5.ゲームの誘い【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
ベルタの日記より――
***
・7月31日。(たぶん)
・ウチが生まれて大体10ヶ月?
今日、純貴に怒られた。
理由はもちろん『賞金首狩り』。危なすぎるって泣きそうなくらいガン詰めされた。
お金は金貨六枚、つまり60万円くらい増えた。向こうの世界なら多分、結構な金額のはず。
それを見せたら、純貴の口は止まった。
あのまま怒られてたらほんとに泣いちゃうところだった。
でもその後、「無事で良かった」って抱きしめられた。これ!この事は絶対記録しておかなきゃっ!
※もしウチが死んでも、ここだけはちゃんと読み返すように!
***
・8月1日。(たぶん)
・ウチが生まれて大体11ヶ月?
今日は、あんちゃんと『狩場』巡り。
宗谷くん付き添いで、美味しいポイントをまとめてもらった。
すごい帰りたそうな目をしていたけど、多分気のせいだと思う。
あと、たくさんのエネミーもコピー出来た。
今まで火山の敵ばかりだったから、色んな技が使えるのは楽しい。
特に凄いのは鹿みたいなエネミーから獲れた技。状態異常を回復してくれる。
これからは変な木の実を食べて、体調を崩しても安心だ。
ついでにこの技を使えば、純貴を@&$&¥〇△◆♀♂※★…(――掻き消されて解読不能)
***
・8月2日。(たぶん)
やっぱりあんちゃんは、エネミーを倒すより『大会』で荒稼ぎするのが好きらしい。
今日は真美ちゃんと光平くんの従姉弟コンビに付き添いをお願いした。
純貴はウチが大会とかに出るのを渋っているからお願いできない。多分すっごい大事にされてる、ウチ。
でも確かに危ない場面があった。
全部あんちゃんが防いでくれたけど、ウチ一人だったら死んでたかもしれない時がある。
少し前、【アイアンメイデン】で死にかけた日もあったし、気を付けないと。
……【死霊術師】のスキルかっこいいなぁ。
ウチもそれっぽい必殺技を練習しようと思う。
***
・8月3日。(たぶん)
日記を付けていると「日記である必要はあるのか?」と、あんちゃんに聞かれた。
…確かに自分でも不思議だ。何で日記にしようと思ったのか。
ただ、『記憶をセーブするときは日記とかレポートにするのが定番』という概念がウチの中に忍び込んでいた。
これもママの記憶かな?まあ、別にいいや。
人に見られないような残し方なら何でもいい。
その点あんちゃんは安心だ。ウチが目の前で書いていても、内容に興味が無い。
流石にウチも、この日記を誰かに見られるのは恥ずかしい。
特に純貴には秘密だ。色々見せちゃいけないものが――
***
「――おはようさん」
「ぎゃああああぁあぁぁッッッ!!」
瞬間、『ルシフェル・オンライン』にログインする菅原。
突如と現れた声に、ベルタはビクンと飛び跳ねる。
「…どないしたんベルタ」
「あ~ダメダメっ!!見ちゃ駄目!!」
次には完全に捉えられた日記。
思わず両手でカメラワークを形作り、シャッターを切る。
「駄目っ今だけはウチの部屋から出てって!!」
彼女の自室へ訪れるも、麻痺効果を持つエネミーの技にて歓迎される菅原。
「あっぶなアホ!!いきなし技撃つなやッ!?」
奇跡的にも彼はこれを回避。
次には思わずベルタの両手を掴んで封じ――近くのベッドに抑え込んだ。
「駄目だって純貴ッ、もうそっちは許すから日記だけは――」
「――落ち着かんかぁぁっっ!」
お互いに悲鳴がこだました。
***
「あれ、アタシ……」
――沙多は冷水を浴びせられたような気分だった。
眼前に聳える建物。ジリジリと熱い空気に揺れる影に、ごくりと喉を鳴らす。
「なんで…ここに居んの……?」
確かにバス停を目指していた脚。だが現実は――とある病院の前。
全く自覚が無かった。
魔法で涼んでいたはずが、タラリと汗が頬を伝う。
(…お姉ちゃんはもう居ないのに)
補足するならば、姉が身を置き、足しげく通っていた病院だ。
本来ならば既に用はない。
だがその意思に反して体は、自動ドアをも潜っていく。
踏み入れば、クーラーで調整された室温。白い床が靴の音を正確に反射する。
そのまま廊下を進めば、呼び止められることもなく、やがて階段へ。
(…正直、やってる事ヤバいけど)
病室へ繋がる通路は、乾いた匂いがした。
「これ普通に不法侵入だよね?」と後ろめたさはある。
(…ここだ)
だが姉が暮らしていた部屋へ辿り着けば、それらの葛藤は消えた。
ただ無心で扉に手をかければ――
「誰もいない…」
当たり前だが、無人。
病室には名札も無い。分かりきっていた事だった。もう誰の為でもない空間。
とはいえ懐かしさはあった。
清掃された、昔となんら変わらない部屋構造。
ガードレール付きの白いベッド、傍には机に花瓶が置かれ、失踪当時さながらVR機器がポツンと――
「――なんであんのッ!?」
二度見からの絶叫をした。存在しないはずの代物が主張していて。
ゴシゴシと目を擦るも幻覚ではない。確かにこの病室に、それはあった。
ただ、見たことのない機種。
形は姉の所有していたものと瓜二つ。しかし拾い上げれば、まるで重量を感じない。
そもそも触れている感触すら無く、輪郭も歪。
この次元に存在しているのかすらも曖昧だ。
「なんか気持ち悪いし…――ッうァ!?」
試しに装着すれば、視界はノイズのように埋まっていた。
手癖のままベッドに寝転がり、電源を付ける。
すると沙多はビクンと身を痙攣させた。
(魔力…吸われ…ッなんで…!?)
