トンネル
「拳銃、使っちゃダメなんですか?」
「はい。だってあなたは、消防士ですから」
金髪の彼に聞かれて、私はそう答えた。
「じゃあ、消防車、乗っちゃダメですか?」
「いいですよ、ご自由に」
私がそう告げると、彼は防火服を着て、急いで部屋の外へ走り出した。
私はゆっくりと席を立つと、扉を開け、長い長いトンネルを走る彼の背中に向けて、叫んだ。
「放火犯だっ!!!!」
手負いのガゼルのような勢いで疾走していた彼は、少し小さくなった背中を止め、こちらにくるりと振り返った。
そして叫ぶ。
「そいつはどこですかっ!!!!」
私は叫び返す。
「あなたですっ、あなたが放火犯ですっ!!!」
「じゃあ、手錠、使ってもいいですかっっ!」
「ダメです、だってあなたは、消防士だからっ!!」
「でもっ、誰かが放火犯を捕まえないと、罰しないとっっ!!!」
筒状の通路の中、そうやって二人の叫びが行ったり来たりするのは、まるでセックスのようだと私は思った。
言わずもがな、円筒のトンネルは膣で、繰り返し往復する叫び声は陰茎だ。
そしてその抽送の終着点、つまり発生するべき精液は、金髪の彼の行動となって噴出した。
捕まえて罰さなければいけない、という彼の言葉通り、彼は手元からマッチを取り出して、自分自身に火をつけたのだ。
火刑というのは、古来から異端者や魔女といった、多くの罪人を葬ってきた「罰」である。
彼は、防火服に包まれていて、既に服という文化社会に捕まっていたから、あとは罰されるだけだったのだ。
防火服の中で、彼の衣類や体毛に火が燃え移り、あっという間に松明のような調子で燃え始める。
誘導灯の光の下、長いこと踊るような動きをしていた彼は、やがてどうと音を立てて崩れ落ちた。
結果から言えば、彼は自分自身に火をつけた。
やはり、彼は放火犯だったのだ。




