5.ゲームの誘い【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「うわ、すごっ」
後日、ゲームにログインした沙多は感嘆を零す。
彼女の目の前には、金銀財宝がじゃらじゃらと鳴っていた。
「量エグいじゃん。これ幾らくらいあるん?」
「ざっと250万くらいか?」
それは菅原のインベントリから絶え間なく姿を見せたもの。
つまりはベアルを預けた間の稼ぎだ。なんとも驚くべき金額に思わず目を輝かす。
「アイテムとか素材を換金すれば、さらにプラスんなるな」
「多分だけど、すごい稼いでたんだよねっ?ウチら」
金銭感覚がズレているベルタも、流石に異常さは分かるらしい。
火山に立つ住居の前で、興奮を隠せない。
「ただ今回はモロ"おんぶにだっこ"や。山分けっちゅう訳にはいかん」
しかしそう言って、報酬の大半を沙多へと譲渡した。
――ベアルではなく沙多へ。
「…なんでアタシ?」
「ベアルの兄ちゃんがインベントリの操作苦手っちゅうから、預かってん」
「だからスガが持ってんのね…」
未だゲームシステムの理解だけは不得手。菅原もお手上げだった。
ならば一人で悪魔を長期間うろつかせるには早い。
まだ介護が必要と、渋々回収しながら悩む沙多。
「…でもガチでありがとねっ、大変だったっしょ?あちこち向かわせちゃって」
「ううんっ、楽しかったよ!色んな所を冒険できて」
試しにと、両手でカメラさながらフレームワークを形作るベルタ。
「エネミーの技もたくさん模写出来たしっ」
それは彼女にしか持ちえない特別。プレイヤーでないが為に与えられた、スキル以上の技能だ。
向ける対象は沙多。カシャリと指のシャッターを閉じれば――
「――わっ、めっちゃ綺麗になったんですけどっ、なにこれ凄っ!!」
「でしょ?状態異常を自己回復できるエネミーの技なの!汗とか汚れもリフレッシュできちゃうんだよ!?」
「えっ服も!?神の技じゃん!」
見れば沙多の修道服についた土埃や染みは一瞬で消え、新品同然に。
新しい技に盛り上がる女子二人。
「あれは感情が昂るほどの御業であるのか?」
「便利やとは思うけど……オレもよう分からんわ」
一方、菅原と悪魔は首を捻る。
「そういやあの技、数十個もストックしてたな…」「フム、時折道中で長座したのはその為か」と数日間の出稼ぎを思い出し、親睦は慮外に深まっていた。
「他にはどんな技コピったの?」
「えーとね、後は…」
演芸会さながら、ベルタの技のお披露目。
「――失礼っ」
――だがそれは、誰かの声によって中断された。
「皆様方にこれを進呈」
やや低めの男の声。
そんな者の手には一通の手紙。
ダイレクトメッセージなどがあるこのゲームで、古典的な連絡手段だった。
「…こんな火山地帯までご足労なこったな」
瞬間、菅原は女子二人を庇うように一歩前へ。封筒を受け取る。
それでも直前まで接近に悟れなかった緊張は隠せない。
(こいつ…デカいな…)
警戒する視線の先には、キリリとした表情の彼。
力士よろしくチョンマゲを結っている。
――そしてなにより、巨躯だった。……正確に言うなら、横に。
「すごっ、今めっちゃ速くなかった?」
「『デブのくせに』か?誉め言葉として受け取ろう」
「言っとらんし」
沙多の言葉にキメ顔で、ポーズも返す彼。
その度に贅肉が揺れ、生まれる躍動感。装備として着る銀の鎖帷子がなんとも苦しそう。
「ねえねえ、何の手紙なのかなっ?」
「なんやろな、見てみよか」
ビリビリと開封し、字を仰ぐ菅原。
だが、数秒後には不可解と顔が曇った。
「……招待状?」
***
「我々はある基準を元に、手紙を配って回っている!」
「ある基準ってなにっ?」
「よくぞ聞いてくれたッ」
舞台さながら天を仰ぐ男。全くもって動きがうるさい。
純粋無垢なベルタですら、己が質問しておきながら「カロリー高いや」という感想だ。
「手紙を配るきっかけは――ひとえに貴殿の存在だッ!」
ビシッと指を差す先は、ベアル・ゼブル。
「吾であるか?」
横にデカい巨躯が、縦にデカい巨躯へと向き合う。
「掲示板にて流れるその噂は語るまでもない。ここのギルドマスターは貴殿かッ?」
「いや、オレやけど」
「またもや失礼ッ」
