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はじめはただの競争だったんです

お題   : 臆病な猫

必須要素 : 三角関係

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)

 面白がった外野の誰かが、僕らの関係を三角関係だと呼んだ。そんなことを言うのはきっとアイツかアイツあたりだろうと見当はつく。

 僕らは決してそんな甘ったるい名称で形容できるような関係性ではない。むしろ逆だ。

 僕と彼女は今、同じ相手を巡ってバッチバチの闘争状態にあると言ってよかった。

 

 いつだったか。あれは高校三年の冬。

 帰宅途中の道すがら、民家を囲うブロック塀の上に座る一匹の猫に出会った。

 茶色の毛並みの中にうっすらと黒の縞模様。詳しくはないが茶トラ猫あたりだろうか。

 首輪などはついていないようなので、おそらく野良猫だろうと思う。

 このあたりじゃ今日び猫なんて見ないなぁと思いつつ、その仕草が妙に可愛らしくて、僕はついつい足を止めてその猫を眺めることにした。

 猫はこちらには気付かなかったようで、ずっと同じ場所で毛づくろいらしき仕草をしている。

 可愛い。可愛いが過ぎる。

 無限に眺めていられそうな気がした。


 だけれど何分か経ったあたりで、流石にただじっと見ているのにも次第に飽きてきた。

 無限に眺めていられそうな気がした、というのはどうやら気のせいだったらしい。

 猫くらいなら動画サイトでいくらでも眺めていられるこの時代である。視覚を満足させたいという欲求はすぐに満たされてしまう。それに夕暮れの冬の寒空の下で立ちっぱなしはやっぱり寒い。


 すると今度は別の欲求が心の中にじわじわと浮かんできた。

 あの可愛い可愛い猫ちゃんに、おさわりしてえよなぁ。

 視覚の次は触覚を満たしたい。

 頭を撫でて、肉球をぷにぷにとつまんで、さらには猫のお腹に顔を埋めてもふもふしたい。

 人が猫を目の前にしてそのように感じるのは自然なことのように思われた。野良猫ならば病原菌等を持っているかもしれないので顔面もふもふはともかくとして、撫でるくらいは許されてもいいのではないだろうか。


 意を決してそっと猫に近づこうとしたその時。

 背後からすっと人影が飛び出してきた。

 颯爽と一直線にブロック塀へと向かっていったその人影は、塀の上の猫に向かって思いっきり手を伸ばす。殴るつもりなのかと思うくらいの性急でガサツなスピードだった。

 すると猫は寸前で接近者に気が付いたのか、素っ頓狂な鳴き声をあげると、ひらりと塀の向こうに飛び込んでしまった。


 「ぐぬぬ、今日も逃げられたかぁ……」

 そんな恨めしそうな声をあげたその人物は、僕の学校の制服を着ていた。

 そして僕の存在に今さら気付いたかのようにこちらを向いて、あっと気まずそうな顔を見せてきた。

 それまであまり馴染みのなかった同じクラスの女子、梅村さんだった。


 その時の僕は、なんだか自分の行動を邪魔されたかのように感じて少々苛立っていたのだと思う。

 「ちょっとちょっと、いきなりやってきて横取りするなんて酷くないか?」

 などと、自分にあの猫を触る権利が当然あったかのような言葉が口をついて出た。

 

 すると彼女は、何を言ってるんだこいつ、と言いたそうな表情になった。

 多分実際にそう思っていたのだろう。

 「横取りじゃないもん。あの猫ちゃんは私が先週からずっと目をつけてたんですぅー」

 彼女は彼女で、自分に何らかの権利があるかのようなことを堂々とのたまっていた。

 まともに話すのは初めてだが、なんだか生意気そうな子だなというのが第一印象だった。


 「あの猫ちゃんはなんだかすっごく怖がりみたいでね。私が撫でようとするとすぐに逃げちゃうんだよねー」

 そりゃあんな襲い掛かるような勢いで近づいたら、臆病でなくても逃げると思う。


 「きみも猫ちゃん触ろうとしてたの? ふぅん、意外と動物好きなんだねー」

 彼女はそういうとにっこりと笑う。

 「だったらあの猫ちゃん、どっちが先に触れるか競争だね!」

 クラスでは一度も見たことのないその素敵な笑顔に、僕は思わずどきりとした。


 それ以降、僕は放課後の帰り道に彼女と一緒に帰る機会が増えた。

 猫ちゃんはどうやら僕の帰宅道によく出没するらしいからだ。


 そんな僕らを見て、クラスの連中は三角関係かなどと囃し立てる。

 僕と彼女と猫、ただ三つの存在が並んでいるだけの関係性。

 どちらが先に猫ちゃんを触れるかの、ただの争い。


 その関係は今日もまだ続いている。


【後書き】

 時系列的には私にとって一番最初の即興小説バトル参加作品となる本作。

 それまではずっと制限時間15分で挑戦していたが、初の1時間トライアルだった。


 結果、お題と必須要素に忠実に取り組もうとしたのが見て取れるストレートな内容になった。

 そしてどうやら文章一つがやたら長いのとオチが弱いのはこの頃からの課題だったらしい。

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