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汚れた失踪

お題    : 汚れた失踪

必須要素 : 右膝

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)

 社長の右膝が失踪した。


 右膝、といっても別に身体の部位のことではない。

 頼りになる部下の事を「右腕」と言ったりすることがあるだろう。

 それとちょうど同じような感じで、社長が信頼を置いて召し抱えていた高齢の運転手のことを、社内では右膝と呼んでいた。

 ただそれだけの話である。


 右膝はどうやら四日前から完全に行方が分からなくなっていたらしい。

 最初は無断欠勤かと思われていたが、翌日には右膝の家族から通報を受けた警察が社内に事情を聴きに乗り込んできた。

 それをきっかけにして、右膝失踪の報は瞬く間に社内に広まっていった。


 そして今もなお、杳として行方は知れない。


 右膝が今どこにいるのか。

 そんなことは誰にも分かりっこない。

 推測するだけの材料がないのだから。


 だからだろうか。

 かわりに僕たち社員たちの興味は、「なぜ失踪したのか」に移っていった。


 警察の動向や本人のこれまでのそぶりから、右膝の私生活にトラブルがあったということは考えにくいように思われた。

 彼は人当たりも良く、誰かの恨みを買うような人物ではなかったのだし。

 それに借金などの火種を抱えているようには、少なくとも表向きは見えなかった。


 もしかしたら会社の金や情報を持ち逃げしたのでは、と吹聴するやつもいた。

 そんなものは、ただの下衆な勘ぐりでしかないだろう。


 右膝が失踪したことで、すでに警察が動き出している。

 そんなおおごとになるのは目に見えているのだから、そもそも失踪する必要がないじゃないか。

 悪事の発覚が無駄に早まるだけのことだ。まったくもって不合理である。

 そもそも今のところ、会社になにか損害の痕跡が見つかったなどという話は出ていない。


 ところが。

 右膝が何らかの不正をしでかして失踪したのだという噂は、日を追うごとにどんどん尾ひれが付いて広がっていった。

 横領、脱税、反社会勢力との繋がり、政治癒着などなど。


 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

 彼がそういう人間ではないことは、みんな知っているだろうに。


 失踪前は右膝と喫煙室で親しげに交流していた営業部の連中も。

 日々終電ぎりぎりの時刻に退社して、いつも右膝に車で送迎してもらっていた財務部の連中も。

 車両管理業務の一環として、運行前点検を右膝に手伝ってもらっていた総務部の連中も。


 彼に常日頃から世話になっていたはずのやつらが、彼のネガティブな噂を面白がって広めていく。

 なぜなのか。


 きっと事実なんてどうでもいいのだろうな。

 やつらは無責任な内容を無責任にネタにして無責任に楽しみたいだけなのだ。

 仮にそうではないという事実が明るみに出たとしても、やつらは素知らぬ顔で何ごともなかったかのようにするつもりなのだ。


 これは「汚れた失踪」だと誰かが言った。

 そうじゃない。失踪の事実をお前たちが勝手に汚しているだけのことだ。


 そう面と向かって言ってやれないのは、僕の弱さだろうか。

 右膝の名誉を守ってやれないのは、我が身可愛さだろうか。


 多分、きっとそうなのだろうな。


 右膝は今、会社の倉庫のなかにいる。

 一目につかぬように梱包資材に包まれて。

 段ボール箱に入れられて。

 物言わぬ骸となって。


 それを知っているのは、僕だけだ。

 

 今日もまた、社内で右膝に関する悪い噂を耳にした。

 何も知らないやつらが、勝手なことを言いやがって。


 酷い連中だよ。まったく。


【後書き】

 叙述トリックと呼ぶにはインパクトがやや薄いオチ。

 難しめのお題に時間を削られて、いろいろと中途半端な感じに仕上がってしまった感がある。


 私の後期の即興小説はこんな感じのサイコパスな登場人物がラストを締めくくるパターンが多々あったように記憶している。反省。


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