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カムイ・シャーク

お題   : 少年のボーイ

必須要素 : プチ整形

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)


 この冬、私は北海道に来ていた。

 目的は各地を旅行気分で観光しつつ、土着の妖怪に関する情報を現地収集することである。

 私は妖怪研究ブロガーなのだ。


 一昨年は青森、去年は秋田へ旅行し、それぞれの土地の妖怪伝承をかき集めてきた。

 今年はさらに海を越え、もとい海底トンネルを超えて偉大なる大地にやってきたというわけだ。

 いずれは日本全国の妖怪に関するデータをかき集め、整理し、ブログにあげることが私の夢であり、今のところはそれがライフワークだった。


 北海道といえば、日本人がイメージする妖怪とはまた違った趣きのある怪異がひしめいている。

 というのも北海道はもともとアイヌの住む土地であり、それゆえにこの地に伝わる怪異伝承も当然アイヌにまつわるものになる。


 かのろくろ首やぬりかべのような、恐怖話の肴として生まれた化け物はあまり有名ではない。

 代わりに人と自然に寄り添うカムイやコロポックルといった神格の存在が目立つ。


 だから正直、この北海道で目新しい妖怪の情報が入手できる望みは薄いと思っていた。

 何しろ時代は令和。かつての伝承が風化していることが予想されるからだ。

 

 ところが。

 何の気なしに立ち寄った石狩川付近のモーテルで、思いもかけない情報を入手したのである。


 その日、私はモーテルに接するこじんまりとした古いレストランで朝食を取っていた。

 まだ少年と思わしき給仕係ボーイが、おずおずと注文を取りに来た。

 そこで私はモーニングコーヒーを頼みつつ、この辺りでなにか妖怪にまつわる伝承はないかと尋ねたのだ。正直なところあまり面白い返事があるとは期待してはいなかった。


 しかし給仕係の少年は、こう答えたのだ。


 「この近くの川には、熊鮫が出るよ」


 くまさめ。

 初めて聞く単語だった。


 それは一体どういったものなのか尋ねると、少年はきょとんとして答えた。


 「熊の鮫だよ」


 私の脳内はクエスチョンマークで満たされた。

 上手くイメージできない。

 少年によると、熊鮫はここ最近多数目撃されるようになった怪異らしい。


 少年が語るところの目撃者によると、だ。

 目撃者が川のそばを散歩していると、激流の川の水面に鮫の背ビレのようなものが見えたという。

 なんで川に鮫が? と目撃者が疑問に思っていると、突然水面から巨大な獣が飛び出してきて地上に着地した。

 その獣の姿は、背ビレを持ち鮫のような牙が口元に並んでいることを除けば、まさに熊そのものであったという。

 故に熊鮫と呼ばれているのだとか。


 色んな目撃情報があるらしく、なかには五体の熊鮫がレースでもするかのように川を激泳していたり、あろうことか用水路から街に飛び出してきてタバコ屋を襲撃したこともあるという。


 私はその信じがたい情報に、困惑した。

 まさか日本最北の地で、そのような怪異が密かに誕生していたとは知らなかったのだ。

 どちらかというと妖怪というよりUMAの類のような気もするが、私のブログではそういうのも扱っているので全然アリだ。


 さっそく私はモーテルを飛び出し、目撃情報多数らしいとある街へと向かった。

 都会というほどでもないが、思っていたよりはそこそこに活気があり人通りもある。

 こんな街で熊鮫なんて出現したら、SNSで拡散されているはずだが。


 とりあえずそのあたりを歩いている学生集団に声をかけてみる。

 熊鮫って知ってる? と。


 すると、皆揃って「知ってる」と返事するではないか。

 どうやら有名らしい。見たことあると答えた子供もいた。


 熊鮫って一体なんなの? と聞いてみる。

 すると学生たちはこんなことを教えてくれたのだった。


 「熊鮫はねえ。キムンカムイ(熊の神)がプチ整形した姿なんだって」


 プチ整形? と私は首を傾げた。

 随分今風な単語が出てきたものだ。


 学生たちはこちらが驚くのが面白いのか、こぞって情報を足してくれた。


 「ほら、いま世界では鮫映画が人気じゃん? どういうわけか知らないけど、山の神も鮫映画を気に入ったみたいでさ。熊の体に背ビレや牙を付けて、川を鮫みたいに泳げるようにしたんだって」


 どこ情報だよ、と突っ込みたくなるような内容だった。

 大自然のカムイが鮫映画を観るわけないだろ。あまりに荒唐無稽すぎる。

 しかし目撃情報が多数あるらしく、少なくとも学生たちはその話を信じているようだった。

 

 結局、私はなんだか急激にやる気の行き場をなくして、その日のうちに北海道を発った。

 今回入手した情報、熊鮫のことをブログに載せるべきだろうか。

 確実にネタ扱い、ないし捏造扱いされる気がしてならない。

 しかし他にはこれといって特段目新しい情報もないのも事実だ。


 幾分か迷ったあげく、私は熊鮫を知った経緯をそのままブログに載せることにした。

 なんだか怒られる気もしたが、まあどこかの界隈で笑いものになれば、まだ旅行の甲斐もあったというものだろう。


 そうして数年後。

 私のブログに紹介された熊鮫の噂を原作として映画化された「カムイシャーク」は日本を超えて世界中で大ヒットしたのだった。


 鮫映画好きのキムンカムイたちも喜んでくれることだろうと思う。


【後書き】

 本作に登場する熊鮫は、実は私の夢の中に出てきたことがある。

 いつか何かのネタに使えるかと思っていたのだが、本作挑戦時に物語を補強するため登場させたのだ。


 結果、プチ整形という必須要素と微妙なシナジーが生じて、このなんともいえないオチがひねり出されたのだった。

 カムイをこういう扱いにするのは良くないのだろうが、近年の鮫映画は割といろんな方面に冒涜的なのである意味それらしいと言えなくもないか。 


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