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高砂の尾のうへへ

お題:   明るい靴

必須要素: うへへ

制限時間: 1時間(即興小説バトル参加作品)

 うへ。

 

 【名詞】表面、うわべ。

 【名詞】上、上方。

 【名詞】付近、ほとり。

 (途中略)


 【名詞】御方様。(名称に添えることで尊敬、慕う気持ちを表す)


ーーーーーー


 「あの山の峰に咲く桜の美しさは、如何ばかりでございましょう」

 そう貴方は呟きました。


 私がふと貴方の見つめる彼方に目を向けますと、そこには頂きを桃色に染めた高砂の山がありました。確かに思い返せば季節は春でございます。

 遠目にも色鮮やかな桜の花びらが、新しい季節の訪れを知らせてくれる時期がいつのまにかすぐそこまで来ていたようでした。


 しかしながらその桜の美の程も、貴方には到底叶いますまい。

 唐局上からつぼねのうへと言えば、宮廷でも随一の美しさと評判でございますゆえ。


 「わたくし、あの桜を間近で見てみたいものですわ。ご一緒してくださらないかしら」

 そのようなことを貴方は仰られました。魅力的な提案ではありましたが、いつもながら言い出すのが急なもので困ります。


 「今夜出発しましょう。月の煌めきの下であの美しい桜景色を眺めてみたいの」

 「しかしながら、夜に外出など貴方の御身分では許されるはずがありません。ましてやあの山まで辿り着くのに一晩で足りるはずもないでしょう」

 そのように諭してみたところで、貴方が容易く聞いてくださるはずはありませんでした。

 

 「私は絶対にあの山に向かいます。行かねばならないのです」

 何が貴方をそこまで固執させるのでしょうか。


 「せめて日を改めて、宮の者たちと共に準備してからにしませんか?」

 「どうしても今日行きたいのです。桜の花はいつ散ってしまうか分かりませんもの。今夜発つのが遅いのならば、今すぐに出発しましょう」

 確かに今すぐ向かえば夜半にはあの山の頂に辿り着くかもしれません。


 「しかし、あの山の周囲をごらんなさい。他にも低い山がいくつか見えるでしょう。あれらの山々は春になるといつも夜に霞がかかるのです。そのような場所を迂闊に通ろうものなら、すぐに山の中で迷い込んでしまいますよ」

 そのような話をいつだったか人里を訪れた際に聞いておりましたので、それを思い出して進言したのでございました。実際に彼の山は毎年何人も神隠しにあっているという噂でありました。


 この忠言はいささか貴方の心に響いたようで、その美しき顔が微かに歪むのが見て取れました。すぐに顔を逸らされた挙句に微かな舌打ちが聞こえましたが、私としてはそのような貴方も好ましく思っております。


 ところが、しばらく経たないうちに貴方は何かを思いついたようにその身を跳ねると、大急ぎでどこかへと走り去ってしまいました。私も慌ててお供に追従します。


 御自身の部屋に飛び込んで物入棚を漁りだした貴方は、ほどなくして何やら面妖なものをその手に抱えて私に見せつけるように突き出したのでございます。


 「見てください。これがあれば何も問題ありませんね」

 「……これは一体、何なのでしょうか」

 貴方が抱えているものが何なのか、皆目見当もつかない私でありました。


 「これは、光る靴なのです」

 「靴、ですか」

 靴とは、あれでしょうか。足履物のことでしょうか。

 目の前のものは、私の知っているそれとは異なるようでした。


 「今のそちには理解できないでしょうが、これは靴なのです。踏みしめるとかかとの部分が光り輝いて辺りを照らすのです。軽快に走ることもできるのです。コーナーで差が付くのです」

 貴方が楽しそうに捲し立てたその言葉はよく理解できませんでしたが、貴方がいうならそれは正しいのでしょう。


 未だに私にはよく分かりませんが、貴方は時折、未来の時代の物をどこからか入手していることはよく存じておりますよ。


 「貴方の分もありますよ。ともにこの明るく光る靴を履けば、夕べには山につきますし、夜闇に迷うこともありませんからね」

 そういうと貴方は靴を履き始めました。


 貴方が言うなら、それは正しいのでしょう。


【後書き】

 お題や必須要素にわりと高頻度で出てくる「うへへ」。

 これを引き当ててしまうと大抵その作品はギャグ寄りにならざるを得ない。(個人差があります)


 それを回避すべく私は「うへへ」を古語の「上へ」と解釈し、文体も古風にすることによって雅な物語を演出しようと試みた。

 結果、なぜか途中からSF要素が入ってきて大いに迷走してしまうことに。

 これはどうするのが正解だったのか、今でも正直分からない。


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