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もしかしてボーイズによろしく

お題   : もしかしてボーイズ

必須要素 : ヘッドホン

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)


 豊水駅の三番ホームにはある噂があった。


 ホーム上でヘッドホンを耳に当て、大音量をガンガン鳴らしてはいけない。

 そのルールを破ると、謎の集団「もしかしてボーイズ」がどこからともなくやってきて。

 あなたをどこかへ連れ去ってしまうのだ。


 「あほらしいわ。ただの噂でしょ」

 「そんなことないよぅ。四組の横光さんもこのルールを破って行方不明になったんだって」

 

 ある日の帰り道。

 親友のキヌちゃんが唐突に語ってくれた噂話を、私は呆れ顔で聞いていた。

 

 「大体なんなの、もしかしてボーイズって。アイドルグループか何かなの?」

 「分かってないなぁ。そこはほら、よく分からないから怖いんじゃないの。分かるでしょ」

 聞いているこっちが訳わからなくなりそうなことを言うキヌちゃん。


 「もしかしてボーイズは、今女子高生の間で超話題新進気鋭の怪談なんだよ! もしかして知らないの? なーみんってば、おっくれってるぅ!」

 「なーみん言うな。その呼び方嫌いなんだから」


 というかその噂話、ホラーの類なのか。 

 変態集団の誘拐話かと思ったわ。


 「だから今日さ、豊水駅に一緒に行ってみない?」

 「は? ふざけろ。一人で行けし。うちは嫌だし」

 豊水駅はここから最寄りの駅で電車に乗って三駅ほどの場所にある。

 徒歩圏内で通学できる私に、わざわざ今から電車に乗れというのかこいつは。


 「何しに行くつもりよ」

 「もっちろん、もしかしてボーイズに会いに行くんだよっ! いえい!」

 「それ、私必要?」

 「必要だよ! むしろなーみんがいてくれないと始まらないよ! なーみん!」

 もう行く気満々で鼻息荒くしているキヌちゃん。 

 言い出したら聞かないからなぁ。


 「ねぇ。ダメかな? ダメかなぁ?」

 目を潤ませながら私の顔を覗き込むキヌちゃん。うう、こうなると私は弱い。


 「しっかたないわねぇ。付き合ってあげるわよ」

 「わぁい! これだからなーみん大好き!」

 結局私は折れた。


 「あと、もう一つお願いなんだけど」

 「なによ。一応聞いてあげるわよ」

 キヌちゃんがもじもじしはじめる。


 「ええとね。なーみんの家って、ここの近くだったよね」

 「そうだけど、それが何か?」 

 問いただす私を見て、キヌちゃんはにっこりと笑った。


 「ヘッドホンを家から取ってきてくれない? もしかしてボーイズを呼び出すのに必要でしょ」

 自分で用意しとけや。



 ◇◇◇


 そういうわけでやってきた豊水駅、三番ホーム。

 これほど無意味な電車賃の使い道もないなと思いつつ、私は辺りを見渡す。

 夕方ということもあって、そこそこに人が行き交っていた。


 こんな場所で本当にもしかしてボーイズなどという変態集団もとい怪奇ユニットが現れるのだろうか。はなはだ疑問だ。

 ホームの上はまだまだ明るいし、お化けが出る雰囲気じゃないと思うけど。


 「じゃあさっそくヘッドホン被って、ガンガンに音楽聴いてみてよ。なーみん!」

 「は? なんで私が?」

 「だって私、連れ去られたくないし」

 本当に怖がっている様子でキヌちゃんが首を振った。

 何それ。私なら連れ去られてもいいってわけなの?


 ともあれ、せっかくここまで来て何もしないのは本当に電車賃の浪費なので、仕方なく私はヘッドホンを耳に装着した。

 そしてスマホにコードを差し込むと、お気に入りの曲を流し始める。大音量で。


 「なーみん! 全然音が漏れてないよ! もっとボリュームを上げて!」

 「いや、これ以上は耳が痛いし! やだし!」

 両耳に音を流し込んでいるので、私の声が図らずも大きくなってしまい、周囲の人がこちらをちらちらと見てきた。恥ずかしい。


 「なーみん! 私の声が聞こえる? 聞こえるならまだまだ音が足りてないよ!」

 「分かったわよ! やりゃいいんでしょやりゃあ!」

 そう叫ぶと、私はボリュームを最大まで上げ切った。

 すると周囲の音がまったく聞こえなくなった。当たり前だ。


 「〇×△◇~! ××~!!」

 キヌちゃんが何か言ってるけど、全然聞こえなーい!

 どうだおらぁ! これで満足やろがい!


 耳元でお気に入りの曲が、かつてないほどの大音量で流れ出る!

 推しが「俺なら耳元だぜ」とか耳元で言ってる! やばいこれ!

 図らずも至福の時間の到来だ! 脳汁出る! もうやけくそじゃい!


 そんな感じで音の奔流が脳にダイレクトに浸透して軽くトリップした私。

 なんだか軽く眩暈までしてくる始末。難聴になりそう。

 これやばいかも……とか思っていると、不意に肩を叩かれた。


 キヌちゃんかなと思って顔を上げると、そこには。

 知らない男の人が三人ほどで、私の周りに立っていた。


 これはまさか。

 慌てて音楽を停止させて、私は訊ねた。


 「も、もしかして、もしかしてボーイズさんですか?」

 「いや、駅員ですけど」


 私は駅務室に連行された。

 そして、大音量で音楽を聴くのはホームでも電車内でもマナー違反だと説教されたのだった。



 ◇◇◇


 次の日、学校に行くと、失踪したと噂の四組の横光さんと会った。

 ただの無断欠席だったらしい。


 私は教室につくと真っ先に、挨拶してきたキヌちゃんをしばき倒したのだった。


 ちなみに「もしかしてボーイズ」の名前の由来だけど。

 ヘッドホンで大音量の音楽を流していた男を注意していた駅員さんたちが、漏れて聞こえた音楽を聴いて「もしかしてその曲△△ですか」「もしかして○○のファンなんですか?」と嬉しそうにはしゃぎ始めたのがSNSで拡散されて名付けられたんだってさ。



【後書き】

 とんちきお題シリーズ。もしかしてボーイズって何だよ。

 たしかこのお題の消化方法を考えるのに二十分くらい使わされた記憶がある。


 こういうお題からポンポンとアイディアが出てくるようになりたいなぁ、と当時も今も思っている。

 

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