遊園地2
遊園地のゲートをくぐると、さっきまで遠くに見えていた賑やかさが、一気に目の前に押し寄せてきた。
耳に入る陽気な音楽。
ポップコーンの甘い匂い。
風船を持って走り回る子供たち。
カップル同士で腕を組んで歩く大学生くらいの男女。
制服姿の高校生グループ。
誰もが笑っている。
その光景を見た瞬間。
ユキナの足がぴたりと止まった。
「……どうした?」
「すごい」
ぽつりと呟く。
「みんな、楽しそう」
その声には、羨望みたいな感情が少し混ざっていた。
俺は少しだけ胸が痛んだ。
きっとユキナは。
本来なら、この中にいた側なんだ。
友達と騒いで。
くだらないことで笑って。
「写真撮ろー!」とか言って。
青春を過ごしていたはずだった。
でも、それがなかった。
気づけば死んでいた。
記憶もなく。
一人、誰も来ない部屋に取り残された。
そんな時間を思えば。
今日くらい、馬鹿みたいにはしゃいでもいい。
「よし」
俺はわざと明るく言った。
「今日はやりたいこと全部やるぞ」
「全部!?」
「全部」
「破産するよ!?」
「うるさい」
思わず笑ってしまう。
ユキナもつられて笑った。
その笑顔が見れただけで、少し安心した。
「それで、最初は?」
そう聞くと。
ユキナは迷いなく、びしっと前を指差した。
「コーヒーカップ!!」
そこにはカラフルに回る巨大なコーヒーカップ。
子供向けアトラクション。
……いや待て。
「最初それ?」
「うん!」
満面の笑み。
まあ、いいか。
俺たちは列に並んだ。
休日だからか、人はそこそこ多い。
前には親子連れ。
後ろには高校生グループ。
ふと周りを見ると、隣に立つユキナは終始そわそわしていた。
「まだかな、まだかな」
「落ち着けって」
「だって初めてなんだもん」
そんなことを言われると、何も言えなくなる。
十数分後。
俺たちの番が来た。
丸いカップの中に座る。
中央には回転用のハンドル。
ユキナが目を輝かせる。
「これ回すやつ!?」
「そう」
「いっぱい回して!!」
「いや加減――」
「いっぱい!!!」
……嫌な予感しかしない。
アトラクションが動き出した。
ゆっくり。
ゆっくり。
円を描くように動き始める。
「おおーーー!」
ユキナが歓声をあげた。
まるで小学生。
いや、それ以上かもしれない。
その笑顔があまりにも無邪気で、こっちまで笑えてくる。
だが。
問題はここからだった。
「もっと回して!」
ハンドルを握る俺。
「いや酔うだろ」
「大丈夫大丈夫!」
「お前幽霊だからだろ!」
「いけるいける!」
……まあ少しだけ。
そう思って回した。
ぐるっ。
「もっと!」
ぐるぐる。
「もっともっと!!」
ぐるぐるぐるぐる。
世界が回る。
景色が流れる。
視界がぐちゃぐちゃになる。
脳が揺れる。
「待て……無理……」
「たのしーーーー!!」
ユキナだけ超元気。
こっちは限界。
アトラクションが止まった頃には、完全に俺の三半規管は終わっていた。
ベンチに座る。
「うっ……」
「アキトさん弱ぁい」
ケラケラ笑うユキナ。
くそ。
元気そうなのが腹立つ。
「お前が回せって言ったんだろ……」
「でも楽しかった!」
その一言で。
まあいいか、と思えてしまう自分がいた。
少し休憩してから、次に向かったのはお化け屋敷だった。
入口を見た瞬間。
ユキナの顔色が変わった。
「……やっぱやめない?」
「え?」
「怖いの苦手」
「幽霊が何言ってんだ」
「それとこれとは別!」
真顔だった。
意味がわからない。
「お化け出てきたらどうするの!?」
「お前が一番怖い存在だろ」
「失礼な!」
ぷんぷん怒っている。
けれど。
怖がってるユキナが少し面白くて、俺はついニヤついてしまった。
「大丈夫だって。一緒に行くから」
そう言うと。
ユキナは少しだけ黙った。
それから、小さな声で。
「……絶対離れないでね」
と言った。
その言い方が少し弱々しくて。
子供みたいで。
なんだか放っておけなかった。
中に入る。
暗い。
湿っぽい空気。
不気味なBGM。
突然飛び出してくる人形。
悲鳴。
「ひゃああああ!!」
ユキナが思い切り俺の腕にしがみついてきた。
近い。
というか近すぎる。
制服越しに体温なんてあるはずないのに、変に意識してしまう。
「アキトさん前見て!!」
「お前が見ろ!」
「無理ぃ!!」
結局。
ほぼずっと腕を掴まれたまま、お化け屋敷は終わった。
外に出る。
明るい日差しを見て安堵した。
「し、死ぬかと思った……」
「幽霊が?」
「精神的に!!」
ユキナは涙目だった。
でも。
その後すぐ。
「でも楽しかった」
と笑った。
その顔を見て。
俺も、なんだか笑ってしまった。




