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鋭い王

お題   : 鋭い王

必須要素 : ご飯

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)

 「大変だ、大変だ」


 従者が慌ただしく執務室に駆け込んできた。

 そのただならぬ様相にびっくりしてしまい、領主ポトフキンは思わず手に持っていたスキットルを落としてしまった。

 安物の硝子細工のスキットルは机上で砕け、中身のウォッカが重要書類を容赦なく濡らしていく。


 「君はいつもドアをノックせずに入室するね。何度注意すればいいのかな、シドナンシーくん」

 「申し訳ありません、ポトフキンさま。しかし、一大事なのです」


 大して悪びれる様子もなく、従者シドナンシーは答えた。

 その態度を多少忌々しく思いつつも、領主ポトフキンは努めて落ち着こうとする。


 「おかげで机の上が酒でびしょ濡れだよ。それで、何事かね」

 「領主よ、執務中に酒なんぞ呷っている場合ではありません。大変なことになりました」

 「何があったというのかね」

 「我が領土始まって以来の危機です」

 「だから、その内容を言いたまえ」


 苛々しつつも事態を把握しようとする領主ポトフキンに対し、従者シドナンシーは幾分言いにくそうにしながらも、ようやくその内容を口にした。


 「国王が、我らの領土に、視察に、来ます」

 「……なんだ、と?」


 思いがけない言葉に、領主ポトフキンは一瞬思考が止まりかけた。

 国王が視察? 馬鹿な。まだそのような時期ではないはずなのに。


 領主ポトフキンは、大帝国の片田舎オショウ村を治めている。

 オショウ村はかつて大帝国が戦争で奪い取った敵国の領土だった。一度は戦禍で焼き尽くされた土地であり、資源も少なく作物も育たないような貧しい村である。

 領主ポトフキンは国王直々の勅命によりこの村を豊かな農業の土地にすることを使命としていた。


 ところが領主ポトフキンの着任から十年が経った今もなお、オショウ村は全く農作物が育たない不毛の土地のままだった。

 村人は未だに貧しさから抜け出せず、その日の食事にも困っていた。

 領主ポトフキンが周辺の村となんとか交渉して、ようやく食料を確保している有様だった。


 要するに領主ポトフキンは国王の勅命を全く果たせていないのだ。

 十年経って、もうこんな村の事なんか国王も忘れてるだろうと舐めてかかっていた領主ポトフキンにとって、今回の視察の話は寝耳に水である。

 酒なんか呷っている場合ではなかった。


 「国王には、我が村が順調に農業を拡大していると書簡報告しています。しかし視察されてしまえば、それが大嘘であったとバレてしまうでしょう」

 「ぐぬぬ。まさかこんなド級の田舎にまで視察に来るとは思いもよらなんだ」

 「年貢の納め時ですね」

 「どうすればいい? どうすればこの難局を切り抜けられる? 従者シドナンシーよ。良い案はないのか?」


 あるわけないよなあ、と思いながらも領主ポトフキンはすがる気持ちで一応尋ねる。

 すると従者シドナンシーは、なんと首を縦に振った。


 「少し無茶かもしれませんが……一応、策はないこともないですね」

 「なんと。その方法とは?」

 

 従者シドナンシーは言うべきか迷ったような顔をしたが、結局は言葉を続けた。


 「国王がこの村に遠路はるばるやって来るまでおそらくは二週間ほどかかるはずです。その間にとりあえずハリボテを作りましょう」

 「ハリボテ、とは?」

 「どうせ視察といっても、国王が見て廻るのは領主館の周辺と、農地のみです。よって、その部分の土地にとりあえず見た目だけ立派な民家をいくつか建てるのです。農地に関しては、とりあえず周辺の村から野菜でも買い付けて埋めておけば素人には分からないでしょう」

 「なるほど。見せかけだけ取り繕おうというわけか」


 それは明らかに危険な橋を渡るような作戦であったが、もはや策をじっくりと考えるような時間も残されてはいない。

 領主ポトフキンは従者の策に賭けるしかなかった。


 そして視察当日。


 国王は領主ポトフキンにもてなされ、領主館で接待を受けていた。

 従者シドナンシーの策は見事に成功。

 立て看板よりはマシな程度の、見た目立派な民家を見た国王は、オショウ村が豊かな村であると確信したようだった。


 「わずか十年でここまで村を豊かにするとは、大したものだ」

 

 国王は饗宴の場で領主ポトフキンにねぎらいの言葉をかけた。

 内心はらはらしつつも、領主ポトフキンは胸を張って頷いた。

 当面の危機は去ったように思われた。


 「ところで領主よ」


 国王は、ご飯をもりもり食べながら領主ポトフキンに尋ねた。


 「なんでしょう」

 「うむ。今わしが食べているこの米なのだが……これは本当に村の作物かね?」

 「ええ、もちろんです」

 「そうか。しかしこの村を視察したとき、畑らしきものはあったが田んぼはなかったように思う。これはどういうことだろうか?」


 領主ポトフキンの心臓が跳ね上がった。

 食卓に出された米は、いや、それ以外のすべての食べ物は、周辺の村から急遽買い付けたもの。

 オショウ村で作物など育つはずもなく、そうするしかなかった。

 しかし、田んぼのないこの村で米が育たないなどという整合性までは考えが及ばなかったのだ。


 「説明したまえ」


 王の鋭い指摘。

 その冷たい声に、領主ポトフキンは、自分の命が長くないことを悟った。


【後書き】

 歴史上の有名エピソード「ポチョムキン村」をベースにして生まれた本作。

 このお題と必須要素でなぜそうなったのかは、今となってはよく分からない。


 ご飯は畑では作れないという理屈がラストに出てくるが、実のところ世界を見渡せば必ずしもそうとは言い切れないらしいことを挑戦終了後に知った。駄目じゃん。



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