国民の義務ですから
お題 : 記録にない時計
必須要素 : テレビ
制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)
某通販サイトから、買った覚えのない時計が贈られてきた。すでに代金は支払われているらしく、私は玄関でそれを受け取った。
荷物の宛名は確かに私の名前、私の住所である。配達間違いではないらしい。
宅配員に急かされて受け取りのハンコを押す。
受け取ってしまってもいいのだろうか、と心の中で疑問の声が上がる。
軽く脳みそをシェイクしてみるが、やはり時計なんかを買った記憶はなかった。
通販サイトのアカウントから、自分の購入履歴を確認してみる。
やはり時計を購入したような記録は残っていなかった。
もちろん出金記録もないので、私の身銭は一切減っていない。
少なくとも私のアカウントでは、時計の注文はしていないことは確かだ。
であれば、どういうことになるのだろうか。
自分で買ったわけではないのに、私の家に荷物が届いているのはなぜだろう。
誰かが私に時計の贈り物でもしたというのだろうか?
あるいは、現在進行形でなんらかの詐欺の手口に引っかかっているのだろうか?
とりあえず、荷物の中身を確認してみよう。そう思った。
荷物には「配達物:時計」と書かれたシールタグが貼られている。
手に持った印象もそんなに重くなく、時計が入っていると言われればそうなのかもと思う。
しかしだからといって、本当に中身が時計だという保証はない。
蓋を開けてみたら、全く違う商品かもしれないではないか。
それに本当に時計が入っていたとして、そこに盗聴器が仕掛けられている可能性だってある。
とにかく確認だ。
逸る気持ちを押さえつつ、包装箱を手荒に開封する。
中から姿を現したのは、ちょっと厚みのある板状のプレートだった。
製品パッケージ箱などは付属しておらず、包装箱の中に剥き出しの状態で入っていた。
液晶画面が一面についており、見た目はいかにもタブレットPCのようである。
思ったよりも高額な製品なのではないかと感じられ、何故だか怖気づいてしまう。
壊したりしたら後で弁償させられたりしないだろうか。
そういうタイプの詐欺を想像してしまう。
よく見ると、説明書と思わしき紙切れが一枚、包装箱の中に同封されていた。
それによると、どうやらこの製品は本当にただの時計であるらしかった。
タブレットの見た目に反して、ネットブラウジング機能もなければ音楽や動画の視聴も全くできないと書かれている。
液晶画面でくっきりと現在時刻を映し出す。暗闇でも光る機能付き。
どうやら「タブレットみたいな見かけの時計」というコンセプトのインテリア製品らしかった。
ただ一つ、目玉機能として説明書に記載されていた当製品の特殊な使い方。
それは日本の公共放送のワンセグ機能であった。
美麗な液晶画面で公共放送を堪能できると、自慢げに記されていたのである。
無駄な機能が付いた時計もどき製品を、一体どこの誰が送りつけてきたのか。
この説明書きを見た瞬間、私は全てを理解した気がした。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
訪問者は誰なのか。嫌な予感がした。
ついこの間、玄関先で追い返した相手の顔が瞬時に思い起こされる。
――いやあ、うち、テレビとかないんで。
――残念だなあ。アイフォンはワンセグできないんすわ。いやあ残念っすわあ。
脳内で、かつての自分の言葉が再生される。
いや、まさか、そこまでやるか。嘘だろ。
しつこく鳴り続けるインターホンに根負けし、私はおそるおそる玄関を開けた。
そこには予想通りの顔があった。
「さきほど製品は届きましたよね? これでうちの番組が見れるようになりますよ」
男は禍々しい笑みを浮かべて、そう言った。
どうやら私の負けのようだった。
「それでは……受信料を払ってもらいましょうか?」
【後書き】
お題と必須要素を作品内にどう盛り込むかは即興小説の肝だ。
しかしネタが思いつかないと単に小道具や台詞として消化するだけになってしまうことが多々ある。
その点、本作はある程度ちゃんと物語の構成要素として消化できたので、展開の強引さはともかくとしてけっこう気に入っている。




