6.動く切っ掛け【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「沙多さん、こちらを目に通してください」
「それ招待状?」
その波は、新堂の時計台にも来ていた。
「おや、既にご存じでしたか」
ヒラヒラと揺らす手紙。
それは前日、太った男が渡したものと同一。
彼が率いるこの組織も、一定の水準を満たした勢力と判断されたようだ。
「で、アンタは行くん?」
「もちろん行きますよぉ?このご時世に手紙とは、僕好みですので」
雰囲気を評価する新堂。
彼もまた、『ルシフェル・オンライン』の世界観を楽しむ感性がある。何か通じるものがあるのだろう。
とはいえ金の亡者でもあるが。
「何より、それを抜きにしても行く理由は充分ですねぇ。――なにせ、"パラダイム"からの接触ですので」
「パラダイム?」
その言葉に沙多はピクリと反応。
ソファに横たわる彼女は、ムクリと起き上がった。
「なんだっけそれ、聞いたことある」
「"バトル"系譜のギルドです。それも、このゲームで最上位層の」
「あ~通りで聞いたことあるわけね」
団長の書斎室で寛ぐ沙多。
「"タマモ"が消えた今、最強候補の筆頭です」という補足を聴きながらクッキーをひと摘まみ。
その手は『三つの裏ギルドとの商談』という以前の約束を完遂し、リラックスモードだった。
「曲がりなりにも僕のギルド所属なんですから、情報には聡くあってくださいよぉ」
「あ、無くなった。クッキー買ってくる」
「……最近は楽しんでるようで何よりです」
『ルシフェル・オンライン』でだらける姿を見て、新堂は言葉をぐっと飲みこむ。
――だが本題からは逃がさない。
彼が壁に手を付けば【錬金術師】の錬成を発動。
壁を伝い、扉まで。そして扉を伝い、錠前までスキルは到達し――ガチャリと鍵は閉められた。
「チッ」
「まぁまぁ、話だけでも。NPCすらいない屋台へ買い物に行くより、面白い話ですよぉ?」
逃亡に失敗した沙多は、仕方なく視線を手紙へ戻す。
書かれているのは人数制限――代表者一人に、同伴は最大二人までという内容。
言われずとも、何を求められるかは分かってしまった。
「また良いように使われてんじゃんアタシッ!他の幹部はどこ行ったし!!」
「出払っています。調査に交渉、やる事ずくめです。むしろ君が暇すぎるんですよ?」
強気に抗議する沙多。だが事実その通りで逆らえない。
正論を言われた彼女の手は、行き場を失う。
ギルドメンバーでありながら、ギルドに貢献せず私情で徘徊している事自体、特別なのだ。
本来ならば、ノルマや義務を課されても不思議ではない。遊びではない、真剣のギルドだったらなおさら。
「以前言ったように、君は対人戦に長けている。そして今回は"バトルギルド"。抗争になる場合を考えれば、君を選ばない理由はない」
沙多が寝転がる居間のテーブルでなく、書斎の机。団長用の椅子へと座る新堂。
真面目な話をする際の合図だった。
「ってか謎なんだけど。【占星術師】が不意打ち向いてるってのは分かるよ?自由にスキル選べるし…」
「『――でも不意打ちだけなら他の職で良い』、そう言いたげな顔ですねぇ」
一言一句を読まれた沙多は、彼の元へ寄る。
ただ対面に座るのではなく新堂の背後。椅子の背もたれに寄り掛かった。
彼女の眼下には後頭部こと、緑色の天然パーマが広がる。
「職など些末です。極論、攻撃スキル一つあれば問題ない」
「ホントに極論じゃん。スキルの多さとか、攻撃力の高さとか色々あるでしょ」
「重要なのは"殺す意思"なんです」
意味不明と、床を蹴り椅子を回転させる沙多。
遊園地のコーヒーカップさながら二人はクルクル回る。
「――いいですか?このゲーム、人を殺そうとすれば殺せるんですよぉ?」
やがて新堂はピタリと足で自転を止めた。
「とはいえ人は殺しにも"意義"を探してしまう生き物。何せ良識と常識を、現実という人生で培ったのだから」
慣性を殺された突然の急停止。
しかし沙多は椅子の後頭部から振り落とされなかった。
「怯んでしまう常人でも、興奮する狂人でも、なんであれ思考が一瞬頭に舞い込む」
これは所詮ゲーム。されど痛みがある。
そんな世界での"殺し"の感触は、現実と遜色ない。
――自分が手をかけるのか?
