。」

 「そうだね。君のおばあ様は僕たちに預ける時も離れるのが辛いと泣いていた。」

 オオクニヌシは赤子の頭をそっと撫でるとスサノオを見た。

 「スサノオ様。この子を引き取ることを許していただけないでしょうか?」

 「ここなら色合いが同じな僕がいるから奇異な目で見られることもないと思いますし!」

因幡も後押しをした。

 「うん、そうだな。ここで暮らすがいいよ。」

 スサノオが即答した。何なら彼はもらい泣きをしていた。

 「いやいやちょっと待ってください!」

 ニニギが待ったをかけた。

 「確かにその話をそのまま信じるなら、ここで暮らしたらいいと思いますが、大丈夫ですか?妖たちの策略だったりはしませんか?それに僕たちの中で赤子の世話などできるものはいないでしょ?」

 まともな意見に皆黙り、赤子を見つめた。

 「確かにそのように思われても致し方ないと思います。では僕の真名をスサノオ様に縛っていただくのはいかがでしょうか?」

 「真名を縛る?」

 「えーとご存じない?

 妖たちの間では常識になるのですが、妖は生まれたときにその核に真名が刻み込まれます。それは本人以外親にも知ることが出来ないものです。真名の名において命令を下すことが出来るからです。すなわり真名を誰かに知られるとは、その誰かに行動と命を握られることになります。」

 「それを俺だけに教えると?」

 「はい。皆様にお教えすることは漏れるリスクが増えるので、お一人にさせていただきたいのですが、だめでしょうか?」

 「いや、そんな大事なことを一人とはいえ、会ったばかりの俺に教えて良いのか?」

 「信用していただくためです。

 実は僕以外にも妖と人間の間に生まれた子供が沢山いるそうです。父が言っていました。僕は大切にしてくれる祖母がいたので良かったのですが、捨てられたり場合によっては殺されることもあるそうで。僕を信じていただければ、同じ境遇の者も助けていただける機会があるのではとのそんな計算もあります。」打算的ですみませんと赤子が言った。

 「はぁ~・・・。もう賢いなー・・・。

 スサノオ様、この子は逆に我々の仲間になってもらったほうが良いかもしれません。」

 ニニギはやられたとばかりに頭を抱えた。

 「真名教えてもらって、その効力確認したらもうウチの子でいいんじゃないでしょうか?」



 赤子が耳打ちした真名を思いながらスサノオは心で念じた・・・”ばんざいして”・・・。

途端に、因幡に抱かれていた赤子がおくるみから両手を出しばんざいを始めた。

 「もう少しかっこいい命令が良かったです・・・。」

 赤子がそう言うと皆が残念そうにスサノオを見た。 


 

 「じゃ、これからうちの子になるわけだが呼び名がないと不便だな。それと実際問題、世話はどうしようか?」

 「スサノオ様、実はこの子、色々と自分でできるのです。私も因幡も子供がいないので良くわかっていなかったのですが、よちよちですが歩けますし、自分で御不浄も済ませますし、食べ物も渡せば自分で食べておりました。」

 「えっ?こんな小さいのに?」

 スサノオはあっという間大きくなったとは言え、娘もいるしニギハヤヒの息子の成長も見ていたので、心底驚いた。

 「僕は妖の血を引いていますので・・・。大きくなるのも普通の人間より早くなるかと思います。」

 「そうか。じゃ、様子を見つつ皆で手助けをしよう。いつも一緒に入られないから、数羽の鳥人をつけよう。」

 「鳥人とはなんですか?」

 「鳥の頭と人の体を持つ我々の仲間だよ。

ああ、そうだ。彼は神力を持たぬからどのように見えるかわからないな。

ニニギ、ゴーマを呼んでくれ。」

 ニニギに呼ばれたゴーマがやってきたが、赤子を見た瞬間飛びのいてニニギの頭の後ろに隠れ震えた。

 「どうしたの?ゴーマくん!」

ニニギが慌てた。

 「へ、へびの気配が!!

  あれ?人間の赤子?」

 震えながらゴーマが赤子を覗き首をひねった。

 「なるほど、鳥から見たら蛇は天敵か。ところで赤子よ。君にはこれがどう見えている?」

 「羽が生えた小さな人間に見えます。」

 スサノオの問いに赤子が答えた。

 「鳥の頭ではないのか?」

 「いえ、可愛らしい人間の男の子です。小さいし羽生えているけど。」

 ニニギも驚いている。

 「ゴーマ、この子の世話を鳥人がするのは難しいか?」

 「僕たちに絶対に危害を加えないことを誓ってもらって、僕たちが慣れれば大丈夫かと思います。」

 「ねぇ、赤子くん、ゴーマくんの顔描ける?」

 スサノオとゴーマの会話などそっちのけでニニギは赤子に話しかけた。

 

  ◇


 母の名前が露乃(つゆの)だったとのことで赤子は白露(ハクロ)と名付けられ、ニニギには筆が持てるようになったらゴーマの似顔絵を絶対に書くと約束させられた。

 ハクロには数羽の鳥人がつけられた。皆最初は怯えていたがすぐに慣れ、そしてハクロ自身も10日ほどで3歳児程度の大きさになり、ほとんど手が駆らず遊び仲間のようになっていた。

 「明日は、鏡通信の日だな。」

 スサノオが呟いた。

 「ハクロのこと報告したら驚かれますね。」

 ニニギの言葉にスサノオがニヤリと頷いた。

「皆ビックリすることだろう。楽しみだな!」


 そう思ってワクワクしていた二人だが、それ以上に驚かされる報告があった。なんと地上に二人以外に天津神がいるとのことだった。

久々です。

よろしくお願いいたします!!

しばらく不定期になってしまいます。

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