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妻は新たな趣味を見つけたようです

お題   : 大きな彼女

必須要素 : 脂肪吸引

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)

 「またこの類の死体か」


 うんざりする、という言葉が続いて聞こえてきそうな口調だった。

 不謹慎ではあるが、その気持ちは分からないでもない。


 「先輩、どうしましょうか。本庁の応援は要りますかね?」


 一回り歳の離れた部下の山西が死体に手を合わせながら言った。

 俺は改めて死体発見現場を一瞥する。


 まだ現場に到着している警察関係者は俺と山西の二人だけだった。


 「そうだな。とりあえず連絡いれとけ。それにしても鑑識は遅えな」


 冬の寒空の下。

 人通りの少ない丁字路の電柱のそばで、その奇妙な死体は発見された。


 ここ最近ではよくニュースにもなっており、ある意味では流行りものだ。

 そして今回の死体は実のところ、十二件目の類似事例ということになる。

 つまりは、連続殺人。

 模倣犯の存在の可能性も捨てきれないが、まあまず間違いないだろう。


 一連の事件の死体に共通するのは、首元に残された犯人と思わしき人物の噛み跡と――。

 体全体が妙に干からびて、ところどころ萎んでしまっていることだった。


 鑑識医の話では、被害者の体から脂肪が失われているということらしい。

 なぜそうなっているのかは、未だによく分かっていない。


 今回の第一発見者は犬の散歩途中の主婦。

 きっとそれを目にしたとき、心臓と胃の中身が同時に口から出そうな不快感を味わったことだろう。


 「まったく、こういう殺し方をする犯人ってのは、どんな奴なんだろうな」


 あえて死体に目をくれず、俺は山西の背中に問いかけた。


 まったくもって、こんな殺し方を好きこのんでやる人間がまともなわけはない。

 きっと異常な快楽殺人者に違いないだろう。

 警察内部でも、その見解が大多数だ。


 だが山西の返事は少し違った。


 「もしかしたら、生きるためなのかもしれませんよ」

 「はあ? 何言ってんだ。お前」


 思わぬ返事に、俺は反射的に野次を投げた。

 山西はそれを気にすることなく言葉を続ける。 


 「毎回死体の首元に噛まれた跡があるじゃないですか」

 「あるな」

 「そんでもって、死体からは毎回脂肪が無くなっているじゃないですか」

 「そうだな」


 だったら、と山西は勢いづいた。


 「おそらく犯人は、人を襲って脂肪を吸い取っているんですよ。吸血鬼の脂肪バージョンです」

 「……いるよな。そういうこと言ってるやつ。本部でもそんな感じの主張を真面目にしてる刑事がけっこういるらしいってんだから驚きだわ」


 あくまで冗談として俺は受け取った。

 だが山西は真顔で続けた。


 「そんなにおかしい話でもないと思いますけどね。今やシリアルキラーの動機なんて千差万別なんですよ。殺した相手の脂肪を喰らうことで性的興奮を得ている、なんてこともありえる時代です」

 「ありえるか?」

 「大いにあると思いますね。昔、海外ドラマでもそんな感じのエピソードがありましたよ」

 「ここは日本だ。アメリカじゃねえんだぞ」

 

 自分ではそういいつつも、はたと思いなおす。

 犯罪の嗜好に、国は関係ない。

 ましてや今は令和の時代。

 ネットワークの進化は、犯罪動機にグローバル化と多様性をもたらしたのかもしれない。


 山西のいうこともあながち的外れとは言い切れない。

 事実として、非外科的な方法で脂肪吸引された死体があちこちで見つかっているのだ。


 それらの犯行が、脂肪を喰らうことが目的なのだったのだとしてもおかしくはない。

 性的嗜好を満たすためかもしれないし、宗教的な意味があるのかもしれない。


 もちろん本庁の多くの人間が考えるように、ただの快楽殺人者である可能性もある。

 だがそれだと、死体から脂肪を抜くという面倒な処置をする理由が見当たらない。

 見つかるリスクのほうが大きいと思うのだが。


 そんなことを考えていると。

 数台のパトカーの音が耳に届いてきた。

 ようやく応援が到着したのだ。


 結局その日は、とくに現場では死体以外のなにかが見つかることはなかった。

 俺と山西は、第一発見者に事情聴取をしたあと、山のような事務仕事をこなした。


 そしてその日の職務を終えて、ようやく自宅に帰ったのは二十三時をまわった頃だった。


 「ただいま」

 「おかえり」


 俺が帰宅の挨拶を玄関ですると、居間でテレビを観ていた妻が返事をした。

 職務を忘れて心の底から安心できる、いつものやりとりだった。


 俺はスーツを脱ぎ捨て、台所の冷蔵庫からビールを無造作に掴んだ。

 そうして一気にビールを喉の奥に流し込む。

 そのままの勢いで居間に足を運ぶと、妻と目が合った。


 「お前、最近どんどんと大きくなってねえか? 太りすぎだぞ」


 酔いのせいかデリカシーのない言葉が無抵抗で口から出てきてしまう。

 だが妻はとくに気にしない様子で答える。


 「ちょっと食べ過ぎかしらねえ。最近、美味しいモノをみつけちゃって、ハマってるのよ」


 妻は笑いながら口元に手を当てた。

 

 「はまってるって? 俺に黙って美味いモノでも食べてるってのかよ」

 「うふふ、秘密よ」

 「おいおい、警察の俺に隠し事は無しだぞ」


 俺が冗談めかして追及するが、妻はそれをはぐらかすようにしてテレビ番組に視線を戻した。


 まったく、俺に隠れてなにを喰ってるんだか。

 教えてくれたっていいじゃあないか。


【後書き】

 作品タイトルでネタバレしてるシリーズ。

 まあお題の時点でネタバレしてる気もするので問題はないだろう。

 最近ではこのくらいのオチはありきたりの範疇だとも思うし。

 

 なお作中で言及されている海外ドラマのエピソードは読者によって違う作品を想像すると思うが、作者自身はX-Filesの「スクイーズ」の回を想定して書かせていただいた。

 こちらは人間の肝臓を喰うことで冬眠用の栄養素を蓄える殺人鬼が登場する。

 脚本家は一体なにを喰ったらこんな発想ができるんだろう。人の肝臓じゃねえだろうな。

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