――これがどんな影響を及ぼすか?
どんなプレイヤーにも平等に、畏怖や愉悦といった感情が脳裏に過ぎる。
「――しかし君にはノイズが無い。だから強いんです」
「…人を頭おかしいみたいに言わんでくんない?躊躇うくらいするし」
頬を膨らませる沙多が捉えたのは、新堂の背中のみ。表情は見えない。
ただ彼の声音は、道化のようにおどけていた。
「いいえ、君の意識はそれより先にある。揺らがない行動は、それだけで人を圧倒します」
新堂は首を持ち上げ、背もたれ上の沙多と視線が交差する。
まるで楽しそうな、珍生物を眺めるような表情だった。
「有象無象は目にも入れない。止まると死ぬマグロを見てるみたいで、僕は好きですよぉ?」
「マ…グロッ…?」
それが沙多を選んだ起因。
利益に貢献しない彼女を、好き好んで在籍させている理由。
一方で、話の着地点が魚になった沙多は脳が理解を拒んでた。
「――と言いましたが、話し合いだけで終わる可能性もあります。本日の商談のように」
ここで空気をガラッと入れ替え、立ち上がる新堂。
背中をポキポキと鳴らしながら、穏便に終わる可能性も示唆した。
とはいえそれが都合の良い話だと沙多にも分かる。
大抵は予想通りにいかない。そんな訝しげな視線を彼に向けた。
「では取引です。手紙に同行してくれるのなら、"良いもの"でも差し上げましょう」
彼もそれは百も承知。
なのでこうして物で釣る。
「え~じゃあ、アタシの借金消してよ」
「嫌です君にはまだ借りを作っておくべきと、僕の勘が言っている」
だがあくまで話の主導権は握り、利益計上は忘れない。
沙多の修道服や星屑の杖、ついでに回復薬などの諸々は、新堂による贈り物。
金額にすれば、軽自動車すら買えてしまうほど。現在もその半分すら返せていない。
それでも無期限かつ、利子もゼロの破格条件ではあるが。
「代わりに、アクセサリーや武器でも見繕いましょうかぁ?」
「絶対また借金にする気じゃん」
新堂を追い出し、団長専用の椅子にドサリと腰を下ろす沙多。
如何にも辟易といった様子だ。
「それにアンタ知ってんじゃん、アタシが欲しいのはレアエネミーの情報だって」
「今は君に差し出せる手持ちの情報がありません。我慢してください」
新堂は教え子を窘めるような、柔和な表情を作る。
交渉用の手札として一体くらい隠し持っていそうだが、追及するだけ無駄だろう。
(ってもアタシは装備強化したしなー)
さらに衣服や武器は、割と最近に補強済み。
"タマモ"の傭兵として雇われた報酬があった。
故に装備と聞いても食指がイマイチそそられず――
「――あっ」
しかしふと、一つの妙案が思いついた。
「ねえ、それならさっ――」
やがて沙多の口から告げられた条件。
それに新堂はコクリと頷いて、交渉成立。招待状に記された日を迎える。
沙多さんのシリアス気質が抜けるのは、新堂と一緒の時だけです
たぶん新堂は狙っておちゃらけてる。沙多が居ないときはちゃんと冷徹
余談ですが、来週までに一章の"ギルド崩し編"をリメイクする予定です。
番外編も追加するので、暇だったら見に来てください




