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間違いだらけの開発会議

お題   : 官能的なブランド品

必須要素 : ゴム

制限時間 : 1時間(即興小説バトル参加作品)

 「室長、準備が出来ました」

 「おお、助手くん。ご苦労」


 神納製薬の第三研究室では、今日も今日とて世間をあっと驚かせる新商品を開発すべく、会社の命運をその双肩に載せた開発チームのメンバーが集まっていた。


 なお開発メンバーは私と室長の二人である。

 他の連中は冬のボーナスカットに失望して他社に移ったのだ。裏切り者どもめ。

 奴らに後悔を味わわせるためにもここはひとつ、日本中の度肝を抜くような何かを開発して大ヒットさせたいものである。

 そうは気負っても、まだ企画すらまともに挙がっていないのだが。


 「ところで室長。新商品のアイディアはあるんですか?」

 「うむ、一応な」


 私の問いに、室長は自信ありげに頷いた。

 まあ経験上、室長から大したアイディアは出たためしがない。

 従ってあまり期待はしていない。


 「助手くん。君はゴムというものについてどれくらい知っているかね」

 「ゴム、ですか?」


 私は首を傾げた。

 ゴムについて知らないというわけではないが、その質問の意図が分かりかねる。

 我が神納製薬は基本的に医療品がメインで、他にはちょっとした自社開発の健康食品や菓子類を扱っている。

 ゴムは薬でも食べ物でもないので、うちの会社ではあまり馴染みがないのだ。


 「元来、ゴムというものは樹木を傷つけることによって滲み出てくる樹液を固めたものだ。かつてカリブの島からヨーロッパに持ち込まれたと言われている。あのコロンブスによってな」

 「誰ですか、コロンブス」

 「知らんのか、クリストファー・コロンブス。SOUL'd_OUTの歌にも出てくるだろう」

 「知らないですね。マニアックな話をされても困りますよ。これだから平成生まれは」


 こちらの指摘に室長はむっとした顔をしたが、話が前に進まないと思ったのか深呼吸をして言った。


 「脱線したが、コロンブスのことはどうでもいい。言いたかったのは、ゴムの本来の作り方というのは実はガムと同じなのだ。極端に言えば、ゴムとガムはもともと同じものだったのだよ」

 「そうなんですか」

 「厳密には違うが概ねそうだ。口に入れて風味を楽しむ嗜好品がガム、工芸品に使うものはゴム。ちなみにゴムはオランダ語。英語ではラバーという」


 その豆知識、いる? と思ったが口には出さなかった。

 でも何か相槌を打たなければ相手に失礼と思い、とりあえず頭にパッと浮かんだことを言った。


 「恋人の暗示のスタンドですか? それとも節制の本体の方?」

 「よく分からんが君の方がマニアックな話をしてないか? 脱線するからやめたまえ」


 室長が顔をしかめたので、私は肩をすくめてやった。


 「つまり何が言いたいんですか、室長?」

 「つまりこういうことだ。我が社では一応チューイングガムを扱っているだろう? そして今言った通りガムの製法はゴムと似ている。よって我が社ではゴムの開発も問題なくできるはずだ」

 「な、なるほど、ということは……?」

 「これまでの発想の枠を飛び出して、ゴムを使ったアイディアを形にした新製品の企画が可能なはずだ」


 室長は自信をもって断言した。

 私は驚きと同時に歓喜を覚える。これまでの我が社のノウハウにゴムという視点を加えることで、今まで思いつかなかった画期的なアイディアが生まれる予感に身が震えたのだ。


 なお後にして思えば、ガムを作っている会社がゴムを簡単に作れるというのは大間違いであった。

 おおかた室長がWIKIPEDIAで適当な知識を仕入れたに違いない。

 しかしこのときの私たちは、そんなことにすら気付かなかった。


 「我が社は一応、お客様の健康を第一に考えることを使命としている。であればそのノウハウを活かしてヘルスケア商品を作るのはどうかね、助手くん」

 「……室長。思いつきましたよ。これまでの我が社になかった新たな商品案が!」


 私の言葉に室長は目を細めた。


 「ほう、述べてみたまえ。助手くん」

 「ゴム、といえばまっさきに思いつくのはやはりコンドームでしょう」

 「な、なんと。その発想はなかった!」


 私の提案に室長は目を見開いた。


 「我が社のガムをもとに作られたゴムを素材とするコンドーム……これを神納製薬のブランドで売ればもしかしたら大ヒットするかもしれません」

 「た、たしかに。後追いの立場とはいえ、これまでに培ってきた販路を使えば日本中で営業できるはずだ。それに主な取引先であるドラッグストアはガムもコンドームも両方扱っている。これはかなり売り出しやすいといえるだろう」


 前提からおかしいうえに知識も所々間違っているので、その先の展開も当然おかしくなる。

 このようにして私と室長の開発企画会議は延々と脱線しつづけていく。


 これも第三研究室のいつもの光景であった。


【後書き】

 このお題+この必須要素だと、そりゃあこういうネタになるよねとしか言いようがない。

 実際、この時のバトル参加者のなかではネタ被りがあったような記憶がある。


 こういうコメディ寄りの会話劇は文章も崩し気味に書けるので、気楽にスラスラ執筆が進んだ。

 しかし果たしてそれは文章修練という本来の目的に沿っているのかという疑問もある。


 まあオリジナルで書きたい作品はコメディ寄りだし、問題はないのかもしれない。

 本作で惜しむらくは、ちゃんとオチを付けられなかったことだろうか。

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