商売の成功、贖罪の栄光
お題 : 贖罪の栄光
必須要素 : 腸内洗浄
制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)
「腸内洗浄」。
「懲戒免職」。
別に韻を踏んでいるわけではない。
一見全く無関係にみえるこの二つの単語は、私の人生においては強い因果関係で繋がっている。
これから語られるのは、私の人生の一ページだ。
過ちを犯し、全て失い、それでも前を向いて再起を果たした、贖罪と栄光の物語だ。
ちなみに「贖罪の栄光」と「腸内の洗浄」でも韻が踏めるな。
別にどうでもいいことだが。
◇◇◇
私はかつてオアイオ州クリーブランドで小さな医療センターの事務員として働いていた。
収入は決して多くはないが、妻と子の三人で生活する分には十分な稼ぎを得ていた。
その頃の私は、医師免許も看護師免許も持っていなかった。
そのかわり、勉強の末にコロンハイドロセラピストの資格を取得していた。
コロンハイドロセラピストとは、腸内洗浄に関する専門的な職業である。
腸内洗浄。
特殊な器具を使ってその名のごとく腸内を洗い、場合によっては善玉菌を注ぎ込む医療行為。
その行為は、主に便秘や下痢に困った人々の体調改善に効果があるとされている。
他にも肌質の改善やダイエットを目的に腸内洗浄を受けようとする人たちもいる。
私はそういった人々に、正しい知識と技術で腸内洗浄を施す仕事を副業としていた。
雇い主も、その副業は知っていたが特に何も言われることはなかった。
普段は医療センターで書類雑務を淡々と行い、休日には副業に精を出す。
そんな生活がおよそ二年ほどは問題なく続き、貯金もどんどん増えていった。
魔が差したのは、このあたりのことだった。
コロンハイドロセラピストには、やってはいけないことがある。
その仕事はあくまで器具と技術を患者に提供し、正しく指導することだ。
しかしコロンハイドロセラピストは、医師でもなければ看護師でもない。
つまり、医療行為そのものを実際に行うことは認められていなかったのだ。
少なくとも、私の住んでいた州ではそのような法制度になっていた。
にもかかわらず。
ある日のこと、私は患者にお願いを持ち掛けられた。
自分では上手く肛門にチューブを差し込めないから、代わりにやってくれないか、と。
悪いことだと知っていたし、その作業も初めてのことだったが、軽い気持ちで安請け合いした。
今となっては悔やみきれないことだ。
結果、チューブはその患者の腸を抉るように傷つけ、激痛を与える結果となってしまったのだ。
患者は激怒し、合衆国特有の訴訟起こしを敢行。
結果、私の法律違反も広く世間に知れ渡ることとなった。
当然ながらコロンハイドロセラピストの資格は剥奪。
これまた当然のように、医療センターからは解雇された。
そして妻もまた、子とともに家を出てしまった。
己の職の領分を見誤り、安易な行動を起こしたツケ。
その代償として私は、全てを失ったのだ。
残されたのは被害患者への賠償金と、妻への慰謝料だけだった。
かつての日常は崩壊し、贖罪の日々が始まったのだ。
◇◇◇
そう、かつて私は一度全てを失った。
だが、それでも今、私はこうやって君たちの前に立っている。
賠償金を支払うために、私は必死になって様々な商売に手を出した。
成功を掴むために、必要な知識は全て必死に学んだ。
商売は少しずつ芽を開き、興した会社はいつしか軌道に乗った。
全ての賠償金を払い終わってもなお、私は必死に働いた。
そうしていつのまにか、私は財界でも有数の成功者になっていた。
贖罪の日々は、いつのまにか栄光の現在へと至っていたのだ。
諸君。
今日は私のパ―ティに参列いただき、本当にありがとう。
そしてこの場で出会った君たちのために、ささやかながらアドバイスを贈ろう。
これから先、君たちの人生のなかで、もしも恐ろしい不運が待ち構えていたとしても。
あるいは君たち自身の過失で、全てを失うようなことがあったとしても。
そのときは、私が今日話した私自身の人生について、思い出してみてほしい。
君が立ち上がることをやめない限り、かならず道は切り拓くことができる。
贖罪の先にも栄光の可能性が残されているのだということを、決して忘れないでほしい。
最後に。
君たちとの時間はとても楽しかったよ。
本当にありがとう。
それでは、さようなら。
また会う日まで。
【後書き】
この投稿日からみて翌日には終了を迎える予定の即興小説トレーニングサイト。
本作は、先だって土曜日に行われた最後の即興小説バトルの参加作品となった。
私にとってはある種の区切りとなる本作において、引き当てたお題は「贖罪の栄光」。
必須要素は「腸内洗浄」。
偶然にも互いに韻が踏めそうなワードの組み合わせとなったことから、もう一つ踏みこんで「懲戒免職」というキーワードをベースにお話を組み立てていった。いつものやりくち。
なお作中の医療行為や法律に関する諸々の描写は想像で書いたフィクションなので悪しからず。
ともあれ最後の挑戦ということで、それっぽいお別れのメッセージでラストを締めくくってみた。
サイト運営の皆さま、お疲れさまでした。