スキル行使とは比べ物にならない倦怠感。
同時に悟った。これはVR機器による消費。
電力の代わりに、魔力を使われているのだと。
(こんなん秒で魔力切れ……ヤバ…)
平然とこれを行使し続けるベアルを異常性を再認識。
とはいえ悠長でいられない。
血が全て抜かれ、キンと冷えていく感覚。
魔力の変換を、己の意思で制御できない。
慌てる指がVR機を外すよりも早く、意識が白濁となり、遂に途絶えて――
***
『――これが私の"妹"か』
静かな声が響いた。
言うなれば脳内に直接。まるで天恵のようだった。
淡々と無機質な、だが感情の籠った声音。
(…お姉ちゃん……?じゃ…ない…)
その声の持ち主の姿は朧気。視覚がまともに機能しない。
VR画面によるものか、朦朧とした意識のせいかは不明。
『正確には私でなく以前の…いや、違う。これじゃないな』
何かを小言とするその輪郭は霧のよう。
辛うじて女性で、自分よりも長身。断片的にそんな情報が拾えるだけで――
『――久しぶり、沙多ちゃん』
刹那、心臓が跳ねた。
姉に似た、しかし非なる別人。
だがこの瞬間、確かに探し求めた者の面影と完全に重なった。
『もう私を感じられるようになったんだ。凄いよ。…けど無理は駄目だよ?』
言葉遣いや抑揚、優しく包むような話し方が本人そのもの。
かつての病院に通った日々が脳裏に溢れた。
嬉しそうに困り眉を作る表情や、儚くも沙多すら逆らえないような包容。
その声はしばらく続き、温もりを享受するが――
『――逆だ。無理をしてもらわないと困る』
突如、様子が変化。
人格が切り替わったように、淡々とした声音へと戻る。
沙多はこれを追求しようとするも、動けない。
ただ一方的に聞かされるだけ。
心臓すらも支配されているようだった。
『私の結び目をいち早く破壊せよ。そのための天恵だ』
次には触れられた感覚。
正体不明の人物に、全身を包まれていると意識が告げている。
無機質は語りとは裏腹、仄かに体温を感じた。
『故に一つ、お前を導くとしよう』
その瞬間、紫紺と桃色の髪が見えた。
まるで沙多の鏡写し。同じ色彩。
だがグラデーションは異なった。
表と裏にそれぞれ忍ばせるのではなく、綺麗に混ざり合っている。
『――その為にお前はいる。ゲームの変革者となるのだ』
やがて意識は薄れゆく。
その言葉も意味も、内容も分からないまま、水面下から浮上していく。
***
「――かはッ…!?はぁっ…はぁっ…」
覚醒した沙多は、呼吸を思い出すように肩を揺らした。
魔力が切れ気味なのか、ズキズキと頭痛が疼く。
傍には投げ出されたVR。自分で外したのどうかも分からなかった。
それでも沙多は追及を止めない。
あの邂逅を求め、再びVRへ手を伸ばすが…。
「…えっ?」
バラバラとそれは朽ちていってしまった。
融解されたように、痕跡すら残らない。
この部屋で起きた一連の体験は、まるで白昼夢ようだった。
(なんだったんだろ今の…。ゲームて、『ルシフェル・オンライン』の事よね…?)
具体的な指標はやはり分からない。
だが、とにかく進み続けるしかない。
進路をアレコレ考えるよりも、ただそれしかない。そう言われたような気がした。
――――――
――――
――
あれから色々と探るも、手掛かりは無し。結局これ以上の進展は望めなかった。
大人しく病院を後にする沙多。
「あっつ…」
すると途端に灼熱の外気に晒される。
ジリジリと焼かれる感覚に襲われ、再び涼む為にインベントリから長杖を召喚。
スキル発動のため構えるが…。
「……魔力無いんだった」
久しい"何か"の存在と引き換えに、蒸し暑さに晒される選択を余儀なくされた。
二人がバカやってる間、沙多さんは真面目にシリアスやってます




