7.騒めくはしり【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「――はぁい、一ついいですかぁ?大会の優勝賞品。それだけ先に聞かせてください」
ヒートアップする中で、やんわりと手を挙げる新堂。その空虚な眼には、品評の意が映っていた。
問うは当然、金銭的価値。
"パラダイム"に関わるメリットがあるか否かの見定めだ。
ちなみに例に漏れず、声を張り上げている。
「良くぞ聞いてくれた新堂っ、それでこそ本題に戻れるッ」
「ボスの手綱は離しちゃ駄目ですよぉ、瞳くん」
起因や動機はどうでもいい、儲け話しかしたくない主義。
そんな新堂によって場は一旦冷静になる。
「仕切り直してッ、大会とは景品が豪華にあってしかるべし!その景品とは――天恵!!」
レアエネミーを獲物とするなら当然と、瞳ちゃんは胸と腹を張る。
「ほなオレからも質問ええか」
「無論だダークホースよ」
「さっきお宅んリーダーが『殺し合い』言いはったけど、競技は獲物狩りなんやろ?」
次に挙手したのは菅原。
膝にベルタを抱えたまま、大会の定義を探る。
……
…
もし『決闘』や『バトルロイヤル』という競技なら、口は挟まない。殺し合うのが基本だからだ。
――だが『ルシフェル・オンライン』における獲物狩り。
これは、プレイヤー間での戦闘を禁止とする暗黙の了解がある。
なにせ痛みが介在するゲーム。"妨害"が妨害で済むわけなどない。
邪魔が入れば、血みどろの争いは必然。泥仕合が生まれてしまう。
そうなれば獲物狩りという趣旨から逸れ、成り立たない。
…
……
「対人戦なんかエネミー戦なんか、やる事はハッキリしてもらわなアカン」
「結果から言えばどちらも!!言わば、"妨害ありのレイドバトル"となろうッ」
だが告げられたのは統合。
何でもありの手段で、邪魔や殺人を合法とし、一体の強敵を討ったプレイヤーが勝利と言う。
(…ほんなら無しか)
故に菅原は不参加の意思を決めた。
対人は得意で無いという側面もある、しかし何よりベルタの身を案じての決定。
もとより、話を聞くだけのつもりで招かれた。
その理由は、普段関わらない最上位層の空気に触れたいが為。
……沙多と同じく、想像した雰囲気とは違っただろうが。
「妨害ありだぁ?」
「殺し合ってちゃ獲物狩りにならねえだろ」
「しかもレアエネミーなんだろ?余計ジリ貧で倒せねえよ」
一方、他のプレイヤー達も意図を掴みかねていた。
愚策を敢えて取り入れる"パラダイム"へ、至極当然な意見を口々に投じる。
「――殺し合った方が面白いじゃん」
だがポツリと、全てをねじ伏せる一言。
それは沙多の右隣――紅白髪の女性プレイヤーからだった。
「そう!この提案はウチの有栖さんによるものだぜ!?」
「普通にエネミー殺すのも、うち飽きた」
髪で結んだ二つのリングを揺らしながら、億劫そうにテーブルへ体重を預ける彼女。
「お待ちを、進行はこの私が。……ごほん、レアエネミーが相手とて、すぐ死なれては興醒め!故に競合のラインを引き上げ…」
「せっかくのレアエネミーだ!長く遊ぼうぜ!!」
「右頂、進行はこの私がっ!」
本来は決死の覚悟で挑むべき敵を、肴とする。
彼らとってレアエネミーの撃破はもはや"前提"なのだ。
「――それにレアエネミーなんだから、みんな天恵欲しくて必死になるでしょ?邪魔な奴は殺しちゃうくらい」
有栖と呼ばれた紅白髪の彼女は、不穏な笑みを浮かべる。
その目はグルグルと渦巻いて、深淵に塗りつぶされていた。
「……やっぱパラダイム…どいつもこいつもイカレてんな」
それが、この場に居る者の総意。
さらっとレアエネミーを発見する素の力量。それを惜しみもせず、娯楽としてしまう余裕。
その全ては、ただ楽しむため。
まともな感性ではない。固唾を飲む音が静かに響く。
「――けど優勝の商品として成り立たんくない?」
ただ、例外である能天気な沙多の声が響く。
「皆でレアエネミーつついたら、皆に天恵行っちゃうじゃん。優勝した人だけじゃなくて」
天恵という報酬の分配は、戦闘に関わった人全て。