肥満の男の背後には神殿さながら建つギルド。
それを見て、確信した様子で一同を見据えた。
「貴殿らは昨今を騒がす勢力となっている!その勢いは破竹の如しッ、最上位層と揶揄する声もあるッ。だからこそ、声をかけるに至った!」
次には団長である菅原と向き合い、身振り手振りで経緯を語る彼。
――ざっくりまとめるなら、強者と呼べる者に片っ端から配っているらしい。
「是非とも記された日時、指定された場所にお越しいただきたいっ」
「てか目の前にいるんだから直で言えば良くない?なんでわざわざ手紙なん」
しかしやり方が回りくどい。
今はコスパやタイパが重視される時代。
目的も全て、今ここで洗いざらい話すのがスマートだろう。
「――何を言っている、これこそが乙だろう」
だが、答える男の瞳は澄んでいた。
「ゲームなんだ。これが一番ワクワクするだろう?」
黒塗りの目が、光を映したまま真っ直ぐに問いかけてくる。
その信念に、沙多は口を閉ざすしかない。
「ではこれにて失礼する。出来れば招待を優先するように…――ほんとにお願いします」
最後に弱音の念押しをすれば、男は去っていく。
――ただ、やはり異常な速さだった。
音と同化したようにあっという間。後ろ姿は小さくなる。
「はっやッ…なんのスキルよあれ…」
「職もよう分からんかったな」
「フム、見かけによらず俊敏であるな」
その速度は、悪魔も関心を寄せるほど。
本来ならドシンドシンと揺れるはずが、凪さながら塵一つ立たない退場だった。
***
「それで、どうするの?純貴」
「罠ではなさそうやし行ってもええんけど…」
まるで嵐が去ったような静寂。
男の存在感にうなされるまま、ベルタはリーダーに判断を問う。
――ただ一つ、思い違いが発生している。
「ベアルの兄ちゃん、俺らんギルド所属してへんのよなぁ…」
「確かに……勘違いしてたよねあの人」
件の男は悪魔を見込んで、菅原のギルドを招待した。
だが実際は無所属。ベアルはただ同行しているだけ。
言ってしまえば、赤の他人を招いてしまったのだ。
「あれやな……告白で呼び出したら、違う人が来た感じの気まずさやな」
掲示板を含め、彼らは一つの団体と捉えられてしまっている。
なんなら先のように団長すら間違われるケースもまちまち。
「もうホントに入れちゃえば?」
「業値マイナスやから、入れへんやろギルド」
ならばいっそ事実にしてしまえと勧めるも、仕様が許さない。
PKなどの犯罪行為を経た者は、正式にギルドへ入れない。
故に非正規の集まりこと、裏ギルドが存在する。
「え、じゃあ行くのやめとく?」
「ホンマはそうすんのが正解なんやろうけど…――オレ個人が興味あんねんなぁ…」
だが歯切れの悪い菅原は、首に手を当て唸る。
「今後を考えれば顔は出しとかなアカン、そんな気がしとる」
「珍しいね、スガが自我だすの」
「言い方。ロボットちゃうからオレ」
とはいえゲーム内で菅原は、ベルタや仲間を第一に行動していたのも事実。
だが今は個人の観点でギルドという団体を動かす。
それほどの何かが、魅力として働いたという事だ。
「ねえ純貴、その招待された場所はどこ?ウチはどこでも付いてくよっ!」
「…ありがとなベルタ」
「イチャついてんなー」という感想が全身を駆け巡る沙多。
この場からフェードアウトした方が良いか?とも思った。
なお、悪魔は既にエネミー狩りを再開している。
「場所は……結構遠めやな。ゲームん中でも端っこらしい」
一方で二人は手紙に記された場所を確認。パサリと紙の軋みが静かに訴える。
すると菅原は肩を竦めた。
「こりゃ厳しいわ、移動だけで丸一日かかる距離や」
故に断念。
同行すると言うベルタの負担も考えれば、菅原は己の我儘を飲み干した。
「え、何で?テレポート使えばいいじゃん」
思わず首を突っ込む沙多。
休憩所として設立されている街には、相互間を繋ぐ機能がある。
それを用い、最寄りの街までワープすればいいと説くが――
「――なぁ沙多、テレポートって…お金掛かるんやで……?」
「あっ…」
遠い目をする彼に、全てを悟った。
日常パートからストーリーが動きつつあります。
今更だけど菅原のログイン率は異常。
沙多さんも夏休み入ったのでゲーム頻度は上がってる。バイトもクビだし




