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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
五章.遊戯のまにまに編

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6.動く切っ掛け【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「沙多さん、こちらを目に通してください」

「それ招待状?」


 その波は、新堂の時計台(ギルド)にも来ていた。


「おや、既にご存じでしたか」


 ヒラヒラと揺らす手紙。

 それは前日、太った男が渡したものと同一。

 彼が率いるこの組織も、一定の水準を満たした勢力と判断されたようだ。


「で、アンタは行くん?」

「もちろん行きますよぉ?このご時世に手紙とは、僕好みですので」


 雰囲気を評価する新堂。

 彼もまた、『ルシフェル・オンライン』の世界観を楽しむ感性がある。何か通じるものがあるのだろう。

 とはいえ金の亡者でもあるが。


「何より、それを抜きにしても行く理由は充分ですねぇ。――なにせ、"パラダイム"からの接触ですので」

「パラダイム?」


 その言葉に沙多はピクリと反応。

 ソファに横たわる彼女は、ムクリと起き上がった。


「なんだっけそれ、聞いたことある」

「"バトル"系譜のギルドです。それも、このゲームで最上位層(トップレベル)の」

「あ~通りで聞いたことあるわけね」


 団長(マスター)の書斎室で(くつろ)ぐ沙多。

 「"タマモ"が消えた今、最強候補の筆頭です」という補足を聴きながらクッキーをひと摘まみ。


 その手は『三つの裏ギルドとの商談』という以前の約束を完遂し、リラックスモードだった。


「曲がりなりにも僕のギルド所属なんですから、情報には聡くあってくださいよぉ」

「あ、無くなった。クッキー買ってくる」

「……最近は楽しんでるようで何よりです」


 『ルシフェル・オンライン』でだらける姿を見て、新堂は言葉をぐっと飲みこむ。

――だが本題からは逃がさない。


 彼が壁に手を付けば【錬金術師(アルケミスト)】の錬成(スキル)を発動。

 壁を伝い、扉まで。そして扉を伝い、錠前までスキルは到達し――ガチャリと鍵は閉められた。


「チッ」

「まぁまぁ、話だけでも。NPCすらいない屋台へ買い物に行くより、面白い話ですよぉ?」


 逃亡に失敗した沙多は、仕方なく視線を手紙へ戻す。

 書かれているのは人数制限――代表者一人に、同伴は最大二人までという内容。

 

 言われずとも、何を求められるかは分かってしまった。


「また良いように使われてんじゃんアタシッ!他の幹部はどこ行ったし!!」

「出払っています。調査に交渉、やる事ずくめです。むしろ君が(フリー)すぎるんですよ?」


 強気に抗議する沙多。だが事実その通りで逆らえない。

 正論を言われた彼女の手は、行き場を失う。


 ギルドメンバーでありながら、ギルドに貢献せず私情で徘徊している事自体、特別なのだ。

 本来ならば、ノルマや義務を課されても不思議ではない。遊び(エンジョイ)ではない、真剣(ガチ)のギルドだったらなおさら。

 

「以前言ったように、君は対人戦(PvP)に長けている。そして今回は"バトルギルド"。抗争になる場合を考えれば、君を選ばない理由はない」


 沙多が寝転がる居間のテーブルでなく、書斎の机。団長用の椅子へと座る新堂。

 真面目な話をする際の合図だった。


「ってか謎なんだけど。【占星術師】が不意打ち向いてるってのは分かるよ?自由にスキル選べるし…」

「『――でも不意打ちだけなら他の(ジョブ)で良い』、そう言いたげな顔ですねぇ」

 

 一言一句を読まれた沙多は、彼の元へ寄る。


 ただ対面に座るのではなく新堂の背後。椅子の背もたれに寄り掛かった。

 彼女の眼下には後頭部こと、緑色の天然パーマが広がる。


(ジョブ)など些末です。極論、攻撃スキル一つあれば問題ない」

「ホントに極論じゃん。スキルの多さとか、攻撃力の高さとか色々あるでしょ」

「重要なのは"殺す意思"なんです」

 