貢献度による良し悪しはあるが――極論トドメを決めずとも一度小突けば、参加賞で天恵を貰えてしまう。
「何でだ?みんなが優勝者の願いと同じ事言えばいいじゃんか」
一方で、首を捻る右頂。
1+1を答えるように、さも簡単という表情。
「言うわけないだろ、人間の醜さ舐めんなよ」
「絶対持ち逃げする奴出てくんだろ」
「やっぱ馬鹿だろ」
皆が一人の為に、願いを捧ぐ。それは人の善性に頼る前提だ。
「――じゃあいいよ、そいつ殺しに行くから」
そこで淡々と宣言するのは紅白髪の有栖。
最強ギルドによる予告。それだけで場の空気は引き締まった。
余談だが、新堂はピクリと肩を揺らした。持ち逃げを考えていたらしい。
「"パラダイム"が言うとシャレになんねえ……」
「というか有栖が一番ヤベエだろ。聞いたか?あの噂」
「掲示板で喧嘩打ったギルドに単騎で突撃して、壊滅させたってやつか?」
バトル系譜のギルドを謳うだけあって、どのメンバーも戦闘狂。
この場にいる三人の内、彼女が一番の狂人。
「マジもんの地雷じゃねえか」
「地雷なのは見た目だけにして欲しいよな」
消費カロリーが最も低そうな性格に反していると、各所でヒソヒソと起こる戦慄。
「はッ?死ね殺すっ」
だがそれが有栖の逆鱗に触れた。
インベントリより杖を召喚。指揮棒のような短い片手杖。
「――【氷元素】!」
それを振るえば、巨大な氷塊が出現。
【属性術師】の職によるスキルだった。
氷属性を思うままに繰り出し、念力のように投擲していく。
「やッばいやばいッ」
まず隣に座る沙多が避難。
円卓テーブルの下に素早く身を隠す。
次にはあちこちで悲鳴が上がった。
「有栖、業値は下げないようにするのですぞっ?」
「そうだぞッ!マジで殺したら裏ギルド行きだぞ!」
ついでに巻き添えになる右頂と瞳ちゃん。
だが当然のようにヒラリと躱し、ゲームシステムについて言及する余裕を見せる。
「大丈夫、半殺しにするだけッ!!」
「なら良しっ」
「良しちゃうわッ!」
ガシャンと連鎖する粉砕音。パラパラと降り注ぐ冷たい欠片。
瞳ちゃんに太鼓判を押され、暴走はさらに勢い付く。
これに菅原がツッコみながら【アイアス】を展開。多重の障壁にてベルタを死守。
無論、言葉通りに殺意は薄っぺらい。
とはいえ当たり所によって致命傷たり得る。
各々がスキルやアイテムを駆使し、防御ないし回避の手段を迫られた。
「ガチで収拾つかないんだけど!?」
頭上で響く、一際大きい有栖の金切声。
そのキンキンとした荒れ模様。場が騒がしくとも明確に聞こえた。
悲鳴を上げる沙多は、同じく円卓の下に隠れる二人に問いかける。
「ねえちょっと!どうすんの!?」
「しばらく有栖の思うままにやらせるのが吉ですなッ」
「だな!しばらくすれば落ち着くだろ有栖さんも!」
「今なんとかしろ!!」
そして返答に頭を抱えた。
同時に――ああ、このギルド、全員声でかいんだ。という感想が渦巻く。
対面に声が届かないほど巨大な円卓。
これに不便という意見が挙げられず、改装されていない理由に漠然と納得した。
「ふざけんなテメェ!」
「情緒どうなってやがるッ」
だが方々で慟哭は止まらない。
今もなお被害は拡大中だ。
とはいえ、その対策は完全燃焼を待つのみとされる。
鎮める方法は無いと断言し――
「――フム、ここが召集の場であるか」
ベアルが入室した。
同じく招かれていたはずの、だが確かに姿が無かった悪魔。
しかしタイミングが最悪。
今ズカズカと立ち入ったそこは、まさに災害と化した現場。
暴れる氷塊はベアルに向かい――
「ムゥ?」
当然のように生身で打ち砕いた。
構えたわけでもない、ただの"棒立ち"。
しかし薄氷のように【属性術師】の攻撃を無力化。
これにピタっと魔力の流れを止める有栖。
ヒンヤリとした空間に、静寂が訪れた。
「来たかっ…――大目玉!!」
そしてテーブル下からひょっこりと顔を出す右頂。
バチンとゴーグルを降ろし、目に装着した。
この会議室は体育館くらいの大きさです。
*↓ガチ謝罪
活動報告で触れた一章リメイクの話ですが、間に合いませんでした。
来週の月曜までには絶対やります。まだ自分いけます、信じてください




