文化祭ブラックマジック
お題 : 黒尽くめの善人
必須要素 : イタリア
制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)
「人口が肥大化する時代が嫌になって未来からやってきた偉大な支配者が苛々して差し向けた殺戮の機械が火柱あげて、しまいにゃイタリア全土に被害が広まって滅びるっていう筋書きのお芝居はどうかな?」
「いやいや、理解が出来ないわ。こっちがリタイアするわ」
放課後。
文化祭の出し物として演劇をすることがクラスメイトたちのノリと勢いで急遽決定した今日この頃。
大事な大事な台本作りを担当することになったのが、何を隠そう目の前にいる私の親友キヌちゃんであった。
早速だけど親友の考え出した劇のあらすじが意味不明すぎて親友辞めたくなってきた今日この頃。
冒頭のやりとりだけをみると、どれだけ「いあいあ」で韻を踏めるか挑戦するゲームでもしているようにみえるかもしれないが、当然そうではない。
キヌちゃんがどうしても私と一緒に劇の内容を考えたいなどと言い出すから、仕方なくこうやって放課後の閑散とした教室に居残って話相手になってやっているのだ。
なので感謝してほしいし、劇の内容は真面目に考えてほしいと思う。
「ええ、面白いと思うけどなぁー」
キヌちゃんが不貞腐れた顔で私を見る。あんたの頭のなかでどんな傑作が生まれたか知らんけど、そのイメージが百パーセント私に伝わってると思わないことね。
「でも盛り上がると思うよぉ。クライマックスの爆発シーンなんかすっごい大迫力で、観客大興奮間違いなしなんだから!」
「火薬でも使うつもり? 映画じゃなくて演劇だって分かってる?」
身振り手振りで自分の考えた物語を表現しようとするキヌちゃんだったが、当然ながら何ひとつ私には伝わらなかった。伝えるつもりがあるかどうかも怪しいが。
「それでね。この、人口が肥大化する時代が嫌になって未来からやってきた偉大な支配者が苛々して差し向けた殺戮の機械が火柱あげて、しまいにゃイタリア全土に被害が広まって滅びるっていう筋書きのお芝居なんだけどさぁ」
「コピペのごとく繰り返すのやめろや」
所々の押韻が妙なリズムを生み出すから、聞いていて頭がおかしくなりそうだ。
「衣装係の子たちから、簡単に作れる衣装しか作れないから、簡単に作れる衣装しか出てこないような物語にしてねって言われてるんだよねー。簡単に作れる衣装ってどんなのかなぁ?」
「簡単に作れる衣装ってワードを怒涛のように繰り返すのもやめろや」
さっきからあんたは壊れたレコードか何かか?
「あと役者担当の子たちから、悪役を演じたくないから悪役を出さないでって言われてるんだけど」
「あんたの考えたシナリオ早速アウトじゃん。イタリア滅ぼす未来の支配者出てくるじゃん」
私の冷静な提言に、キヌちゃんはじとーっとした目で私を睨みつける。
「さっきから聞いてりゃ、なーみんってば、文句しか言ってなくない?」
「なーみん言うな。その呼び方嫌いなんだから」
「なんか建設的な意見出してよ。なーみん」
「てめぇ……」
横面を叩きそうになる右手を押さえつつ、頼ってくれている親友のために、私も私なりに一応考えてみることにする。
キヌちゃんの考えたトンチキあらすじ。
衣装係の要望である「簡単に作れる衣装」。
役者たちの要望である「悪役NG」。
衣装係以外のことは無視しても良い気がするが、とりあえずぱっと思いついたことを口にする。
「登場人物は全員、黒尽くめの善人ってことで良くね?」
黒尽くめの衣装なら簡単に作れそうだし、悪役もいない。完璧である。
「さっすがなーみん! これで文化祭に勝てる!」
喜びはしゃぐキヌちゃんを見て、私も一安心だ。
まぁまともな台本にはならないだろうが、私の責任じゃないしどうでもいいよもう。
ーーー
そうして迎えた文化祭当日。演劇本番。
キヌちゃんはあのあらすじから嘘のように感動的な傑作台本を仕上げてきた。
クラスメイトの熱の入った練習も実り、劇の完成度はかなり高まっていた。
ただ、全身黒尽くめだったので、暗い体育館での上演のため役者はほとんど闇に紛れて観客から見えなかったのがとても残念であった。
【後書き】
自作のなかで同じ登場人物を使いまわした唯一の即興小説。
お題が難解だったが、一応はオチに絡められたので割と気に入っている作品。
時間があればラスト部分をもう少し分かりやすい文章にしたかった。そこは反省点。




