4.目立つ頃合い【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
75.gok大宜都市-阿波井区>
【ほんとゴミ。ありえない、今思い返しても腹立つ】
101.ase豊受市-須倍区>
【↑こいつ頭イカレすぎ。前騒いでたのと同じ奴だろ、何時まで引っ張ってんだ】
107.gok大宜都市-阿波井区>
【↑は?殺す。あのガセでうちらがどんだけ損したと思ってんの】
129.ase豊受市-須倍区>
【↑やってみろや、どうせ掲示板だけの威勢だろ雑魚が】
手帳からアクセスする掲示板。そこは口論の嵐だった。
菅原の言う通り、情報を吟味するプレイヤーがヒートアップ。
160.yjb瀬織津市-高角区>
【←129:止めとけ、そいつガチだぞ。もし前騒いでたのと同じなら"パラダイム"だ】
184.ase豊受市-須倍区>
【すいませんした。許してください】
190.gok大宜都市-阿波井区>
【↑許さない殺す】
だが流れが変わる。仲裁者が言うには、『ルシフェル・オンライン』の上位勢力。
そんなギルドのトップランカーだという。
228.orz稲荷市-穴守区>
【草、こいつ終わったな】
231.gok大宜都市-阿波井区>
【↑お前もウザイ殺す】
256.orz稲荷市-穴守区>
【えぇ…】
304.dsg鈿女市-荒立区>
【いうてPKで業値上げると、裏ギルド行きだし心配しなくていいだろ】
333.ota-荒立区>
【そもそも例の『賞金狩り』も来るかもだしな。今はPKのリスクがデカいわ】
337.gok大宜都市-阿波井区>
【うるさい、殺さなくても全員半殺しにする】
361.orz稲荷市-穴守区>
【流石に『賞金狩り』は無理だろ。チートみたいな強さでまともに戦えた奴見たことねえぞ】
378.yjb瀬織津市-高角区>
【↑しかもそいつ、ギルドに入ってるくさい。ならまだ他にも戦力いるって事だろ?】
392.hbu多福市-大谷区>
【前に見たとき、大会中なのにそいつらベンチに座ってたぞ。しかも余裕の優勝】
399.sgn鹿屋野市-中央区>
【やべえダークホースじゃん。最近"タマモ"も潰れたし、もうトップ帯じゃね?そのギルド】
404.gok大宜都市-阿波井区>
【あのぽっと出のギルドも、いつか戦る予定だから】
***
――最近、忙しいなぁ。
それがベルタの感想だった。
要因は紛れもなく、悪魔ことベアル・ゼブルの存在。
何も、この慌ただしさが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
彼女はゲームの中だけの存在。日夜をここで過ごし、菅原らギルドメンバーがログインしない合間も、一人ギルドでポツンと待つ。
「…あっお帰りっ」
「クラゲ娘のみか。ウヌの番いは居らぬのか?」
しかし悪魔に活動の制限は無い。
食事も睡眠も必要とせず『ルシフェル・オンライン』内を徘徊し、時折ベルタの住処へ顔を出す。
それは単なる状況報告。
人間社会やゲームマナーに疎い悪魔が、"やらかさない"為の行動。
彼を預かる上での契約に過ぎない。
「番い…!?え~へへっ、やっぱそう見えちゃう?」
ただ、それでも寂しさが紛れ、素直に嬉しかった。
少女はクネクネと身を揺らし、水色の髪もそれに呼応する。
「純貴はまだログインしてないよっ、まだ来ないんじゃないかなぁ?」
「フム…アヤツが同伴せねば、競技には臨めぬな」
「あ~大会出たいんだっ?」
ベアルは人ならざる人外。
故にゲームに疎い。というか、ほぼ理解していない。
『大会』というシステムも、手帳から受付や登録などを済ませる必要がある。
無論、彼がそれらの操作を円滑に出来るわけもない。
「確かにウチらだけじゃ出られないもんね大会」
加えて、少女も"インベントリ"や"スキル"と言った、プレイヤーの権限が無い。
同じく手帳の機能も持ち得なく、誰かを頼らねばならなかった。
「ウヌのそれは『おぷしょん』とやらではないのか?」
「これはただの日記。ウチの秘密の日課です!あ、純貴たちにも言わないでね?」
一方で彼女の手元には別の手記。
日々の思い出や、このゲームの知識。あとは保険を兼ね、欠かさず書き込んでいる。
今もまさにその途中。
ベアルが帰還するまで日記をつけ、時間を潰していた。
――だがそのペンを握る手は止まり、机に置く。
「…あれ、またお客さんかな?」
ピコンッと響いた通知。
来客を伝える呼び鈴が、ギルド内に走る。
これが最近の忙しさに拍車をかけていた。
良くも悪くも悪魔の存在感は、一部から熱を集めるほど。
