新年も闇も、かならず明ける時がくる
お題 : 複雑な闇
必須要素 : ラー油
制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)
小説を書きたかったはずだった。
別に作家として大成したいとか、世間に認められたいとか、そんな夢みたいなことを考えたわけじゃあない。ただ、自分の思いついた物語や文章が誰かに面白いと感じてもらえたら、きっと素敵だろうなと思っただけだった。
特段温めていた構想があるわけでも、文章に自信があるわけでもない。
じゃあ何故小説を書こうなどと思い至ったのか。
最も正解に近い答えは、「なんとなく」だったと思う。
なんとなく、それをやってみることで何かが変わる気がしたのかもしれない。
あるいはそこに理由なんてなかったのかもしれない。
このサイトで即興小説トレーニングに参加してから、もうすぐ一年が経とうとしている。
だが最初期を除いてバトル以外のトレーニングはやっていない。
そういう意味ではこのサイトで修練した割合は一年のうち一割にも満たない。
最近ではお題に対して上手くネタが浮かばないことが増えたし、筆が乗ったと思えば世のポリコレやコンプラに引っかかりそうな酷い物語に仕上がることも多々あった。
牛乳とラー油を混ぜたような酷いものだった。
終わってみて何度も落胆したし、保存せずにリタイアすることだってあった。
他の人が三千字を超えつつも整った文章で面白い即興小説を書いていたりするのを横目に、タイピングの遅い私は二千字前後でグダグダな文章を書いていた。
多分途中で小説を書くことを辞めることもできたと思う。
でもどうやら文章執筆自体は楽しかったようで、飽きることなく私はここまでやってきた。
かといって、地道に研鑽を重ねたかといえばそうでもない。
即興小説以外にも毎日文章を書くことを当初から目標に掲げたものの、それが達成された日はほとんどなかった。
オリジナルの中長編作品を書きたいと思い立ち、プロットと何時間も格闘したことがあった。
だがそれは結局未だに形になっていない。
あまりに先が見えなくて、いつしか執筆に対する意欲は少しずつ削られていったように思う。
物語が書きたいなら、作品を生み出したいなら、まずは一文字でもいいから書き始めるべきだ。
そんな簡単なことに、どういうわけかやる気が出てこない。
飽きたわけでは断じてない。諦めたわけでもない。
そのはずなのに。
今日こそは、少しでも動き出したい。毎朝、自分にそう言い聞かせる。
別に大して仕事が忙しいわけでもないのだから、やろうと思えば出来るはずなのだ。
でも気付けばその日一日は、動画鑑賞やネットサーフィンやソシャゲ消化のために溶けていく。
やりたいことが決まっていて、そのやる気が湧いてくるのを待っている。
そんな奇妙な話があるだろうか。
ーーー
思えば前からそうだったのかもしれない。
もともと私はデスクトップミュージックと呼ばれるPC上での音楽制作を趣味としていた。
この頃は一曲でもまともな楽曲を作りたい一心で製作作業に熱中した。
しかしメロディ作りに苦戦し、ミキシングの難解さに挫折して、いつしか辞めてしまった。
難聴になりかけたのも理由としてはあるが、おそらくは心が折れていたのだろう。
だけれど、私は未だに思っているのだ。
いつかまた何かの折に熱が戻って、音楽制作と再び向き合う時がくると。
そしていつかはちゃんとした曲を完成させると。
それはあまりに都合のよい、夢みたいな話だった。
そして小説執筆という趣味に関しても、また同じような道を辿りそうな気配がある。
私はまだ、オリジナルの物語を執筆することを諦めてはいないのだ。
相応の努力も活動もしていないのに。
加えて最近では、イラスト製作にも興味を持ち始めている。
もう滅茶苦茶だ。芯がないにもほどがある。
ーーー
果たして私は、まっすぐ歩いているのか。
先の見えない、暗闇のようなこの人生を。
夢や目標は人生にとって光だ。
そして私にとって音楽制作や小説執筆といったそれぞれの趣味にまつわる目標は、小さくも魅惑的な輝きを放っている。
複雑怪奇な人生の闇の中、私はそんな輝きに惑わされるようにしてふらふらと進んでいく。
それはちょうど、夏の夜に蛍を追いかけてまわる子供のように。
魅力的な輝きは、齢を重ねるたびに増える一方。
追うのを諦めてしまえばきっと楽になれるのだろう。それが大人なのだろう。
だけど私はそれをしない。
あまりに子供じみた執念だけれど、受け入れてしまえばそれもまた自分。
きっとずっと、私はそうやって光を追いかけていく。
初期衝動は、未だに胸の中にある。
【後書き】
いつかの正月明けの新年一発目の即興小説バトルにて書かれた本作。
その頃の心情のようなものをつらつらと書き連ねた、小説というよりは自分語りエッセイの類だ。
はてさて、書かれている内容を読み返すと、今の現状とさほど変わっていないことに気付く。
なんとも自分が成長していないということを改めて思い知らされることになってしまった。
一方で、まだ自分の中に執筆というものへの初期衝動が残っているらしいことも再確認できた。
ある種の気持ちの締めくくりとして、この即興小説短編集のラストを飾るのにはちょうどいい作品だと思う。