 意味不明と、床を蹴り椅子を回転させる沙多。

 遊園地のコーヒーカップさながら二人はクルクル回る。


「――いいですか?このゲーム、人を()()()()()()()()()()んですよぉ?」


 やがて新堂はピタリと足で自転を止めた。

 

「とはいえ人は殺しにも"意義"を探してしまう生き物。何せ良識と常識を、現実という人生で培ったのだから」


 慣性を殺された突然の急停止。

 しかし沙多は椅子の後頭部から振り落とされなかった。


「怯んでしまう常人でも、興奮する狂人でも、なんであれ思考が一瞬頭に舞い込む」


 これは所詮ゲーム。されど痛みがある。

 そんな世界での"殺し"の感触は、現実と遜色ない。


――自分が手をかけるのか?

――これがどんな影響を及ぼすか?


 どんなプレイヤーにも平等に、畏怖や愉悦といった感情が脳裏に過ぎる。


「――しかし君にはノイズ(それ)が無い。だから強いんです」

「…人を頭おかしいみたいに言わんでくんない?躊躇うくらいするし」

 

 頬を膨らませる沙多が捉えたのは、新堂の背中のみ。表情は見えない。

 ただ彼の声音は、道化のようにおどけていた。


「いいえ、君の意識はそれより先にある。揺らがない行動は、それだけで人を圧倒します」


 新堂は首を持ち上げ、背もたれ上の沙多と視線が交差する。

 まるで楽しそうな、珍生物を眺めるような表情だった。

 

「有象無象は目にも入れない。止まると死ぬマグロを見てるみたいで、僕は好きですよぉ?」

「マ…グロッ…?」


 それが沙多を選んだ起因。

 利益に貢献しない彼女を、好き好んで在籍させている理由。

 

 一方で、話の着地点が魚になった沙多は脳が理解を拒んでた。

 

「――と言いましたが、話し合いだけで終わる可能性もあります。本日の商談のように」


 ここで空気をガラッと入れ替え、立ち上がる新堂。

 背中をポキポキと鳴らしながら、穏便に終わる可能性も示唆した。


 とはいえそれが都合の良い話だと沙多にも分かる。

 大抵は予想通りにいかない。そんな訝しげな視線を彼に向けた。


「では取引です。手紙(これ)に同行してくれるのなら、"良いもの"でも差し上げましょう」


 彼もそれは百も承知。

 なのでこうして物で釣る。


「え~じゃあ、アタシの借金消してよ」

「嫌です君にはまだ()()を作っておくべきと、僕の勘が言っている」


 だがあくまで話の主導権は握り、利益計上は忘れない。

 

 沙多の修道(シスター)服や星屑の杖、ついでに回復薬(ポーション)などの諸々は、新堂による贈り物。

 金額にすれば、軽自動車すら買えてしまうほど。現在もその半分すら返せていない。

 それでも無期限かつ、利子もゼロの破格条件ではあるが。 

 

「代わりに、アクセサリーや武器でも見繕いましょうかぁ?」

「絶対また借金にする気じゃん」


 新堂を追い出し、団長専用の椅子にドサリと腰を下ろす沙多。

 如何にも辟易といった様子だ。


「それにアンタ知ってんじゃん、アタシが欲しいのはレアエネミーの情報だって」

「今は君に差し出せる手持ちの情報がありません。我慢してください」


 新堂は教え子を窘めるような、柔和な表情を作る。

 交渉用の手札として一体くらい隠し持っていそうだが、追及するだけ無駄だろう。


(ってもアタシは装備強化したしなー)


 さらに衣服や武器は、割と最近に補強済み。

 "タマモ"の傭兵として雇われた報酬があった。

 

 故に装備と聞いても食指がイマイチそそられず――

 

「――あっ」


 しかしふと、一つの妙案が思いついた。 


「ねえ、それならさっ――」


 やがて沙多の口から告げられた条件。

 それに新堂はコクリと頷いて、交渉成立。招待状に記された日を迎える。


沙多さんのシリアス気質が抜けるのは、新堂と一緒の時だけです

たぶん新堂は狙っておちゃらけてる。沙多が居ないときはちゃんと冷徹


余談ですが、来週までに一章の"ギルド崩し編"をリメイクする予定です。

番外編も追加するので、暇だったら見に来てください

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