「はいは~いっ」
席を立ち、トテトテと玄関へ。そして扉を開けると数名のプレイヤー。
誰も見知らぬ者だった。
「…ここは”賞金狩り”のギルドか?」
不躾な問いに、コクンと頷くベルタ。
それは悪魔の事だ。
掲示板を騒がす常勝無敗。彼の注目度を表す二つ名。
「やっぱりあんちゃん目当ての人だ」と振り返り、ロビー奥に佇む彼を呼ぼうとすれば――
「――【アイアンメイデン】」
刹那、鉄の茨が召喚。
無数の棘を持つ造花と共に、ベルタに襲い掛かる。
(あ、悪者だったかぁっ)
完全に不意を突かれた。
尻目で確認できた殺意、少女の中でやけに冷静な走馬灯が流れ――
「――ウヌは『ぴぃけぇ』とやらであるなッ?」
刹那、悪魔が鉄の茨を引き千切る。
棘すら無視して、それどころか素手でへし折って鉄屑へと変えた。
「チッ、出たな"賞金狩り"!!」
「この前のお礼だッ!」
ベアルが彼らに何をしたのかは分からない。
ただ、相当な恨みを買っていた。
悪魔も悪魔で、売られた喧嘩は全て買うスタイル。闘争の気配を前に肩を回し、笑みを浮かべる。
そうしてシームレスに戦闘が始まった。
「――ウチの愛の巣がぁぁ…!」
しかし戦場はギルドの真ん前。
戦火が建物に飛ばないわけが無かった。
借金がこれ以上増える予感を確信にしながら、ベルタは涙を浮かべ叫んだ。
――――――
――――
――
「守ってくれてありがとう」
「構わぬ、これも契約の一つだ」
無事、何てことなく撃退を終えた悪魔。
殺人者から守ってもらった礼を告げる。九死に一生だ。
だがしかし、被害はあった。
ギルドの前には瓦礫や岩石が散らばり、灰色の外壁には傷や凹みが生じた。
玄関の窓ガラスも全滅だ。
おまけに、ベルタの珍しい石コレクションもお亡くなりになった。
「でも今のは本気で危なかったなぁ……ほんとに死んじゃってたかも…」
……
…
『ルシフェル・オンライン』には、死の代償が発生する。
普通ならばその対価は、半日程度のログイン不可となるクールタイムと――金銭。
特に後者は重要。この世界のゲームマネーは、現金そのもの。
現実とリンクしたゲーム用口座に、少なくない痛手だ。
ただベルタは『ルシフェル・オンライン』のみの存在。
現実には存在しない。
代わりに彼女が失うのは――記憶の一部。
一度は天恵により、記憶を取り戻した。
だが、死の代償という世界の理からは、未だに解き放たれていない。
…
……
(やっぱり日記はまだ続けないとマズイよね)
もし死んでいたら、自分でも分からない何が欠落した。
故に日記を付け、全ての知識を、思い出を、振り返られるようにしておかなければならない。
胸に手を当てる少女。未だ心臓はドクドク鳴っている。
積み重ねてきた記憶の消失は、何としても避けるべきだ。
――とはいえ近況がそれを許さない。
「『ぴぃけぇ』とやらに介する頻度も増しておるな」
「あんちゃんが目立っちゃってるからねぇ」
火山の辺境での来客は増す一方。
殺人者との接敵も、初めてではない。…とはいえ玄関前でのドンパチは今回が初だったが。
閑話休題。
このままでは、支障をきたすことは明白。ベルタの死亡も時間の問題だ。
ついでにギルドの修理費も問題である。
「う~ん……」
エントランスの椅子に腰かけるベルタ。
さてどうするかと、日記を眼下に頭を悩ませる。
「――あっ、じゃあさ!ウチらで『賞金首狩り』をしちゃうっ?」
やがて辿り着くのは、先んじて芽を摘んでいくという目論見。
中途半端な知名度ではなく、いっそより強者として。
安易に手出しできない勢力として名を広める算段だ。
「フム?」
「前にやったでしょ?『賞金首狩り』ならウチらだけで出来ちゃうし」
おまけに菅原などの、ゲームを熟知したプレイヤーが不在でも可能。
なにせ悪人を倒しまくる。ただそれだけだ。
「――それに悪い人ほど、倒したら沢山お金が貰えるはずだよ?」
それが引き金だった。
元よりこの騒動の元凶はベアル。
菅原達のギルドに身を置いているのは、彼が金を欲しているため。
全ての需要が一致する。
「クハハハハッ面白いッ!ならばそれに興じようぞッ」
何より、ただエネミーを狩るだけでは退屈。
そんな悪魔の琴線に触れた。
「では往くぞッ!クラゲ娘よ!」
「えっウチも一緒!?…ちゃんと守ってくれるよね!?」
そうして悪魔はベルタを小脇に抱え出発。
菅原という保護者がいない中、二人は飛び立った。
――言うまでもなく後日、さらに悪評は広まった。
ベルタは危機管理能力がまだまだ甘い。生後一年ほどなので
ちなみに石コレクションの中でのお気に入りが、とぐろを巻いた石。うんこじゃねえか




